第3回 単語の並び順と訳文のリズム

応募訳文 その2

【21】
ヴェルサイユ宮殿の誰も知らない舞踏室
スペンサー・ホルスト

 優雅で、贅沢に造られ、未だベールに包まれたままの『誰も知らない舞踏室』がヴェルサイユに遺されていて、床全体は、脆い鏡板を滑らかな一面の鏡にして造られ、暗闇の中で埃を被る事なく大切に守られ、2世紀もの間、揺らめく光も、月の光も、マッチの炎も、ランプの灯火も、何かの光も、少しも入る事はなかった、かつての出来事を除けば。当時、昆虫の卵のごくわずかな分(巨大なガラスの床の上に鋳造物が置かれて、床にひびが入ってしまい、その間ずっと、割れ目を通り抜けて風で飛ばされていた)がかえり、中からホタルが現れたのだ。
 1893年の事だった。

【22】
ベルサイユの隠されたダンスホール
スペンサー・ホルスト

優雅で絢爛、だが未だ日の目を見ないベルサイユの『隠されたダンスホール』。
床一面に数多の壊れやすい鏡板が敷かれ、なめらかなひとつの鏡面となり、埃が積もることもなく闇の中に存在する。2世紀の間かすかな光も入らず、わずかな月光も、マッチ、ランプ、いかなる光も入ることはない、一度を除いては。そのとき、小さな虫の卵ひと群れ(卵はくり形のほころびに走る裂け目を吹き抜けて広大なガラスの床の上に落ちた)から蛍が孵った。1893年のことだった。

【23】
ヴェルサイユの秘密の間
スペンサー・ホルスト

 豪華絢爛。それでいて人目につくことのなかったヴェルサイユの《秘密の大広間》には、繊細なガラス板が一枚のなめらかな鏡のように敷き詰められ、暗闇のなか塵ひとつ落ちることなく、二世紀ものあいだ月明かりはもちろんマッチやランプなどのわずかな光さえも入ることがなかった。ただの一度をのぞいては。そのとき、わずかばかりの虫のたまごの塊(部屋の縁にあった裂け目から荘厳なガラスの床に吹き込まれたもの)が孵り、蛍になった。
 1893年のことだった。

【24】
ベルサイユの秘密の舞踏室
作:スペンサー・ホルスト

 ベルサイユに、優美でぜいたくな、だが誰も知らない、「秘密の舞踏室」がありました。その床ぜんたいは、こわれやすいガラス細工のような羽目板をたくさん組み合わせた、つるりとした一面の鏡になっていました。暗闇の中、ほこりもかぶらず、誰一人立ち入らず、二百年もの間、月の光や、マッチやランプの炎どころか、なんの光もちらりとも動きませんでした。たった一度のときを除いて。ちいさなちいさな虫の卵のかたまり(天井と壁の間のちょっとしたすき間から吹き込んで、飾り細工のちょっとした欠陥をくぐりぬけ、すてきに広いガラスの床に落ちてきたものです)から生まれたのは、ホタルたちでした。
 1893年のことでした。

【25】
ベルサイユ宮殿の秘密の舞踏室
スペンサー・ホルスト

 優雅できらびやかで、でもまだ誰も見たことがない、ベルサイユ宮殿の「秘密の舞踏室」。たくさんの繊細なガラス板をつなぎ合わせて、床全体が1枚の滑らかな鏡のようになった、その塵ひとつない鏡の床は、200年もの間、一筋の光も差し込まず、月の光も、マッチの炎も、ランプも、光というものがまったくない世界で暗闇の中に沈んでいました。ただ一度、ほんの数個の虫の卵(あのすばらしいガラスの床をつなぎ合わせたときにできた、小さなつなぎ目のすきまから入り込んだのでした)から蛍が生れたときを除いて。
 1893年のことでした。

【26】
『ヴェルサイユ宮殿の秘密の舞踏室』 スペンサー・ホルスト

 美しい、贅を尽くした、誰も知らない〈秘密の舞踏室〉がヴェルサイユ宮殿にあり、その床は、何枚もの割れやすい硝子を使って、一枚の滑らかな鏡に仕上げてあります。真っ暗で、埃は一切落ちておらず、二百年ものあいだ、月やマッチや燭台などの光は一切届かなかったのですが、一度だけ、こんなことがありました。小さな虫の卵が(風に運ばれて、大きな鏡の床の縁の、小さく欠けた隙間から入っていて)いっせいに孵り、蛍が生まれたのです。
 一八九三年のことでした。

【27】
ヴェルサイユ宮殿の秘密の舞踏室
スペンサー・ホルスト

 ヴェルサイユ宮殿には優雅で華麗だが、誰も知らない「秘密の舞踏室」がある。床は何枚もの繊細なガラス板を敷きつめた滑らかな一枚鏡になっており、暗闇の中で輝きを放っている。二世紀のあいだ、揺れる灯火や月の光、マッチやランプなどのどんな明かりが差し込むこともなかった。ただ一度を除いては。そのとき、小さな一群の虫の卵(美しいガラス張りの床に生じたわずかな隙間に産み落とされた)が孵化し、蛍の幼虫になった。
 一八九三年のことである。

【28】最優秀訳文
ヴェルサイユの誰も知らない舞踏場

 優雅で豪奢で、いまだ発見されていない、ヴェルサイユの「誰も知らない舞踏場」は、床全体が、何枚もの繊細な鏡板を滑らかに一枚の鏡になるようにつなげて作ってあり、2世紀ものあいだ、ほんのわずかな月光も、マッチや、ランプの灯りも、どんな光も射したことがないが、一度だけ例外があった。それは、小さなひとかたまりの昆虫の卵(建築上の欠陥からくる隙間から、素晴らしい鏡の床へと入りこんだ)が孵化して何匹もの蛍になったときである。
 それは、1893年のことだった。

【29】
 洗練されていて豪奢な、未だに発見されていないベルサイユの「秘密舞踏場」。そのフロアすべては、壊れやすい多くの鏡板を用いて滑らかな単一の鏡面を構成し、暗闇に埃をかぶることもなく佇み、一度を除いて二百年の間、月光、マッチ、ランプ、他の光の瞬きにすら進入されていない。その時は、虫の卵の小さな塊りが、モールディングの欠陥の隙間から風に運ばれ、その素晴らしい鏡フロアに降りて、ホタルを産み落とした。
 それは1893年のことであった。

【30】
ベルサイユには、優雅で贅沢で、それでいて誰も足を踏み入れたことのない「ひみつの舞踏場」がある。もろく危うい鏡板を敷き詰めた床は滑らかな一枚の鏡のようであり、暗闇の中で埃ひとつ落ちてはいない。二世紀ものあいだ、月明かりも、マッチやランプなどの照明も、どんな幽かな光のゆらめきも照らすことはなかった。ある一度をのぞいては。そう、ある一度。豪華なガラスの床の、ほんの少しのゆがんだ隙間から、ちいさなちいさな虫のたまごが風に乗って入り込んだことがある。たまごから孵ったのは、蛍。

 一八九三年のことであった。

【31】
ヴェルサイユ宮殿の隠し舞踏室
スペンサー・ホルスト

優雅にして華麗、それでいて未だ発見されざる、ヴェルサイユ宮殿の「隠し舞踏室」、床一面には脆いガラスが、鏡のように滑らかに、清しいままで眠るその暗闇は、二世紀の間、一瞬の光も入らない、月の光もマッチやランプ、そのほかどんな明かりさえ、たった一度を除いては。
それはほんの小さな、ひとかたまりの虫の卵、風に吹かれて隙間をくぐり、壁の飾りの疵をすり抜け、見事なガラスの床に降り立ち、生まれたものは蛍たち。
1893年のことだった。

【32】
ベルサイユ宮殿の秘密の舞踏場 (スペンサー・ホルスト作)

 優雅で豪勢な、それであって世の中に知られていない「秘密の舞踏場」が、ベルサイユ宮殿にあった。そこは、フロア全体が、たくさんの割れやすいガラス板を使った、一枚の滑らかな表面の鏡でできており、塵一つない暗がりのなか、二世紀にわたり、炎の揺らぎや月明かり、マッチやランプなどの光が何一つ入ってこなかった、ただ一度を除いて。それは、くりかたの欠陥により生じた割れ目から、大きなガラスフロア上に吹き飛ばされていた、ちっぽけなかたまりの昆虫卵が、蛍に孵化したときである。
 1893年のことであった。

【33】
ベルサイユの秘密のダンスホール
スペンサー・ホルスト著

 優雅で豪華、しかし隠されている「秘密のダンスホール」がベルサイユには存在する。ダンスホールの床全体はいくつもの繊細なガラスでできており、表面がなめらかな一枚の鏡となっている。暗闇の中、埃がかぶっているということはない。2世紀の間、揺らぐ光が入ってくることはなかった。ほんの少しの月光もマッチの灯りも、ランプもライトも。たった一度を除いては。たった一度というのは、ほんのひとまとまりの昆虫の卵だ。素晴らしいガラスの床の上、鋳造物の欠陥から隙間ができ、そこから溢れた出てきたもの。孵化した蛍の卵だ。
 それは1893年のことだった。

【34】
ヴェルサイユの秘密のボールルーム
スペンサー・ホルスト

 ヴェルサイユに、豪華絢爛、誰にも知られていない秘密のボールルームがありました。床一面を繊細な鏡板で覆われており、200年間真っ暗闇のまま。月の光やマッチの炎、ランプの灯りもありません。
ある時、大きな鏡板の裂け目から入った蛍の卵が孵り、ちかちかと光が瞬きました。
 1893年のことです。

【35】
ベルサイユ宮殿の秘密のダンスホール

優雅で贅沢な、でも誰も知らないベルサイユの「秘密のダンスホール」は、床全体に、1枚づつの表面がなめらかなガラスでできたたくさんの壊れやすい板が並べられている。暗闇の中ほこりもなく、200年の間ほんの少しの光も、月の光も、マッチやランプの灯りも、どんな光も差し込んだことがない。たった1度を除いては。それは、小さな一塊の虫の卵(それは美しいガラスの床の上のモールディングの隙間から入り込んだものだった)から、蛍がかえった時だ。1893年のことだった。

【36】
ベルサイユに秘められた舞踏室

品があって華やか、それなのに誰の目にも触れたことのない”秘められた舞踏室”というのがベルサイユにあるそうだ。その床は一面繊細なガラスでできている。たった一つ鏡になっているのがあって、残りは塵ひとつない真っ黒だ。2世紀の間、僅かの光も・・・月光、マッチの光、ランプもだ・・・そのどれも差し込んだことはない、たった一度を除いては。その一度が何かというと、小さな虫の卵が・・・壁の割れ目に産み付けられたのが、例の素晴らしい床に垂れていたんだが・・・その卵が孵って蛍が出てきたのさ。
1893年のことだ。

【37】
豪華絢爛と言われるが依然として謎のままの、”秘密のダンス・ホール”がベルサイユにある。そこの床は、たくさんの薄いガラスをつなげて滑らかな一枚の鏡状にしたものである。その部屋には、二百年もの間塵一つ入らず、また、少しの光、一筋の月光やマッチやランプの灯り、他のどんな光も射すことはなかった、ただ一度のことを除いては。それは、床の一枚ガラスの継ぎ目を抜けて中に入って来た、ほんの少しの卵から蛍が孵化した時のことだった。
1893年の話である。

【38】
「ヴェルサイユ宮殿の知られざる舞踏場」
スペンサー・ホルスト著

 上品で豪華な、まだ知られていないヴェルサイユ宮殿にある「知られざる舞踏場」。そこの床全面は多くの薄い透明の窓ガラスが平らに敷き詰められて出来ていて、置いてあるのはたった一枚の鏡だけ。真っ暗で埃一つなくきれいなままで、ある一時を除いては、ゆらめく月明りもマッチもランプも少しの光すら無いところにあり、200年もの間、まだ誰も入った者はいない。その一時とは、(広いガラスの床に施された繰り型の欠陥部分の隙間から吹き飛ばされてきた)昆虫の卵の小さなかたまりが孵化して生まれてきたホタルが光を放つ時。
 あれは1893年のことだった。

【39】
 優美にして豪奢、そして誰の目にも触れることない、ベルサイユの「秘密の舞踏場」は、多数の頑丈とはいえないガラス板で作られた床全体が、なめらかな一枚鏡の表面をかたちづくり、暗闇に埃一つなく、二百年のあいだちらりとも光を入れることがなかった。月光だろうと、マッチやランプだろうとその一切を、いかなる光であろうとも。ただ一度の例外を除いて。それは、小さな卵群(建材の合わせ目に生じた隙間からガラスの大広間に吹き降りた)から蛍がかえったとき。
 一八九三年のことであった。

【40】
ヴェルサイユ宮殿の秘密の舞踏室
スペンサー・ホルスト作

 優雅で贅を尽くした、しかし世に知られざる「秘密の舞踏室」がヴェルサイユ宮殿にございます。床は一面、もろいガラス板をうんと使ってこしらえた、すべすべの一枚の鏡でできておりまして、埃もつかず闇の中を眠っていると申します。二〇〇年このかた、月の光も、マッチも、ランプも、一筋の光も射すことはなかったのでございますが、ただ一度だけ、例外がございました。それは、小さな虫の卵が床の鏡の接合部分のわずかな隙間に産みつけられて、ホタルの群れが孵化した時なのでございます。
 一八九三年のことでございました。

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