第44回 被災者の皆様にお見舞い申し上げます

■第43回ウルトラショート翻訳課題の講評

<課題文>
She had nothing to do with the e-mail that had been driving me crazy, but she had innocently walked into my office, making herself a handy target for a glare.

<解説>

“I’m sick and tired of killing this stupid inspirational junk,” I said. “If Julie Singletree doesn’t stop sending it, I’m going to kill her, as well as her messages.”

課題文の前の部分をざっと読んでおきましょう。「sick and tired of…」は、「もーいや」みたいな感じで、良く使う表現ですね。killは「始末する」ですが、メールの話ですから、まあ要するに「消去」ということでも良いと思います。「stupid inspirational junk」は「くだらない、思いつきのジャンク(メール)」です。その次は「ジュリー・シングルツリーのやつが送ってくるのをやめなかったら、メッセージと一緒に本人も消去してやるわ」くらいかな。

I’d been talking to myself, but when I raised my eyes from the computer screen, I realized I was also snarling at Aunt Nettie. She had nothing to do with the e-mail that had been driving me crazy, but she had innocently walked into my office, making herself a handy target for a glare.

これを念頭に置いて次へ行くと、「独り言を言っていたのだが、コンピューターの画面から目を上げると、自分が怒鳴った先にネッティーおばさんがいることに気付いた」ということになります。その先が課題文ですね。「drive someone crazy」は「おかしくする」で、この場合自分が目的語ですから、「私を狂わせる」ですが、これでは意味が通じませんから「頭痛の種」のようにしても良いでしょうし、「頭をかきむしりたくなるような」みたいに工夫してみてもいいでしょう。innocentlyは、「あどけなく」や「悪気なしで」みたいな意味もありますが、ここでは「知らずに」とか「何げなく」くらいに訳した方が流れが良くなると思います。「そんなつもりはなかったのに」でも可。a handy target「手頃な標的(相手)」「格好のまと」とかでもいいですね。a glareはにらむことですから、そのままにらみを使っても怒りで処理してもいいかな。

ではコメントです。

★訳文記載について
・訳文は応募順に記載しています。
・赤字…最優秀訳文、ピンク字…敢闘賞受賞訳文です。

1.
気が変になりそうなこのEメールと、彼女は何の関係も無かったのだが。無防備に私のオフィスへ入ってきた彼女は、睨みつけるのに格好のターゲットだった。

<コメント>これは文芸ものなので、縦書きを意識しましょう。Eメールが縦書きになると読みにくいんですね。ですから(電子)メールとしてしまった方が良いと思います。彼女が同じ文章で2回も出てくるのは頂けません。和訳はいかに代名詞を減らすかが勝負といっても過言ではないです。たとえば、『「彼女と会った時彼女は彼女の好きな本を持っていた」と彼女は言った。』がいかに読みにくいかわかりますよね。

2.
私を発狂させていたメールと彼女は全く関係ないのだが、そんなことは露とも知らずに私のオフィスに足を踏み入れたものだから、彼女自ら怒りの矛先を向けられる手近な獲物へとなってしまったのだ。

<コメント>「発狂させる」はちょっとことばの選び方に問題あり。「きーっと叫びながら頭かきむしる感じ」というとイメージ分かりやすいかなあ。だから「おかしくなる」くらいが限界かと。「まったく」は開いた方がいいですね。「彼女自ら~なってしまったのだ」は少し読みづらい感じがします。
<余談>翻訳は仕事になると最後は体力になってきます。完璧な訳文と誤訳が混在する訳文より、全体が安定して90%の訳文の方が良いことになりますので。(あ、誤訳が10%あるという意味ではないですよ。)

3.
ネティおばさんは、私をイライラさせているくだんのメールとは何の関係もなかったが、私の事務所にお構いなしで入り込んで来るものだから、怒りをぶつける恰好の標的となったのだ。

<コメント>悪くないと思います。「お構いなし」は少し「無頓着」のようなニュアンスも感じられるので、もう少し中立的でいいんじゃないかな。
<余談>がんばりましょう。センスあると思いますが、少し技巧的かな。

4.
彼女は私をいらつかせていたメールとは何の関係もなかったのに、何も知らずにオフィスに入ってきて、憎悪の表情を浮かべた私とちょうど目が合ってしまったのだ。

<コメント>前半は良いと思うのですが、ちょっと「憎悪の表情」が浮いていますね。コジー・ミステリーなので、もう少し「ほよん」とした感じで。
<余談>はじめまして。どうぞよろしく。

5.
伯母さんは私をいら立たせているメールに何の関係もないのだが、何食わぬ顔でオフィスに入ってきたので、怒りの眼差しを向ける格好の標的となってしまったのだ。

<コメント>「メールに」の「に」がちょっと違和感がありますね。「メールとは」。「何食わぬ顔」は「何も知らないといった顔。そしらぬ顔。」(広辞苑)ですから、ちょっと違ったニュアンスで受け取られるかも知れませんね。全体としては良くまとまっていると思います。あと叔母と伯母があって、英語ではどちらかわからないことも多いので「おばさん」としておいた方が良いかも。
<余談>こちらこそどうぞよろしく。がんばってね。

6.
おばは、私の神経を逆なでするEメールとは無関係であったが、私のオフィスに何も知らずに入ってきて、わけもなく睨まれることになってしまった。

<コメント>縦書きになるので、(電子)メールの方がいいかな。「逆なでしている」の方がよいかも。後半はなかなか良い感じですね。
<余談>仕事はそういうものです。でもだからこそやりがいがあるともいえます。

7.
おばさんはこのイライラさせられっぱなしのジャンクメールとはまるで関係がなくて、何気なくこの事務所に入ってみたら、折しも自分に怒りの視線が向けられていたのだ。

<コメント>音読してみてください。読みにくいと思います。3つの事象が流れを感じさせずに並んでいる印象です。たとえば「この事務所」は誰の事務所かということです。もともと一人称ですから、視点をもっと明確に。

8.
おばさんは私のイライラの元だったメールとは全く関係なかったのだが、何も知らずに私の部屋に入ってきたところに、ちょうど怒りの視線をぶつけられてしまったのだ。

<コメント>「まったく」は開いた方がいいですね。リーガルや特許以外はあまり漢字が多すぎると読みにくくなりますので、特に副詞を意識してひらき、また句読点をうまく使うとずっと読みやすくなります。全体的にはよくまとまっています。
<余談>お役に立てたならうれしいです。やればやるほど、英語は難しく、自分の無知と若い頃の不勉強を悔やむばかりです。

9.
私を悩ませるそのメールとは何の関係も無いはずの彼女は、いつの間にか事務所に入ってきたかと思うと、目の前で私をじっと睨み付けていたのだ。

<コメント>ええと、これは逆です。コンピュータの画面を見て怒り狂っていて、ふと目線をあげると、ちょうどオフィスに入ってきたおばさんをにらみつけるかっこうになったんですね。
<余談>今回の作品は一人称ですから、そこを意識して考えないと。

10.
叔母は私を半狂乱にさせていた客からのメールとは無関係に、何食わぬ顔で事務所に入ってきて、私の苛立ちの目を向けるに格好の標的となっていたのだ。

<コメント>「半狂乱」は「気が狂ったようにとり乱すこと」で、そこまでは行ってないです。「きーっ」くらいです。「何食わぬ顔」は上述。もう少し細かなニュアンスを出せると良かったですね。

11.
彼女は、僕をイライラさせていたメールと何も関係なかったが、たまたま私のオフィスに入ってきたので、自然と怒りの矛先となってしまった。

<コメント>ええと主人公は女性なので、「僕」はまあ確かにアニメものとかではありかも知れませんが、ここではアウト。あと「僕」と「私」と主語が変わっているのもだめです。地の文自体は悪くないんですけど。
<余談>最初の訳文がだいたい一番良いというのはよく言われます。その段階でしっかり読み込んでおくことが大切ですね。

12.
彼女は私を悩ませていたEメールとは無関係だったが、何も知らずに私のオフィスに足を踏み入れ、にらみの格好の的になってしまったのだ。

<コメント>うーん、惜しいなあ。「~踏み入れ」まではかなり良い感じ(Eメールは(電子)メールの方がいいかも)なんですが、「にらみの格好の的」ってすっとはいってこないですよねえ。

13.
彼女は私を苛立たせていたそのメールとは全く関係がなかったのに、何気なく私の仕事場に足を踏み入れたばっかりに、あっさりと私の怒りの矛先となってしまったのである。

<コメント>「まったく」は開いた方がいいですね。「怒りの矛先」としてしまうと、おばさんが怒られたことになってしまいますが、ここではにらみつけることになっただけで、おばさんに対して怒っているわけではないです。
<余談>はじめまして。つたないコメントばかりですが、どうぞよろしくお願いします。

14.
ネッティーおばさんは、この腹立たしいメールに全く関係ないのだが、何も知らずに職場にやってきて、怒っている私の目の前に、絶妙のタイミングで顔を出したのだ。

<コメント>「まったく」は開きましょうね。これは結構良いと思います。ただ「職場」というと、誰の職場という疑問が浮かびますよね。my officeですから、やっぱりそこは訳出した方がいいと思いますよ。
<余談>自然体で訳せばいいだけなんですけど、それが難しいんですね。電子辞書、いまは本当に性能が良くなりましたねえ。うまく使いこなしてください。

15.
ネッティーはこの頭にくるEメールとはまったく関係なかったけれど、何食わぬ顔でオフィスに入ってきたものだから、私の八つ当たりの格好の標的となってしまったのだ。

<コメント>ネッティーおばさんの方が良いかな。縦書きになるので、Eメールよりは(電子)メールで。「何食わぬ顔」だと、ちょっとニュアンスが違うかな。「八つ当たり」したわけではないんですよね。
<余談>この手のミステリーはあまり血まみれじゃないのでいいです。シリアスなシリアル・キラー・サスペンスとかだと描写がえぐくて(^-^;

ページ: 1 2 3 4