第70回 通訳ガイドのクレーム事情 添乗員同行ツアーでのケーススタディ

通訳ガイド行脚2013.08.16

忙しそうに稼働している人気のガイドさんだな~って思われる人も、実は水面下でクレームが出ることがちょくちょくあります。ご本人にはそれが知らされないことが多いのが怖いですが。

「通訳ガイドが話している英語がわからない」(ジャパニーズアクセントが強すぎる、文法が不正確、文章が不完全等) というのがお客様からのクレーム全体の20%を下らないという現実には、「通訳案内士=高い語学力が証明された人材」と信じたい私にはちょっと衝撃的な現実でした。 一般的なクレームには、ほかに「説明情報量が少なすぎる、親切でない、判断が不適切・・・」などがあります。

お客様が笑顔でもクレームが出ることも
今回のクレームは、日本の夏の魅力を楽しむ東京~富士山~上高地~高山などをバスで廻り~京都・大阪で終了するというツアーでのことでした。イランから添乗員が同行して、日本の通訳ガイドの英語ガイディングはペルシャ語に通訳される旅でした。山岳地帯では添乗員が主に喋るので通訳ガイドはあまり喋らなくて良いという指示を受けていました。

今回のガイドさんは、経験は3年、しっかりした信頼度の高いタイプのAさんです。交通渋滞を考えると行程がきつい部分もあり、また地方の宿泊先での和食が客の口に合わないなど様々な問題があったにせよ、無事に一行は関西にまでたどり着き、お客様はハッピーそうに見えました。大阪に着くとAさんは東京にもどり、最終日のホテルから空港へのセンディング業務は、大阪在住のガイドBさんが担当しました。

日本を離れる前にお客様もリラックスしたのでしょうか、Bさんとの雑談で、
「先日行った高山の事を教えてちょうだい。現地では日本の事を良く説明してもらえなかったのよ」
「一昨日までついたガイドさんはチャーミングな人だったけど、英語がよくわからなかった」
などのクレーム・コメントを残したというのです。

すぐにAさんのレポートを確認してみました。すると、そこには統率力のないイラン人ツアーリーダーのもとでお客様はグループ行動をせずにバラバラな動きであったこと、その為にAさんがあちこちで苦労した形跡が読み取れました。

例えば高山の屋台会館では学芸員が説明のためにスタンバイし、それを通訳ガイドが日本語から英語に、イラン人添乗人が英語からペルシャ語に通訳する段取りになっていました。しかし、グループ行動が苦手なお客様の中にはどんどん先に進んでしまってそこに立ち止まって動かぬ人もいれば、マイペースで遅れてくる人もおり、個々が入れ替わり立ち代わりやってきて同じような質問をする事態に学芸員から「何度同じことを言わされるのか!」と通訳ガイドが注意されたりするのです。収拾がつかなくなると、要となるはずのイラン人添乗員は途中でペルシャ語での通訳を止めて「お客様は英語がわかる人もいるので・・・」と逃げ去る。学芸員も「時間切れです」と立ち去る。その場その場の専門説明者は、必ずしも相手の興味に合わせて話をしてくれるわけではありません。興味を失った客は失礼を顧みず子供のようにその場をプイと立ち去る性質。英語が通じているのかどうかも不安に思う通訳ガイドの気持ちが切々と記されていました。

そのような状況であれば、いくら通訳ガイドが頑張ってもお客様に十分な説明情報が伝わらなかったとしても当然です。
今回の問題点は:
1 .ガイドの語学力不足の可能性
2 .添乗員(ツアーリーダー)の統率力と動き
3. 客側の問題(注意しても団体行動を好まない性質、英語理解力)
という複合的な要因が絡んでの結果でした。

満足度アップのために自己チェックと研鑽を続けよう
ガイドの語学力に実は問題がなかったとしても、実力が発揮できなかったのはグループのとりまとめ技術に問題があった? ツアーリーダーに恵まれなかった? チラッと一瞬、頭をかすめた程度の不満をお客様が大げさに愚痴ってしまった? のかもしれません。

しかしどんな状況でも最終的に
「ガイド説明が不足だった」とか「英語が何を言っているのかわからなかった」
などのクレームが出れば通訳ガイドは不成功となり、今後の受注は減ってしまいます。

今回は、たまたまBさんが耳にしたお客様の本音から得られたクレーム予備軍の情報でした。実際には正式なクレームとしてはあがってこないケースも多いのですが、通訳ガイドはラッキーな時もアンラッキーな時も乗り越えて最終的にはお客様の満足度を上げて成功に導くことができて一人前。
お客様の笑顔に満足せず、謙虚に自己チェックと研鑽を続けなければなりません。大変です。
でもだからこそ本当に喜んでもらえた時には充実感に溢れ、一生続けることができる仕事なのだと思います。