第24回 伝統芸能の解説をnative speakerから学んでみる

通訳ガイド行脚2009.06.16

伝統文化の体験コース・ショーアップ型施設が人気
日本の「伝統芸能」を通訳ガイドする…外国人から大変興味を持たれる部分ではありますが、なんとなくハードルが高く感じられてしまう分野です。まずは自分が楽しんで理解し、自分なりに消化したうえで物事を説明するのが望ましいのですが、つい一般的なガイドブックに書かれた説明に留まってしまうケースも多いのではないでしょうか。

伝統芸能鑑賞には時間も費用もかかりがち。ついテレビでのお手軽観賞で納得してしまいがちですが、本物の芸能演技に生で接し鳥肌の立つような感動を覚えたら、きっと日本文化の良さも世界に広まりやすくなるのではないでしょうか。お客様にもそんな体験をしていただければさらに良い訳で、鑑賞するだけでなく興味深い解説でどこまで理解を深めてもらえるかが通訳ガイドの腕の見せどころとなるのですね。

京都には、「祇園コーナー」という茶道・華道・日舞・雅楽・狂言・文楽など様々な伝統文化・芸能を少しずつショーアップさせて紹介している施設が昔から賑わっています。価格もお手頃で、オリエンテーション的に覗き見感覚ならばうってつけ。短時間でもぐいぐい引き込まれて最後は拍手の嵐の感動となります。お手前体験コースもあり、通訳ガイドでここを知らない人はもぐりとまで言われます(http://www.ookinizaidan.com/gioncorner/index.html)。

また最近では、伝統文化をじっくり鑑賞したあと、さらに自ら体験できる場所も人気が出てきました。オリジン・アートプログラム伝統文化体験コースもそのひとつです(http://www.kyoto-machiya.com/origin.html)。能や狂言、書などの専門家の生の演技に加え、native speakerによる英語による解説を受ける、参加者もプロから指導を受けて実習を楽しむのです。狂言師から狂言での笑い方指導を受け、それ以降ツアー中におかしなことがあるとまずは両手を腹にあてて上半身をそらせて、大げさな身振りで「ウワッ、ハッ、ハア~」と、太郎冠者のように笑うようになった外国人のお客様がいらっしゃいました。彼等の様子を見て他のお客様もまた笑うという和やかな場面には思わずこちらの顔もほころびました。

日本文化を専門とする外国人の視点や解説に、新たな発見が
通訳ガイドの視点から興味をひかれるのは、専門講義がその道の研究者・達人でもあるnative speakerによってどのように説明されるかという点です。外国人客にとっても自分たちと似た文化背景の人がわかりやすくスムーズな母言語で説明してくれるわけですから、その理解も興味もぐんと深まるメリットがあるはず。どんな表現を使って説明すれば外国人にわかりやすいのか…?これは通訳ガイド達が何年もかけて研究し、編み出してゆく個人の秘技とも言える課題でした。ぐちゃぐちゃ語るよりも、こう言えば一発ですんなり伝わる、そういう表現を常に模索蓄積しています。

自国の文化について外国人から説明を受けるのはちょっと微妙な気分だと言う人もいます。が、わかりやすさのコツを探るため、最近私の研究組織では、日本文化を専門とする外国人から外国語で講義を受けるセミナーが増えています。そしてアッと驚くような表現方法や視点によくぶつかるのです。

日本語で学ぶよりもなぜ印象強くわかりやすいケースが多いか? それは「日本文化を知らない人たちを対象として」ごく基本的な事象から説明されること。そしてポイントをついた分析型で明快なスタイルで語られることも原因しているかなと思います。日本人に対しての解説では「当然、これはわかっているだろう…」「そこまで言うのは失礼ではないか」といった意識があるためでしょうか、つい専門的な“普通の人は知らないこと”や“知っているとちょっとかっこいい事”に話が集中して全体が美しくまとまりがちです。

その点、外国人対象の解説となると
「相撲土俵の上部に吊ってある造作物は何?なぜそこに屋根があるのか?」から始まって
「なぜ相撲力士は奇妙な髪型(丁髷)を結っているのか?あの太り方は不健康なのではないか?」
「舞台ではなぜ扇子がよく使われるのか?」
など、私たちから見れば日常的に慣れて当たり前のこと、または消化して見落としていた文化の基本となる点からアプローチが必要です。外国人がどこに興味や疑問を持つのかに気がついてそれをまずカバーする。ゼロレベルから専門度の高い面まで触れる急上昇ラインの角度の度合い加減が通訳ガイドの技術といえましょう。満足度を高めるコツでもあります。