第4回 現在形で書かれた原文を訳すには

現代文学翻訳コンテスト2017.02.01

質問に関して

 今回も、質問をいくつかいただいています。視点や時制のことについては、大まかにはカバーできましたから、触れられなかった点について、今考えられる範囲でお答えさせていただきます。

 僕なら原文の順番のまま訳すことを選びます。それが正解かどうかは心もとないですが、この場面で“the hair at the base slightly from her back before wilting and following the curve of her bottom.”という文章は、毛が水を含んでいって重くなり、やがて体に沿うような形になる、という時間の流れもこめられているように見えますので、「ぴんと立つ」→「しなだれる」→「お尻にぴったりつく」という順は、そのまま尊重した方がいいのかなと思います。

 似た質問を、ほかの方からも頂戴しています。僕は「切ったりつなげたりしてもいい」派です。明治の翻訳家になると、二葉亭四迷がツルゲーネフを翻訳した際に、原文と翻訳で句読点を完璧に一致させようとした、なんていうエピソードもあるのですが、現在のところは、原文と翻訳の文の長さは別物、という姿勢のほうが一般的なようです。村上春樹氏の翻訳などが代表例でしょうか。文の長短が作るリズムが、二つの言語ではそれぞれ違うことで、結果としては同じ「雰囲気」の文章になる、という考え方だと思いますし、僕も基本的にはそれにならっています。

 たまたま二人女性作家が続いたので、だったらできるところまで女性作家を取り上げてみよう、と勢い任せにスタートした、というのが正直なところです。とはいえ、それなりに理由もあります。僕はこの社会では男性として生きていますので、どうしても男性的な声のほうが「自然に」思えてしまいます。翻訳者としては、なるだけさまざまな声に触れていたいので、実生活の自分とは違う声であるという題材を意識して選んでいます。

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