実務・出版・映像のすべてが学べる伝統校
通学、双方向オンライン、通信と多様な学び方が選べる

翻訳専門校フェロー・アカデミーでは、3大分野(実務・出版・映像)に対応した多様な講座を開講している。分野別のコースだけでなく、3分野を全て学べる総合翻訳科も設置し、現役プロが丁寧に指導。翻訳業界とのネットワークにより、優秀な人材をさまざまな企業に送り出している。通学講座は、オンラインでの出席も可能だ。

総合翻訳科カレッジコース「IT・マーケティング」

答えを教えるのではなく正解への道筋を示す

「総合翻訳科」のカレッジコースは、翻訳の3大分野すべてを1年間で徹底的に学べるコースだ。前期で各分野の基礎を身につけ、後期には9ジャンルの専門科目から興味のある講座を選択できる。そうした専門科目の一つである「IT・マーケティング」を見学した。

この日の課題は、スウェーデンのSnow社が販売するソフトウェア資産管理(Software Asset Management =SAM)製品のマーケティング文書。講師の舟津由美子先生が過去に受注した案件を、取引先の許可を得て教材化したものだという。受講生は事前に訳文を提出しており、うち5名分を先生が添削。それらを授業で講評・検討するという流れだ。

冒頭では、前回の課題に関するフォローアップが行われた。ある受講生からdynamicallyの訳について質問が出ており、これに対する回答だった。先生は、英英辞典、英和辞典、国語辞典、IT辞典と、複数の辞書で調べた結果を示しながら解説していく。最終的には「動的に」という訳語が適切との結論に至ったが、ただ答えを教えるのではなく、「なぜそうなるのか」「どう調べればよいのか」に重点を置き、正解にたどり着く道筋を示すような内容だった。

続けて、今週の課題範囲。前半は舟津先生による講義だ。まず、文書のタイプや製品名、想定読者、目的などを分析する「プロファイリング」の中身を確認した。例えば、今回の文書は「B to B(企業間取引)のマーケティング文書」であり、想定読者は「組織内のIT部門等の担当者・責任者」、目的は「日本市場に製品の魅力をアピールすること」。どんなに上手な訳でも、読み手や目的に合った文章でなければ意味がない。受講生は、プロファイリングを行った上で課題に取り組むよう指導されているという。

その後は、課題文を訳す上で知っておきたい背景知識の解説に移った。「SaaSはSoftware as a Serviceの略で、『サース』と読みます。実体のある製品やパッケージではなく、サービスとして提供するビジネスモデルの一つです。例えば、CD︲ROMをドライブに入れてインストールする必要がなく、URLにアクセスすればすぐに使えるアプリケーションやソフトウェアと考えてください」。耳慣れないIT用語も具体的にイメージできるよう、舟津先生は身近な例を挙げながら説明していく。

つまずきやすい表現や文法も見ていった。例えば、translateという語。辞書には「〈プログラム・データ・コードなどを〉ある形式から別の形式に変換する」とあり、課題でも「変換する」と訳した受講生が大半だった。「原文をよく見てください。アプリケーションやソフトウェアが変換されるわけではなく、商用ソフトウェアの製品データベースに形を変えて取り込まれるということです。そこを取り違えると大きな誤訳になります」と、先生。辞書に載っている訳語を鵜呑みにするのではなく、原文と向き合いながら正しく意味を捉えることの大切さが伝わってくる。

たった3語の見出しにも訳出の意図がある

授業の後半では、受講生の訳文に対する講評と検討が行われた。課題文の冒頭はSNOW SAM PLATFORMという1行。たった3語の短い見出しだが、「SnowのSAMプラットフォーム」「SNOWソフトウェア資産管理プラットフォーム」など、受講生の訳例には幾通りものバリエーションが見られた。「なぜ、全て大文字になっていると思いますか?そう、見出しだからですね。日本語版では、会社名の正式表記であるSnowを用いる方がいいでしょう。SAM PLATFORMは「SAM」という略語をそのまま残すことで、『おや、何だろう』と読み手の注意を引き付けることができます。後に続く説明を、関心を持って読んでもらえるのです」。舟津先生は、読み手を意識したライティングのコツを織り交ぜながらこう解説した。

この後も、受講生とやりとりをしながら訳文を検討していった。印象的だったのは、先生が必ず「なぜこのように訳したのですか?」と尋ねることだ。答えられるようにするためには、入念に調べ物を行い、頭で考え、合理的な根拠に基づいた訳文に仕上げておくことが前提となる。プロとして独り立ちするために欠かせないスキルが、自然と身につく授業スタイルになっていると感じた。

最後はQ&Aセッション。訳文そのものに関する質問はもちろん、「データにおけるノイズとは具体的に何か」など、IT用語を本質的に理解しようとする質問も多かった。受講生たちの真剣さが伝わる、熱気あふれる2時間だった。

講師コメント

総合翻訳科カレッジコース
「IT・マーケティング」
舟津由美子先生

ふなつ・ゆみこ/実務翻訳者。テクニカルライター、外資系IT企業の社内翻訳者などを経て、現在はフリーランスとしてIT・マーケティング関連の翻訳を手がける。訳書に『インシデントレスポンス 第3版』(共訳、日経BP社)。


翻訳は、人生経験の全てが糧になる
視野を広げて色々な挑戦をしてほしい

この授業ではIT分野を軸に、近年需要が高まっているマーケティング関連の文書を扱います。マニュアルなどの翻訳には機械翻訳が使われる場面も増えてきましたが、その一方で、販売促進やプレゼンのための資料など、訴求力のある文章を上手に訳せる翻訳者は慢性的に不足しています。そうしたスキルを育てていくことが、このクラスの目標です。

ITは最先端の分野なので、自分がまったく知らない製品やサービスを扱う機会が少なくありません。受講生の皆さんには、未知のものであっても翻訳できる力を身につけてほしいと考えています。授業では調べ物の仕方や専門知識の身に付け方などを伝え、どんな案件が来ても自力で何とかできるようにと心掛けながら指導をしています。翻訳の上達を目指すなら、授業で学んだことをそのままにしないことが大切です。授業で理解を深めた上で、もう一度、課題に取り組んでみてください。そうすることで、着実にスキルアップが図れます。

機械翻訳の精度向上で、業界の未来を不安に感じている人もいるかもしれません。先のことは誰にも分かりませんが、常に業界の流れを追い、最新の情報をキャッチアップしていくことは大事です。変化が起きたときに、準備をしていた人とそうでない人とでは差が出ます。

フリーランスとして活躍したいと志す人は多いですが、それはいつでもできることでもあります。翻訳は、人生経験の全てが糧になる、とても恵まれた仕事。だからこそ、選択肢を狭めずに、視野を広げて色々なことに挑戦してほしいですね。