第56回 あなたならどうする? 個人旅行のコース提案

通訳ガイド行脚2012.06.16

外国人観光客の旅程は、旅行会社からすでに決められたItineraryを渡され、通訳ガイドはそれに従ってツアーを遂行してゆくことが多いです。でも個人客や流動的なビジネス客の場合は詳細が決まっておらず、 「終日都内観光をお願いします。行先は当日お客様と会った時点でご希望を聞いてください」とか、 「ランチは現場で適当な場所に案内してください」 と、ざっくり依頼をされるケースもよくあります。個人客はお客様の人数は少ない点では扱いやすいのですが、逆に、自由にまた突発的に行先を変更したり特殊な要望が出たりするので新人ガイドにとっては難しい面もあるのです。まあ、これを良い経験と積み重ねて鍛えられてゆくということですね。

行先を上手に導く説明技術が必要
旅程を任された時には、事前にお客様の宿泊場所と全体で何時間・・・という大枠をもとにおおよその候補コースを組んでおいて、あとはご希望に沿う形に調整してゆくのですが、アニメも見たい、歴史的な建造物も見たい、美しい自然の景色も見たい、買い物もしたい・・・となると、物理的にどれかを諦めてもらわねばならないこともあります。ガイドさんの説明技術が大きくものを言います。観光地のことや移動方法についてどのようにご提案するか、それによって大切な観光時間の内容が決まるので責任を感じますね。公平さ、客観性を心がけなければいけません。「私はここが好きなんですけど」「私ならば~に行きます」という言葉にお客様は弱く、「それならばそこに行きましょう」とガイドの提案に従う傾向があります。判断のできないお客様に対しては、ある程度そのような手法で上手に導いてゆくことも必要ですね。Aに行けば~が見れる、その後Bに行けばちょうど道順で効率よく便利で、移動の途中に~の景色が楽しめる・・・など、それぞれのセールスポイントを明確に述べるとわかりやすくなります。

日本観光についてどれだけお客様に事前知識があるかによって、かれらの希望をそのまま反映しただけの旅程でよいのか、あるいはさらにもっと別の動きをご提案したほうが良いかが違ってきます。

相手に合わせて旅行をリードすることも満足度アップの秘訣
一週間日本滞在で、初日にあとの日の旅程をガイドさんと相談したいというアメリカ人家族旅行の事例が最近ありました。中学生と高校生の子供を含む、夏休みのシーズンになると急激するファミリートラベラーです。

来日前に入手した暫定旅程では、お客様からの希望にもとづいて、5日間毎日あちらこちらのアニメスポットが含まれた都内各所を廻る内容になっていました。しかし、通訳ガイドは考えました。せっかくゆっくり滞在する時間があるのだから、せっかく日本まで来て京都や奈良、富士山、せめて鎌倉大仏など興味はないのだろうか? 子供中心にアニメ要素が強くなっているけれど「日本まで行ってアレも見てこなかったの?」などと周囲から言われたら弁護士のご両親も後から後悔するのではないだろうか? 本当にこれで良いのだろうか?

最初に顔を合わせて打合せをした際に、彼女は日本の歴史にも触れながら、様々な旅程の提案をしました。経費的な背景も考慮し、全員が遠方に移動する旅費なども具体的に示しました。結局、このファミリーは大決断をされ、旅程変更。都内と京都往復、そして鎌倉を訪れることになりました。都内のホテルを利用せねばならない事情があったので、京都へ行くには朝6時にホテルを出て、夜8時過ぎに戻る強行軍となりましたが、新幹線も体験でき、この数日間はバラエティに富んだ大満足の忘れられない観光となったようです。通訳ガイドは感謝され、無二の日本の友達となりました。たまたま経済的に余裕のあるお客様だったので良い結果だったのですが、正しく的確な情報を、相手に合わせて提供してベストな結果に導く・・・こういう旅行会社の社員に準じる知識や営業技術を備えたベテラン通訳ガイドさんはひっぱりだこの人気です。

以前は、ベテランは別として一般の通訳ガイドよりは、旅行会社の社員さんのほうが観光地情報に詳しいので、その指示に従ってガイドが動くというのが普通でした。しかし最近では逆に、旅行会社の若手社員が現場に出る機会が少なくなってきている現実があり、通訳ガイドのほうが現場事情に詳しいケースが増えています。

レストランのサービスは外国人向けに適切だったか、駐車場との距離はどれくらいなのか、付近の買い物場所はお客様に好評だったか等々、ポイントをさりげなく旅行会社の社員さんにフィードバックして知らせてあげる行動も、実はとても重要で感謝されます。そんな生きた情報をもとに旅行会社はさらに充実したツアーを作ってゆくことができます。

旅行会社と通訳ガイドと二人三脚で、上手にお客様をリードして楽しく良い日本の旅をご提供したいものですね。