
第8回 料理男子とアイディア対決!
バイキングの子孫は料理男子!?
第7回までお読み下さった皆様はお察しのとおり、私のゲストの多くは北欧です。つまり先祖はバイキング。ガイドの仕事を始めた頃、ある男子オンリーの旅行者一行に、私の思い込みを正されました。
「もしかして、スウェーデンでも男は外で狩り(=仕事)をして、女は家で食事を用意すると思ってる?」
はい、うすうすそう思っていました。
「残念、実際はその逆だね、獲物をとったらさばけないとだめなんだよ」
おおお、ということは、彼らは料理男子!
よくよく話を聞いてみると、毎日の夕飯を用意するなんて当たり前。「毎日パンも焼くけど、それ普通じゃないの?」と言い放ち、私の想像をはるかに超えるスーパー料理男子もいました。そういえば、昔フィンランドで友人のご両親の家にお邪魔したときも、近所の川で突然大きな魚を釣ってきてキッチンに直行してオーブン焼きにしてくれたのもお父さんだったな……。自然と共存して暮らしている国の男性陣が料理する姿といえば、たまに行くキャンプで、ハム会社のCMのごとく、夜の森でかがり火をじっと見つめる中(チェックのシャツに立派な髭のイメージ)、ソーセージの焼ける音がパチパチ……そんな感じで、日常的にはあまり料理せず、手の込んだものも作らないだろと思ってたので……これはまた大変失礼いたしました。
こんな料理大好きのグループが次々とやって来るのですが、ごく最近も来日の機会がありました。まずは例のごとく、自身の名前入りの包丁を手に入れたら、次に向かうは築地です。
料理男子と食材の宝庫・築地へ!
築地といえばツナオークション。いつ行っても、朝も早くから大挙して一体どこからこんなに来るのかというほどの人が群がっています。豆腐屋さんの起床時間並みに早く現地に行かないとマグロの競り見学は間に合わないのですが、幸いにも今回は競り見学ナシでした。ガイドとしては大変ありがたいチョイス、心から御礼申し上げます。
最初に場内市場をさらっと歩いたら、場外市場の方へ向かいます。市場というのは見る分には観光客としても十分楽しめますが、買うとなると商品は生ものが中心のため、外国人旅行客にとっては「ああ、住んでいれば持って帰れるのに!」という残念さを感じることもしばしば。
しかし、今回の皆さんは違った! 何しろプロのシェフを含むスウェーデン料理男子チームのため、何が何でも珍しい日本の食材を持ち帰り、実験……ではなくて、ハイブリッドメニューに挑戦する気満々。
おまけに「何かいいアイディアを思いついたらレシピ書いてみてよ」とか素人の私にも微妙にプレッシャーが……。「とんでも創作料理になっても知らないよ?」と言いそうになりましたが、一応立場上「任せてくださいっ!」と返答しておきました。ガイドはときにはこういう根拠のない自信(というハッタリ)も必要です。
そして場内エリアを一行は進む、進む。最初の路地でまず足を止めたのは、彼らいうところの「ベイビーフィッシュ」、つまりシラス屋さんです。「何万もの目が俺たちを睨んでるぜ」とか「こんな干からびてるのも売っていいのか?」とか(それはちりめんですね)、最初はいろいろな事を言っていました。
そこでシラスが何であるかと主な食べ方を説明すると、建設的なブレーンストーミングが即開始となります。
「一番簡単そうなのは、ペペロンチーノ風にパスタに入れるってやつかな?」
なるほど仰る通り。
「スープに入れるとだしが出そうだ」
お、なかなかスルドい!
「パルミジャーノと一緒にフライパンで焼くと、昨日イザカーヤで食べたマットと同じになりそうじゃないか?」
んんん? マット? ……昨日の夕方に食べたマットって、それはもしかして「たたみいわし」か? 確かにチーズとシラスをフライパンで平たく延ばして焼けばああなりそうです。しかもなかなか美味しそうな組み合わせだなぁ、私も心のメモに記入しました。こんな感じで築地で逆提案を受けることも良くあるんですよ。
結局、彼らはちょっと日持ちのしそうなちりめんじゃこを1kgご購入。どれだけ大きなマットを作る気なんでしょうか(笑)。文字通りたたみいわしが1畳分できるよ、と伝えておきました。
まだまだ続くレシピの開発合戦
さて、次の路地で私たちを待っていたのは、北欧からの皆さんにはおなじみの味である「鮭」。でも塩鮭って向こうはないんですよ(私も現地のアパートに泊まっているときは洗濯物のとなりで鮭を干して自作しています)。産地や時期に加えてそれぞれ好みの塩加減がいろいろあってね云々と説明しているのですが、さすがにこれは持って帰れなさそうだとあってテンションが低い……と心配していたら、ひとりが目を輝かせて「これはいける!」と鮭フレークの瓶を発見しました。マヨネーズで和えてサンドイッチだよな、とかライスサラダに入れると綺麗だよなとか。さすが鮭扱いはお手のもの。ここは私の出番はないようです。他にはなめたけをポテトサラダに入れてみる、といった私がすぐに試してみたい案も出ました。
また、乾いたふぐひれを見つけては、温めた酒に入れて風味を楽しむものだと言っているのに、アイスクリームにトッピングとして刺すとか(うーん、飴細工のイメージ?)、クジラベーコンを目玉焼きに添えてちょっと社会問題を考える朝食にするとか、だんだん食欲をそそらない珍レシピの開発合戦は続くのでした。
この先も築地の路地はあと数本あるのですが、このまま続けるとあと数時間かかるのでこの辺でやめておきましょうか。ところで、築地を歩きながら「日本には“愛は食卓にある”という言葉があってね」と、あるマヨネーズ会社の名キャッチコピーをさも自分が考えたように伝えると、大抵の方は感動してくれます。ゲストの皆さんの食卓上の日本愛も末永くよろしくお願いしたいと思います。