第47回 生と死を考えるきっかけに

36.
彼は今日以前にこの家に居たことはなかったので、位置関係がつかめなかった。だから、やたらと歩き回ることを要求されなかったのは、多分運が良かったのだろう。それでも、この場所についてはっきりした地理感覚がなかったので居心地が悪かったし、この状況を改善するのにも、手助けなしでできることはほとんどなかった。

<コメント> 「今日以前」というのはちょっとわかりにくいですね。「今日初めて」か「これまで~ない」か。位置関係だけだと「何と何の間の?」という疑問が湧きます。「要求される」でも間違いではありませんが、「必要がある・ない」の方が楽。家の中の地理感覚とは言いませんよね。要はそういうところが工夫するところだ、ということになります。
<余談>have one’s bearingsは熟語です。DonovanのGet Thy Bearingsという曲がありました。

37.
スコットがこの家に入ったのは今日が初めてで、しかも方向音痴な彼にとって家の中をうろちょろする必要がなかったのは偶然の運だったといえるだろう。 とはいえ、家の間取りをしっかり把握できないのはあまり心地良いものではなかった。だが案内人無しでこの状況を改善しようとするのは到底無理な話だ。

<コメント> 「方向音痴」というほどではありませんね。「家の中をうろちょろする」は文体には合っていませんが、いいアイデアではあります。「偶然の運」はちょっと分かりにくい。「間取り」もちょっと浮いている感じ。
<余談>「先生」禁止(藁 年に100冊ちょっとですね。翻訳の勉強をしたことはありません。会社を辞めて、しばらく寝込んでいて、それから学校に通うこともなく、プロになりましたから。ただ会社員時代にいろいろな仕事を手を抜かずにやったことが、とても役立ちました。

38.
この家に入ったのは今日が初めてで、自分のいる位置がわからなかった。だから、あまり動き回る必要がないのは、思いがけない幸運といっていいだろう。それでも、この家の間取りをよくわかっていないので落ち着かなかった。しかも、一人ではこの状況を好転させるためにできることはほとんどなかった。

<コメント>「間取り」がちょっとひっかかるんですよね。それ以外は良い感じ。
<余談>Donna Andrewsは未読です。今度読んでみて、面白かったら取り上げますね。

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彼は今日までこの家に来たことがなかったので、自分の立場がわからなかった。だから色々と動き回る必要がなかったのは、おそらくはとても幸運なことだったろう。とは言え、この場所についてはっきりした知識がないのはおもしろくなかったし、その状況を改善するためには一人ではほとんど何もできないのも不愉快であった。

<コメント>辞書だと確かにhave one’s bearingsは立場なんですけど、もともと位置からきているんですね。ですから、立場と訳すのではなく、勝手とかにした方がわかりやすいです。「はっきりした知識」というのはアイデアとしては悪くないのですが、「おもしろくない」は違いますね。要は、一人で見知らぬ家にいて、何となく落ち着かないんです。
<余談>首相に限らず、政府については、とにかくうそをつかない、人を使う、正しい情報を正しいタイミングで提供する。これだけでもいいです。実際に、不信任案の件で明らかになったのは、鳩山氏もいけませんが、鳩山氏の向こうにいる国民もだまそうとしたことです。これをたくらんだのは、10人ほどの執行部や幹部ですが、この人たちは首相になってはいけません。仲間をだます人は国民もだますのですから。

40.
この家に入ったのは今日がはじめてで、どのあたりの部屋にいるのかもわからない。家の中をあちこち動き回れと言われなかったのは幸運だったろう。それでも全く知らない場所にいるのは不安だった。だが、自分ひとりではこの状況をどうすることもできない。

<コメント> 「どのあたりの部屋にいるのかもわからない」はいささかやりすぎという印象もありますが、それでも流れをとても良くしています。「まったく」は開いた方がいいです。逆接でつないだ感じになったところがなければMVPの可能性もありましたね。
<余談>流れは難しい。でも読者が翻訳だということを意識しない訳文を作るのが大切です。ぜひご一読を。

41.
彼がこの屋敷に来たのは今日が初めてだったし、ここがどの辺りなのかも分からなかったから、あちこち動き回らずにすんだのは運が良かったのだろう。だけど土地勘のないところにいるのは落ち着かなかったし、何とかしようとしても、ひとりではどうしようもなかった。

<コメント>「ここ」は屋敷の中の話なんですよね。そこがもう少しはっきり出ると良かったです。あとやっぱり家の中で「土地勘」はちょっと使いにくいです。「勝手」
<余談>the situationの解釈自体はあってます。

42.
この家に来たのは今日が初めてで、勝手が分かっていなかったので、それほど動き回る必要がないのは、これ幸いといったところだった。それにしても、現場の間取りがよく分からないと落ち着かなかったが、居心地を良くしようにも、相棒不在となるとなすすべもなかった。

<コメント>「間取り」はあまり好きではないのですが「現場の」を付けたことで落ち着きましたね。ただ何の現場なのかなと思う人もいるかもしれません。たまたまストーリーとあったのでOKです。後半はやや技巧に走りすぎ。もっと素直に。
<余談>そうですね。あまり凝りすぎないように。原文はけっこう(英語らしいですが)シンプルですから。

43.
彼がこの家に来たのは今日が初めてだったので右も左も分からずにいたが、あまり動き回る必要もなさそうだったのはラッキーだったと言えるだろう。それでも場所の土地鑑がないことは不安にならずにいられなかったし、だからと言って自分一人では改善策も見当たらなかった。

<コメント>「なさそう」ではなくて、「必要がなかった」んですね。「家の中の話」ですから、そこで土地勘は避けたいところ。必要がないことが、ラッキーっぽかったなんですね。

44.
今日この屋敷に初めて足を踏み入れた彼は、自分がどこらへんにいるのかわからなかった。だから、あちこち動き回る必要がなかったことは思いがけない幸運だっただろう。それでもやはり、自分の方向感覚に頼ることができず不安になり、どうにかしようとも一人ではほとんど手立てがなかった。

<コメント> 意味は取れてるんですけど「なかった」3連発はちょっとしんどいかなあ。uncomfortableは不安でも分かりますが、「落ち着かない」感じですね。「どうにかしようとも」は「どうにかしようにも」かな。
<余談>面白いですよ。~for dummiesというシリーズも読みやすいです。

45.
この家に来たのは今日が初めてだったので、スコットには自分の位置さえわからなかった。なので、あまり動き回らなくてよいというのは思いがけない幸運だった。しかし、土地勘のない場所にいるのはやはり居心地のいいものではない。道連れを得ないことには、この状況は好転できそうになかった。

<コメント>彼をスコットとしたのは正解。ただ「自分の位置」はちょっと分かりにくい。probablyは訳した方が良かったかな。土地勘とするとやっぱり家の外になっちゃいます。そっちに引っ張られて道連れになっちゃったかなー。

46.
この家に来たのは今日が初めてだったし、根気も持ちあわせていなかったから、あちこち動き回るように言われなかったのは運がよかったかもしれない。とはいえ、よく知らない場所で過ごすのは居心地のいいものではなかったし、一人でどうこうしたところで状況がよくなる見込みはほとんどなかった。

<コメント>「根気」はちょっと違うかな。「言われなかった」よりは「必要がなかった」。流れはいいんだけど、もともとhave the bearingsのbearingsというのは「方位, 自己の立場, 状況.」という意味からきています。
<余談>なかなかいい訳って思い浮かばないんですよー。提出したり、出版されてから後悔することも多々あります。

47.
この家に来たのは今日が初めてで、彼には西も東もわからなかった。あまり動き回る必要がなかったのは、おそらくもっけの幸いだろう。とは言っても、この辺りのはっきりとした地理感覚がなくて些か不安な気分だった。そのうえ、状況の改善に役立つようなモノも持ち合わせておらず、ほとんどなす術もなかった。

<コメント>「西も東も」は土地について使うことなので微妙かなあ。勝手の方が確実。「もっけの幸い」はちょっと浮くんですね。地理感覚としちゃうとこちらもやっぱり家の外まで入る気がします。「いささか」は開きましょう。「モノ」もやっぱりカタカナにしない方が良い(実際にはaloneという程度ですが。)
<余談>全体にトーンがばらついているような気がします。訳文はいくつも浮かんでくるもので、実際、一文ずつ練りながら訳す人、全部訳してから直す人などいろいろです。ただ大切なのはトーン。文体といってもいい。これが乱れていると読みにくいものになります。

48.
彼は、今日初めてこの家に来たばかりで、自分がどこにいるのかわからなかった。だから、あちこち動き回るように言われていなかったのはラッキーだった。 そうはいっても、場所の位置関係がわからないのは落ち着かなかったし、ひとりきりで、そんな状況を打開する方法なんてなかった。

<コメント> probablyは訳出した方がいいですね。「場所の位置関係」はぴんとこないかなあ。「状況を打開する方法」はアイデア自体は悪くないんですが、この文脈ではもっと軽い言葉になると思います。
<余談>いいえ、こちらこそ。

49.
彼は今日までこの屋敷に来たことなどなかったし、自分がどこにいるのかさえ分っていなかった。そのため、あまり動き回らないよう言われていたのは、おそらく彼にとって思いがけない幸運だった。だが、しっかりとした土地勘のない場所は居心地が悪いうえ、その状況をたった1人で改善するために、彼が出来ることなどほとんどなかった。

<コメント>比較的ストレートな訳文なのは好感が持てますが、「土地勘」はやっぱりちょっと違います。1人は「一人」で。(縦書きを意識しましょう。)知らない家に一人だったらどうしようもないですよね。「勝手」という便利な言葉があるんです。「勝手知ったる他人の家」みたいに使います。
<余談>雰囲気自体はけっこう良かったですよ。意味をもう少し正確に出せると良かったですね。

50.
彼は方向音痴なうえ、この家に来たのは今日が初めてだったので、ウロウロ動き回る必要がなかったのは、幸運だった。とはいえ、場所の感覚がつかめないというのは落ち着かず、かといってその状況を改善するのに、彼一人で出来ることはほとんどなかった。

<コメント>方向音痴ではないです。初めて来た家では誰でもどこに何があるか分からないですから。「ウロウロ」はカタカナにしなくてもいいんじゃないかなあ。probablyは訳した方がいいです。「その場所」の方がいいかな。「状況を改善」は意味はその通りなんですが、その通りに訳すと硬くなるんですね。
<余談>機種依存文字(http://www.s-ichi.com/semi/bght/cara.htm)参照。 産業翻訳はまず分野をきちんと決めた方がいいです。あと、食えるようになるまでやはり時間がかかるので、ワーキングホリデーでお金を貯めながら、勉強も続けるというのがいいかもしれません。

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