第32回 ガイドの想像力で無限に広がる ガイディングのネタ

通訳ガイド行脚2010.03.10

自己紹介からさりげなく名前の呼び方の
日本のカスタムを紹介

不況ながらも世界各国から観光客が来日する観光シーズン。先日、都内のホテルから鎌倉・箱根に行くツアーがありました。首都高速道路から湾岸線で川崎、横浜を通過して鎌倉に向かうのですが、長時間車で移動する時には窓外の景色に関連して何をガイディングしたらよいのかと最初は不安になるものです。羽田空港とか横浜とか主要場所については情報が豊富ですが、その間の話題はどうしたら良いでしょう?

まずはツアーの出発時、自己紹介のご挨拶から始まります。
I’m Yoko, your tour guide today. Very happy to meet you and I hope you’ll have a great time today….だけでも十分。でも単なる自己紹介も次のような話題の膨らませ方があります。

「私は全世界的に私の名前を広めて覚えやすくしてくれたオノ・ヨーコさんに大感謝です。Ocean girlという意味で、お客様からは”Yoko”とファーストネームで呼ばれるのに慣れていますが、普通日本人同志ではファミリーネームで呼ぶのが一般的なんですよ。親しくならないとファーストネームでは呼ばないので、もしもこの車の運転手さんから「洋子!」なんて呼ばれたら、あれ?彼は私の昔のボーイフレンドだったかしら?(笑)とギクッとしてしまうでしょう」。

そして名前ネタでさらに続けます。
「名前の後にはMr. Mrs. Missのどれにも使える便利な呼称をつけるのが普通です。『さん』…san, like “the sun.” これをつければ相手の性別、年齢、立場にかかわらず失礼のない表現になるので覚えておくと便利です。日本では個人名でなく肩書きや職業で人を呼ぶ習慣もあるので、それに『さん』をつけると、driver-san, company president-san, sushi shop-san,など。フフッ、なんだかおかしいですね」。こんな話をするだけで、5~10分たつとすぐにお客様と打ち解けてしまいます。

情景を思い浮かべて自分の言葉で語っていくと
お客さまにも伝わりやすい

そのあと本日の旅程や帰着時間の予定などをご案内。その後の話題の取り上げ方は状況に合わせて千差万別ですが、ちなみに私は首都高速レインボーブリッジから近代的なお台場エリアを過ぎて海底トンネルを出入りするあたりから、東京湾や東京港について語ります。

まずは東京湾について。「東京湾は江戸時代から埋め立てが盛んで、現在までにその約20%が埋め立てられたと言われます。江戸時代には皇居近隣までが海辺だったそうですが、なぜ江戸はそんなに埋め立てが必要だったのでしょうか?」

「17世紀初頭、江戸を幕府の拠点として選んだ徳川家康は、江戸を京都や大阪に負けぬ繁栄の地にしたいと願いました。京都からは優れた大工や工芸師等の職人を呼び寄せ、商業システムにたけた大阪商人を招き入れて体制作りを進めました。そして彼らが当初の仕事を終えたあとも、そのままずっと江戸に居住してくれるように求めました。しかしそのためには何らかのメリットを与えねばなりません。
そこで特別な商売の特権を与えたり居住地を提供したりするなどの便宜を図りました。住民の生活を支えるためには漁師も必要で、彼らには現在の佃島などを譲渡するなど優遇措置を取ったのです。人口が急増した江戸は開拓が進みましたが、平地の不足から遠浅の湾の埋め立ても進んだというわけです」。

頭の中で紙芝居のように情景を思い浮かべて自分の言葉でストーリーを語ってゆくと、相手にも伝わりやすいのです。最初は簡単な表現で、そして徐々に格調の高い表現を取り入れてインテリジェンスを感じてもらえるように目指したいといつも思っています。

「ところで、私が子供の頃、dream land「夢の島」と呼ばれる場所が東京にあることを知りました。有名な観光地の奈良にドリームランドという名の娯楽施設があったので、東京のそれはいったいどんな素敵なところだろう?ワクワクしました。ところがそれが塵の廃棄場所だったとわかった時にはがっかり(なぜそんな名前をつけたんでしょうね!?)」。

「江戸時代からずっと東京湾の埋め立ては続き、ついには大都市東京の重要な塵(ごみ)の廃棄場所となりました。東京湾は塵の廃棄場所として既に限界に近いのですが、塵を焼却して得たエネルギーは温水プールや温室、その他様々に活用されています。焼却所の数は日本にはおよそ2000ケ所もありますが、それは世界にも珍しい多さなのです。塵で国土が広がる?のもチョットね(笑)。きっかけはテロでしたが、国民あげて塵を出さない、塵は自宅に持ち帰るという奨励が進んで、最近では駅や公園でも塵箱というものが姿を消してしまいました」。

・・・あれ?何の話をしていたんでしたっけ? 東京湾から生活の話に。この調子なら長時間のガイディングでも大丈夫ですね。