第1回 翻訳者が旅を始めたワケ ――フリーランスの特権、無駄にしていませんか?

実践!ノマドライフ2016.01.08

時空を自由に泳ごう

僕は今、正月のショッピングモールにいる。道は渋滞、駐車場も渋滞、レジでまた渋滞。半額のあったか下着を手に入れただけで戦意をすっかり喪失してしまい、初売りチラシをチェックしていたときのウキウキ感は、もはやイライラ感で置き換えられてしまった。
「もう二度と正月に買い物なんて行かない!」。これが、フリーランス翻訳者として働いている僕の新年の誓いである。

ショッピングモールに限らず、東京の混雑ぶりは日常の土日も、正月と大して変わらない。でも、土日が休みの会社勤めの人ならば、車や人の渋滞は当然と割り切り、突撃するしかないだろう。
一方、混雑する土日は避け、空いている平日の昼間に都内でのんびりショッピング、行列店で並ばずにランチ、人気の展覧会をゆっくり鑑賞…こんなことができるのは、“時間”の自由の利くフリーランスの特権である。

フリーランスの特権はそれだけではない。特にパソコンさえあればどこでも仕事ができるとされる翻訳者の場合には、“時間”だけでなく“場所”の自由も利く。
一時「ノマド」という言葉がもてはやされた。遊牧民のように転々と場所を変え、カフェなどを渡り歩きながら働くというワークスタイルだ。僕も渋谷や下北沢のシャレたカフェでPCを開いてみた。正面でMacをいじっている人は、自分に酔いしれているのだろうか。隣でやたら音を出してリターンキーを叩いている人は、ほんとに仕事しているのだろうか。僕もそんな目で見られているのだろうか…そんなことばかり考えてしまい、まったく仕事に集中できなかった。
カフェノマド

(ノマド=おしゃれなカフェじゃない)

真の「ノマド」とは

案の定、ノマドという言葉は市民権を得る前に廃れてしまった感がある。だが、“場所”はなにも都内のおしゃれなカフェに縛られることはない。今やネットは山奥のキャンプ場でも繋がる。10年ほど前の無線通信はコストがかさんだものだが(月10万円超の通信費を請求されたことも!)、今や月数千円で高速な無線通信を利用できる。そして電源も不要だ。バッテリーの持ちが実働ベースで10時間を超えるノートPCも、今や珍しくない。ノートPCとポータブルWi-Fi。これさえあれば道端でも、山の上でも仕事できる。

僕がノマドスタイルで仕事し始めたのは、「ノマド」なんて言葉が生まれるはるか前の2004年頃。ほぼ毎日更新するサッカーニュースの翻訳などで年中無休状態でも、妻の故郷の会津や自分の故郷の名古屋へ帰省しなければならないという必要性から生まれたスタイルだった。
当初は帰省時に仕事をするだけだったが、その後、仕事量がどんどん増えていき、息抜きもできなくなってきた時、「旅をしながら仕事しよう」というアイデアにたどり着いた。
今では、電車や車で全国を一人(または愛犬と一緒に)旅をしながらハードに働いたり、あるいは逆に旅をメインにして、最低限の仕事をこなしつつ、家族や友人との旅行を楽しんでいる。
電車ノマド若草山ノマド

(上:電車で移動中にも仕事、下:奈良の若草山で仕事する?筆者)

複数拠点を持つ「マルハ」

「旅先でちゃんと仕事ができるのか?」と疑問に思われるかもしれない。正直に言うと、効率性という面では確かに問題がある。仕事のはかどり具合は自宅を100とすれば、滞在先のホテルは80、カフェは65、移動中の電車は50といった感じ。
それに守秘義務の問題もある。守秘性のある文書を扱う仕事の場合、データを自宅から持ち出すことはできない。

そうした問題を解決するために新たに始めたのが「マルチハビテーション」というスタイルだ。僕は「マルハ」と呼んでいるが、「複数の生活拠点を持つ」という意味で、自宅以外にセカンドハウスなどを所有・賃借する形をとる。これなら自宅と同等の作業性を確保できるし、守秘義務も守れる。

僕の場合は2年前に新潟県の越後湯沢にリゾートマンションを購入し、今では月の半分程度はそこで仕事をしている。マンションはサウナ・ジャグジー付きの大浴場や20mプール、ジム、レストランまで備えていて、すぐ隣には歩いて行けるスキーゲレンデと温泉があるという好環境だ。
こう書くと「なんと贅沢な!」と思われるかもしれないが、僕は決して富裕層ではない。自宅のローンの返済や2人の息子の教育費に毎月追われ、正月に半額の下着を買って喜んでいるようなしがないアラフォー翻訳者である。でも、フリーランス特権のおかげでバブリー(?)な生活をちょっとだけ味わえている。
リゾートオフィス

(リゾートマンションをオフィス化)

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いかにして旅をしながら翻訳をするのか?
ド庶民がちょっぴりブルジョワなマンションをどう手に入れたのか?
今回の連載コラムでは「どこでも仕事ができる」というフリーランスの貴重な特権を、最大限に生かす方法を紹介していきたい。