第30回 プロの通訳ガイドは日本国の“知的財産”

通訳ガイド行脚2010.01.16

単に事象を説明するだけでなく、
わかりやすく楽しく伝えるプロのワザ

先日、久しぶりに日光東照宮に行きました。私の大好きなガイドスポットがあちらこちらにあっていつも時間不足と戦うことになるのですが、その日は国宝の陽明門をくぐって中庭にはいり、地面に敷き詰められた小石にスポットを当てて解説することにしました。混んで立ち止まったままなかなか移動ができず、足元の砂利を見つめる瞬間が多かったので、「では砂利についてガイド」と判断しました。

“Do you know the purpose of covering the ground with the pebbles or gravel?”
「ここに敷き詰められた小石の意味合いは何だがご存知ですか?」
すると、どこかの観光地で聞いた説明を覚えていたのでしょうか、すぐさま、
“To detect night intruders with the sound.”
意気揚々の回答です。そうです、不審な侵入者が動き回ると着地点でかならず小石が音を立てるので、いい番犬がわり?だったのかもしれません。

“What’s next?” “To protect the ground from weeding?”
そうです。石が敷き詰めてあれば雑草を邪魔して生えにくくします。 他にはどうでしょう?
“Not to make the ground muddy.”
そう、ドロドロにはなりにくいですね、表面が石ならば。そこに敷き詰められた小石は、鬼怒川と合流する砥川(とがわ)から運び込まれた、砂利というには少し大き目な石で、密度が高いとても堅い石なのです。ですからたとえ雨などで表面が濡れたとしても、水は石の中にしみ込まず表面を伝わってすぐに地面に吸い込まれます。地表部分はすぐに再び乾いて周囲の木造建築に湿気で悪い影響を与えないように配慮がされているのですね。

な~るほど!ちなみにこの貴重な石の価格は?小さいものでも今の金銭価格で1つ90円程度だったと言われます。 何十万個もあるとしたら砂利だけでも一財産ですね・・・などと経済面にも言及するとまたあらたな興味を引き出すものです。

しかし、ここでさらにもうひとつの理由をあげてみます。この石の色、グレーは周囲の豪華絢爛、色彩豊かな建物を引き立てる「補色」の役割を担わされているのです。補色とはどんな色ともうまく調和する主張の少ない色です。黒っぽい土が露出しているよりもグレーの石によって、どれほど視覚的に品のある高まりが創造されていることでしょう・・・云々。

これを言うとほとんどの観光客が「へえ~!」と首を縦に振って感動してくれます。そこまで話すと “That’s enough!” と思われるかもしれませんが(笑)。その反応を見るのが嬉しくて頑張っちゃうガイドDNAが、お客様に感動を与えるのかもしれません。

単に事象を説明するのではなくて、納得させ感動させる構図ができているとガイド説明に深みがでて、もっと聞きたいという気持ちにさせます。その話が聞きたくてお客さまが離れずどこまでもガイドについていくような素晴らしい先輩通訳案内士(通訳ガイド)さん達を見てきました。彼らは文化を正しく、しかもわかりやすく楽しく伝えることのできる秀逸な人材、国の知的財産だと思います。職業として国に守られるに値するとも感じます。徹底的に調査し、話のネタをおもしろおかしく構成し、相手を惹きつけてやまない芸術の域まで達している達人は、そのガイディングをただ聞いているだけでも嬉しくなってしまうのですよ。年月をかけて熟成された本物の魅力はプロフェッショナルそのものです。

「高い技術」と「人間性」をしっかり持っていれば
時代の渓流に左右されない生き方ができる

さて、年末頃から突然、通訳案内士、(通訳ガイド)の仲間達が眼の色を変えて意見交換をするようになりました。昨年から観光庁が開催している「通訳ガイドのあり方を検討する会」の経過報告書が一部公開されたからです。それによると通訳ガイドの国家資格制度を根本的に見直す時期にきており、廃止も選択肢に含まれるというショッキングなものでした。

業界では以前より、中国語、韓国語を中心に外国から同行する添乗員や国内の留学生による違法ガイド、無資格ガイドの問題があり、それは通訳ガイド不足が原因だと騒がれていました。一方で英語の通訳ガイド達は反対に、ガイド数が多すぎて仕事が行き渡らず辞める人もいる…と訴えます。1000万人、2000万人の外国人客を受け入れるために、国は数年前から通訳ガイドのスキル・アップ・プログラムを通して技術向上を目指しましょうと強く推奨を始めました。質の高いサービスが求められるのです。でもそれですべての問題が解決できるわけではありません。

世の中のしくみや考え方は変化していくので、何年か後には今の国家資格制度がなくなるのか? それとも観光ボランティア通訳の方たちと協働スタイルがスタートするのか? あるいは試験制度が検定制度に変貌してゆくのか? または変わらないのか? 様々な意見や選択肢が現れ、先のことはわかりません。苦労してやっと試験に合格した新人にとっては、ここで国家資格制度が廃止されてしまっては死活問題だと感じることでしょう。政権交代によって刷新ムードが高まっているのでしょうか。

ガイドの国家資格制度の是非論は、十数年前から何度となく出ては立ち消えていました。でも今回は、政府も外国の例や動きを真剣に比較検討し、本気で仕分けするようだとの噂もあり、動向が気になります。

そこで、いつも私は述べてきているのですが、どんな環境下におかれようとも高い技術と人間性があれば必ず大丈夫、生きていけると思うのです。「高い技術」とは視野を広く持って、「ああ、こんな場面でも自分は役に立てるんだ」と、旅行業界にこだわらずに自分の日本文化紹介技術の応用シーンをイメージできること。さまざまなカードを隠し持って、柔軟にたくましく通訳ガイドは活躍してほしいです。
ボランティアとは一線をひく、オリジナリティ溢れた誰もがふりむくような技術とホスピタリティ精神も必要ですね。その質の高さと担う責任の重さを広く社会に知ってほしいのです。