第39回 お寺で体験する座禅のコース。事前の下見体験が不可欠

通訳ガイド行脚2010.12.16

日本人にとって当然のことが、外国人には楽しいイベント
体験型ツアーが各種大変人気を呼んでいます。
ある調査によれば
1位 殺陣 2位 相撲 3位 忍者、和太鼓 5位 真剣切り 6位 寿司 7位 墨絵・・・

お茶や生け花はもちろんのこと、書道、狂言、能体験、蕎麦打ち、寿司握り(握った寿司を最後に食べてお土産は寿司屋の衣装!)田舎暮らしや仕事ぶりを体験できる農山漁村体験モニター、地面に積もった粉雪が強風で舞い上がる青森県津軽地方の名物の地吹雪を体験できる地吹雪体験、振袖着付け体験ツアー・・・数えればキリがありません。日本人だって参加したくなりそうなコースが一杯です。どんな体験も、ただ“楽しかった、おもしろかった”で終わるのではなく、説明やしきり方によってより深い理解につながりますね。

たとえば書道では、点の書き方や、線の描き方、はね方など重要な技術のエッセンスをすべて含むと言われる「永」という文字が使われました。先生が朱赤でお手本を書いて見せたところはスムーズに「フムフム」とうなづいて感心されます。が、上部でクルクルと二重丸三重丸が描かれると、フランス人客は首を傾げて戸惑ったのでした。「何をやってるの?私が一生懸命に書いた文字の上に?」怪訝な表情です。

そう、「上手く書けていれば丸を描く」というサインが通じないのです。文化の差異ここにありです。そんな時にはとっさに察して、その意味合いを通訳ガイドが説明せねばなりません。常にお客さまの反応に敏感に対応する観察力、察知力を持ちましょう。

警束(肩を叩く棒のこと)での喝入れは希望者だけ
さて、ここで紅葉の美しい秋の日に体験した座禅コースの様子を御紹介したいと思います。鎌倉の円覚寺では、通常修行僧が座禅を組む本格的な建物とは別の広い畳の間で、全員に小ぶりの座布団が準備されました。まずは僧侶による法話を聞き(内容の事前打合せは困難な場合が多いですが、通訳が必要となる場です)座禅についての説明を受けてから、足を組み、背筋を伸ばして顎を引き体勢を整えます。

どんな時も静寂に。黙っていることが大切です。
腹式呼吸でゆ~っくりと15-20秒ぐらいかけて息を吐きます。
腹と背中がくっつくまで。
目は1m先の床を見て半眼、つまりそれはまさに菩薩のようになることです。
手は左手で右手を包むようにして親指を合わせる印相を組みます。
そして、心を無に。

修行僧は毎日6時間の座禅を組むそうですが、体験コースでは15分→休憩→15分。つい雑念に襲われて心を無にするところまではなかなか到達しませんが、厳しい雰囲気は十分に味わえます。

座禅というとすぐに警束(肩を叩く棒のこと)を思い出しますが、修行僧の場合は見回りの僧の判断によって、気の緩みのありそうな者の肩が一度に右左5回ずつ打たれます。体験者は、自ら喝入れを望む人だけが警束を受けます(だから心配はないのです←これで不安がなくなるお客さまもいます)。

僧が前を通る時に両手を合わせるのが警束を希望するサインです。両肩2回ずつ。骨に当たらぬよう腕を組んで背中を丸めるのがコツです。最初は僧侶が廻ってきても勇気が出ませんが、そのうちに部屋のあちらこちらでバシッ、バシッ。上手に打たれれば気合いが入って心も身も引き締まる体験です。

座禅が終わると、一杯出てくる質問を通訳します。

「どうやって修行僧となるのですか?」…入門が受け入れられるまで2日間、山門の前で土下座をし続けるそうです。「お前なんか出てゆけ」など(わざと)冷たい言葉を浴びせられてもひたすら耐えて願い乞う土下座。辛いスタートですがこれが謙虚な気持ちや忍耐力を持ち続けられる為の原点なのだとか。

「僧侶は給料制ですか?」…大きな寺では会社制になっていて、給料、残業扱い、社会保険もある。

宗教的な質問だけでなく、このような人間としての側面を垣間見るような応答によって、お客様も親近感と興味を募らせてゆきます。僧侶と触れ、寺や仏教を感じる座禅はかなり印象の強い清々しい体験ツアーとなり得ます。もちろん、十分な事前説明と理解を得て臨まなければなりませんが、座禅体験の後は目にする寺の建築物や仏像の姿にも一歩も二歩も踏み込めるように感じることだろうと思いました。

お客様ガイドのためには、まずは自ら体験ですね。