さまざまな分野別・レベル別に50を超える講座を開講
翻訳会社の母体を生かし、プロ翻訳者へのチャンスをつかむ

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各分野のスペシャリストである現役翻訳者が講師を務める実践に即したカリキュラムで、これまでに3000名以上の翻訳者を輩出しているサン・フレア アカデミー。翻訳実務検定「TQE」合格者には母体である翻訳会社サン・フレアの登録翻訳者としての道も開かれ、学び、仕事の両面でサポートが得られるのも大きな魅力だ。

訪問クラス 初級講座「はじめての特許翻訳」

独特な文体の特許文書様式に合わせた翻訳を学ぶ

「はじめての特許翻訳」は、初めて翻訳学習をする人や特許分野の翻訳者をめざす人のための講座。最新の技術が盛り込まれた法律文書である「特許明細書」の全体構成や独特な文体・形式などの基礎知識を学び、特許翻訳の基本テクニックの習得をめざす。特許明細書を見たことがない人にとっては難しく感じられる特許翻訳だが、この講座ではペンやスタンドなど日常生活でなじみのある題材を取り上げるので、無理なく学習できるのが魅力だ。

通信科と通学科の2コースあるが、コロナ禍の現在は通学科でもテレビ会議システムが取り入れられている。今回見学したクラスは、「はじめての特許翻訳」の最終回である「Section8『要約書』を訳す&まとめ」。「要約書(Abstract)」は、本文に記載されている内容を読者に手短に伝えたり、検索に用いることを目的としたものだ。日本の特許出願文書は、書類名の他、発明の目的を記載した【課題】、その構成を説明した【解決手段】、そして複数の図面がある場合には代表的な図面を1つ挙げた【選択図】の3項目で構成される。

講師の大塚英先生は、特許庁のウェブサイトからダウンロードした「要約書作成のポイント」を表示。

「外国の特許では項目分けがされていないことがあり、その場合は日本の出願様式に合わせるため、翻訳者が各項目に分けて訳すことになります。ただし、クライアントによっては、項目分けせずにそのまま訳すよう依頼されることもあるので、クライアントの指示に従いましょう」と述べた。

次に例題に進む。例題1は分詞句やwhich 節、wherein 節が使われた複雑な構造の英文だ。

「A collapsible stand という名詞をhaving a number of shelves という分詞句が修飾しています。さらにwhich 節もstand を修飾し、and という接続詞でwhich とwherein を結んでいますね。wherein の後に改めてthe stand という主語を置くことにより、述部が何について述べているかを明示する形式の英文です」

大塚先生は英文の構造を丁寧に説明し、過不足なく書いてある通りに訳すことが重要だとアドバイス。さらに、この一文を【課題】と【解決手段】に分けるよう依頼があった場合について解説した。

「この例題で言えば、『学校用の折り畳み式スタンドを提供すること』を【課題】として作文するのがいちばん無難な対応なのではないかと思います。【課題】を本文から取ってくる人もいるのですが、英文の明細書は発明全体の目的を記載しなくなっているので、本文中の背景技術に出てくるような表現を発明全体の目的にするのは不都合なことがあります」

続いて例題2では、91ワードの長い英文を【課題】と【解決手段】に分けて訳出。内容はヘッドマウント式仮想画像表示部に関するものだったが、あらかじめ先生がGoogleで画像検索した装置を紹介し、受講者が形状を把握した上で訳出できるようにしていた。

講師が編み出した効率的な翻訳方法を伝授

休憩をはさみながら、前回の課題である「Section7 特許請求の範囲を訳す(2)」に取り組んだ。シャープペンシルの芯の容器の特許請求の範囲を、大塚先生がポイントを解説しながら訳していく。画面左側に英文、右側に大塚先生の訳文を表示。

「まずは全体の文章を読んで大きな構造をとらえてください。要点を押さえた後に細かい部分を埋めていくとよいと思います」と大塚先生。ミスや訳もれを防ぐため、大塚先生は分詞句を赤、慣用句を緑、動詞要素をオレンジに色分けし、英文の構造を解析。まずは分詞句をすべて訳し、次に分詞句を修飾する言葉を後から加えていく。最初は名詞だけしかなかった文書に修飾節その他を加えていくことで、過不足なく正しい訳文が出来上がっていく様はまるでパズルを解いているかのようだった。この翻訳手法は、プロの翻訳者として活躍する大塚先生が編み出したもの。その手法をつぶさに見ることができるだけでも、この講座を受講する価値があると思わせる。

また「日本人は、よほど気をつけないと冠詞が目に入って来ません。名詞に定冠詞がついているのかいないのか、可算名詞なのか不可算名詞なのかを意識するようにしたほうがいい。冠詞を見逃したがゆえに誤訳をすることもありますから」と受講者に注意を促したり、「請求項は律儀に訳すことが大切です」「大和言葉より漢語を使う方がよいでしょう」などアドバイス満載だったことも印象的。実践に役立つテクニックを伝授しようという講師の熱意が伝わる授業だった。

講師コメント

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初級講座
「はじめての特許翻訳」
大塚英先生

東京大学理学部生物学科卒。京都大学理学部修士。フローニンゲン国立大学(オランダ)、オックスフォード大学(英国)、ダンディー大学(英国)で細胞生物学・分子生物学の研究に従事。帰国後、フリーランスの特許翻訳者(バイオ・医薬分野)として現在も活躍中。

実務に基づいた教材を使い
少人数クラスできめ細やかに指導

特許翻訳で訳出する文章は、特殊な構文かつ長いものが多く、はじめての方は「どこからどう訳して良いか分からない」ということがよくあります。そこでこの講座では、特許文書に独特な英文の構成を識別し、どう処理をすれば誤訳のない翻訳ができるのかを解説しています。特許翻訳は確かに難しいのですが、実務に基づいた教材を用い、受講者の方が特許翻訳とはどんなものかを把握できる内容になっています。

特殊な英文とはいえ、基本となるのは読解力と作文力です。授業で翻訳の手法を学び、課題を提出してフィードバックを受けるというインプットとアウトプットの繰り返しを通じてこの2つを身につけていきます。また誤訳は自分ではなかなか気づけないもの。サン・フレア アカデミーでは、私も含めて講師が全員現役の翻訳者です。経験豊かな翻訳者の目で誤りを指摘してもらうことで着実に力がつきます。また、最大でも定員6人という少人数制であることも本校の利点です。「はじめての特許翻訳」を受講される方は、英語のレベルもバックグラウンドもさまざまですが、少人数であることで講師の目が行き届き、きめ細かい指導ができますし、質問などもしやすい環境だと思います。

産業翻訳では機械翻訳が台頭しているとよく言われますが、長文で複雑な構造を持つ特許分野では機械翻訳はまだまだ実用的ではありません。人の手による翻訳の方が確実で早いため、翻訳者が機械に淘汰されることも当分はないのではないかと予測しています。特許翻訳の分野は幅広いので、文系・理系問わず活躍できるチャンスがあります。少しでも特許翻訳に興味をお持ちの方はぜひチャレンジしてみてください。