第13回 ノマド翻訳者の英会話修行

言い訳はやめよう

連載開始から1年が経過して迎えた新年の抱負はTo be humble(謙虚であれ)。そんなわけでさっそく文体を変えてみました。ただhumbleというのは、単に態度が控えめというだけでなく、「身の程をわきまえている」というのが本義だと思います。フリーランス翻訳者として15年近く翻訳一本で家計を支え続け、東京で住宅購入し、さらにはリゾートマンションまで保有するに至ったことを、僕はこれまでprideにしてきました。しかしそんなものは捨て去り、自分を改めて見つめ直して翻訳力を含めた能力の向上に努めていこうと誓ったわけです。

で見つめ直してみると、僕は英語を扱う翻訳者でありながら英会話がスムーズにできない。読むことや考えて書くことは仕事として毎日していても、英語を話すことはめったにありません。留学経験はないに等しく、その後もネイティブと会話する機会はないに等しかった。だからしゃべれなくて当然なんです。だって日本語も、日常的に口からアウトプットを繰り返しているから言葉がさっと出てくるわけでしょ?

という言い訳を、僕は長年続けてきました。仲間内では「英語で食べているくせに英語がしゃべれない」という点をむしろ売りにし、そういうキャラに安住してきました。確かに英会話力を上げたところで、翻訳仕事をする上での直接的なメリットはないかもしれません。でも通訳業への道が開けるし、「翻訳者なら英語ぺらぺらで当然」という一般人の期待に応えたい。そんなわけで、これまで避けてきたスピーキングという課題に取り組むことにしたのです。
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しゃべりの場を求めて

正月の帰省先から帰って来て真っ先に始めたのが、カフェ英会話♪というコミュニティーへの参加でした。自分に足りないのは英語を口からアウトプットする機会なので、相手はとりあえず日本人でも構わない。重要なのはしゃべりの場へ通う回数。その点、このサークルは都内各所などで毎日開催していて、参加費もドリンク代+500円のみということで自分に最適と考えました。

さっそく新宿会場へ行ってみると参加者は十数人。自己申告のレベル別に4人席のテーブルに分かれて会話をしました。これまでなら「ゆうてもこっちは翻訳者だぞ!」というarrogantな態度で臨んでいたかもしれませんが、humbleな今年は違います。そもそも、僕と同じ状態の翻訳者は珍しくないでしょうから、同業者さんもいるかもしれませんね。humbleすぎて聞き手に回りがちになり、相づちの打ち方ばかり上達してしまったので、次はもうちょっと積極的に話してみます。
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英会話特訓inリゾートマンション

改めて英会話力のなさを思い知った上で子供たちの冬休みが終わると同時に向かったのが、セカンドオフィスにしている越後湯沢のリゾートマンションでした。英会話自主トレには最適な環境です。というのも人とめったに会わないので、日本語を口に出すことも耳にすることもほとんどありません。毎日大雪でなかなか外出できなかったのも修行には好都合でした。英語を話し続け、室内でも愛犬ベックとの散歩中もポッドキャストで英語を聞き続ける日々。結局8日間の合宿中に発した日本語は「あ、そのままでいいです」の一言だけでした(コンビニの駐車場で食べようとしたおでんの容器を厳重に密閉しようとした店員さんに対して)。

特訓メニューは、まずSkype英会話。数あるスクールの中で僕が選んだのはDMM英会話です。上述の理由で相手はフィリピン人の先生でも構わないのですが、ネイティブの先生を選べるというプランがあり、お値頃だったのでそれに決めました(通常月1万5800円のところを半額の7900円)。正直「先生」といっても何かを教えてもらうことは期待しておらず、アウトプット+課題を見つける場として使っています。会話中、言いたいことがさっと出てこない。そのフレーズを都度メモし、あとで考えるなり調べるなりするわけです。

オリジナル表現集

オリジナル表現集

英語脳へのスイッチ

これを大浴場へ持っていって暗唱し、サウナでのぼせながら反復し、部屋ではベックに語りかけます。ボディーランゲージ練習の相手もベック。「英語脳に切り替える」とよく言いますが、そのスイッチとして有効なのがボディーランゲージではないかと考えました。日本語で話す時は手なんて動かさないけど、英語の時は身振りを大げさにしてみる。それによってネイティブを「演じる」ことができ、発音もカタカナ英語ではなくなる、という仮説です。リスニングについても「聞き流すだけ」でなく、ポッドキャストの中でスクリプトを提供しているものを見つけて精聴するというトレーニングをしました。

反応に困るベック

反応に困るベック

 

そして東京へ戻り、満を持して向かったのが個人英会話レッスンです。ネイティブ先生ドットコムというサイトで先生を見つけました。プロフィールやレッスン料などを参考に好みの先生を5人選び、手数料を払うと連絡先を教えてもらえるというシステムです。

マンツーマン1時間2000円、カフェでなく専用ルームでやるからコーヒー代もかからないというアメリカ人先生の自宅で、特訓した表現そしてボディーランゲージも披露してきました。練習していた技「ダブルクオーテーション」(ピースサインから指を曲げるやつ)は繰り出せませんでしたが、早くも特訓の効果を実感できました!継続して、この連載が終わるまでに英語ぺらぺら宣言ができればと思っています。