第17回 富裕層環境客の接待のコツ

通訳ガイド行脚2008.11.16

おひとり様のVIPに食事を一人で食べていただくべきか
それとも同席すべきか

急激な円高で来日する外国人客も二の足を踏みそうで、ちょっと気になる昨今です。何と言っても観光旅行は平和産業ですから、戦争、テロ、災害、そして経済動向にも直撃の影響を受ける運命は否めません。

そんな中ですが今年は「富裕層観光客」の数が増えています。ファミリーで、カップルで、そしてご主人は業務渡航でも奥様だけがゆったりとした観光を楽しまれるご案内などがポツポツ、ポツポツと1日単位であったり、2日だったりと短期間が多いのですが件数は発生しているのです。

とあるVIPの熟年女性にアテンドしたFさんは、旅行会社から事前に厳しく言われていました。
「大切なお方なので、ハイヤーではガイドは前の席に座り、食事中はご一緒せずガイドは別席で食べるように」
お客様は、70歳を超えるというのにヒール付きの靴を履き、屋外から車にもどられるとすぐにお化粧を直されるなど、なるほどとっても素敵な方でした。しかし、Fさんは悩みました。
「ずっと和気あいあいとご一緒しているのに、お昼の時間になると高級レストランで突然ポツンと彼女だけを置き去りにするのは食事の説明もできずにご不便で、お気の毒な気がするのです。そんな時は何と言って私は席を外したら良いのでしょう? 仲間に尋ねてみると、“I’m going to leave you now.”と言えばいいのよとのことだったのですが…」

食事は別という指示は、本国で常日頃彼女の世話をする秘書からの指示であり、またガイドの食事料金まで高額になっては困るという予算の都合もあったかもしれません。けれどもよく聞いてみれば、お客様は、「私は食が細いので、レストランで出された物をすべて食べられないと失礼ではないかしら?」と心配をされる優しい気持の方のようなのです。そこで私の出した答えはこうでした。

“I have been instructed so you can enjoy lunch by yourself in quietness, and so I’m planning to eat at a separate place. But just in case you’d like to have my company I’d be happy to do so, too. I don’t mind whichever the case it’ll be.”

正直にこんなふうにお尋ねしてみたらどうでしょうかと。
・・・後日、Fさんからは嬉しそうなメールが来ました。「それを言ったらお客様は、『もちろん、是非一緒にいてちょうだい。食事代金はあなたが心配しなくていいのよ』と当然のごとくに言われてお食事中も会話をしながら楽しく過ごしました」

だれをアテンドすることになっても
要は誠意を尽くすこと

相手によってケースバイケースですが、ちょっとした接客のコツがあります。個人的にアテンドする通訳や通訳ガイドは、一般の観光バスガイドさんとは微妙に扱いがことなり、お客様の心に入り込んで一緒になって楽しんでいただけるのが成功の秘訣です。Fさんは数日その女性とご一緒したあと空港では涙のお別れとなりました。ハグしてお別れしたあと彼女は颯爽とゲートに向かわれたのだそうです。そのかっこ良さに人生の素敵な先輩の姿を50代のFさんは見ることができました。

でももちろん、そうでない場合もあります。実は敢えて一人で食事をさせたかったしかるべき理由があったとしたら、ガイド業務を依頼したその秘書の配慮を汲み取れなかったガイドの行動によって、迷惑を被る人も出てくるかもしれません。そのあたりの見極めがとっても重要です。重要だ、VIPだと言われて周囲がピリピリ他の人を寄せ付けない厳重な警戒や配慮をする場合、こちらも緊張しながら現場に臨むと、当のご本人は案外優しくて、物事をあまり気にせずいたって普通の人だったりする場合があります。

要は、たとえお客様がどんな方であったとしても、アテンドする通訳ガイドはいつも同じ誠意の気持ちをもって、相手を心地よくするためにベストを尽くしてゆけば良いのだということです。