第31回 先輩の技(ワザ)から学ぶ人材育成補助事業による新人通訳案内士研修

通訳ガイド行脚2010.02.16

異文化コミュニケーションは心理的・価値観の視点の違いを踏まえて
相手を理解することから始まる

政府の観光関連高度人材育成補助事業の一環として、昨年末からNPO法人GICSS研究会が運営に携わった通訳案内士の業務研修の状況を一部ご紹介しましょう。

最初は、外国人と接する際の必須スキルを学ぶ「異文化間コミュニケーションスキル研修」でした。通訳や通訳案内の業務では単に言葉を外国語に置き換えるのではなく、異文化の人が物事をどう解釈し感じるのか、心理的・価値観の視点の違いから相手を理解しなくてはならない、そういうことを学ぶのが「異文化間コミュニケーションスキル研修」です。Ah!と文化の差異に気がついて、Aha! なるほど 相手はそう感じていたのかと納得し、双方がwin-winでAhaha!と笑い合える新しい文化の融合法を発見することろまで導く・・・それこそが通訳ガイドの根本だという考えに基づいています。

異文化コミュニケーションのやり方を誤ると次のようなことも起こりえます。「高級な良い店で和食を食べたい」と言うお客様に著名一流料亭を紹介した・・・ところが結果は悪評三昧で紹介したガイドまで非難され責められる始末。聞けば「良いレストランだというのに客は少なくてひっそりしていた(評判の良い店ならば賑わって混んでいるはずだ)」「食事は皿の上にポツンと極少量しか出てこない(なんてケチな店なんだ!憤慨)」「値段は桁が違って高過ぎてだまされた、ひどい店だ!(怒)」

“高級店”の理解がお互いにずれたままの悲劇でした。悲劇を防ぐためにはどうしたら良いのか!感じ方の違いを予測して事前に具体的に予算金額などの条件を具体的に確認しておくことが必要だったのですね。

良かれと思ってのサービスが裏目に出ないよう、まずは日本の文化の徹底理解と相手の文化の差から来るお客様の心理変化に気がつく察知能力、そして表現能力の改善が望まれます。他にも感じ方の違い、意見の食い違いをどう解決していくかなど実戦で役立つロールプレイが多く、国際シーンで働く人材の原点ともいえるプログラムはアッと言う間に過ぎた2日間でした。

実技研修は先輩プロのノウハウがぎっしり
通訳案内士はエンターテナーなんです!

さて、次に日光・鬼怒川温泉での一泊2日研修がありました。日光では東照宮、華厳の滝などをベテラン通訳案内士が日頃のガイディングをデモンストレーション。片道3時間の貸切バス内も休む暇ない解説とガイドデモ満載で、参加者はメモ取りに必死でした。

そしてハイライトは夜、温泉ホテルでの和風宴会です。飲食代は参加者の自己負担でしたが、地元のベテラン芸者さんが参加してのご挨拶、お酒のお酌、日舞、ゲームで盛り上がる一見楽しい娯楽タイムです。その宴会をとりしきり司会進行役をするのが通訳案内士なのです。すべては通訳案内士の技量にかかっているといっても過言ではありません。仲居さんや芸者さんとの打合せから始まって、出し物の説明、お料理の説明・・・ほとんど通訳ガイドは食べる暇なしの激務です(「後でおにぎり用意してもらえませんか?」豪華な食事を尻目に仲居さんにこっそり頼んだりして…)。

限られた時間でどのようにお客様を楽しませるのか? 浴衣を着せ、畳に座らせ、アルコールの入ったお客様の扱いは大変です。芸者さんの伝統娯楽芸能との融合を図るには? 着物の説明、踊りの楽曲の説明(芸者さんからは「XXX小唄です」としか答えてもらえないので、歌詞を聞きだして想像力を逞しくしてドラマチックに踊りの意味を前ふり紹介をします)、そして碁石を使ったchopstick game、ビール瓶立てゲーム、お馴染みの野球拳(上品版・羽目はずし版)、罰ゲームのメダカの学校、座布団とりmusic chair、最後は全員で炭坑節でお開きです。

「日本滞在で一番印象に残った」と好評な和風宴会、その成功の秘訣や技は先輩から盗み学ぶしかありませんでした。最近は先輩から学ぶ機会も少なく、ましてこのように系統だてて学ぶチャンスはありません。参加者にとっては貴重な体験でした。補助事業に感謝!です。

そして研修シリーズの最後のしめくくりは京都で開催された日本伝統芸能の研修でした。能、狂言、書道、茶花の専門家による直々の指導と演技鑑賞、そして参加者全員が実体験をしたのです。書道では書道家が解説・実演する中をnative speakerの講師が、英語で外国人にどのように筆の使い方を説明するのかをデモンストレーションしてゆきます。筆は上からまっすぐに下ろす(drop the brush vertically)決して手首をひねったりしない(never twist or turn your wrist)…そして書道はまさに 、battle between the ink and the paper となるのです。外国人から日本文化の説明を聞くのは不思議な感じもしますが、彼らの使う言語表現はやはりわかりやすくスムーズで(当然だ!?)、私達、通訳案内士が言語表現的に目指す頂点モデルだと思います。ちなみに書道指導で上手にできた部分に指導者が書く朱色の花丸印、私達には嬉しい二重丸もあったりするのですが、この意味がフランス人には通じず、「この赤サークルは何だ!」と尋ねられるというエピソードに興味がひかれました。「○=良い」という意味だと全世界の人が解釈すると思ったら大間違いのようです。

このようなスタイルで、能や狂言は、また想像を超えた本物に触れた感動をもたらしました。また別の機会に詳細ご紹介したいと思っています。研修に参加した通訳案内士達は、きっとこの体験を活かして生き生きと、一見敷居の高そうな日本伝統文化も自信を持ってガイドサービスができるようになることでしょう。