第54回 政治・経済を考える本はいかが?

41.
幸福感が、わたしの身体の細胞という細胞から、じわじわ滲み出ていた。いや、ちょっと違う。滲み出るという響きは、感じが良くないし、わたしが感じていたのは、明らかに不快なものではない。まるで違う。陶酔感に浸っていた。至福の喜びに輝いていた。店の手伝いのロッティーに言わせれば、ある種の神々しさを放っていた。

<コメント>「幸福(幸せ)がにじみ出る」というのは日本語にある肯定的な表現なので、そこをうまく処理しましょう。「不快」だとまだ弱いかな。「神々しい」はちょっと違いますが、こういう言葉についていろいろアイデアを鍛えることが大切です。
<余談> 量を読むと熟読するをうまく組み合わせてみてくださいね。

42.
喜びが体の細胞ひとつひとつからじわじわと流れ出ていったのよ。待って、違うわ。じわじわって、響きが悪い。私の気持ちは決してそんなかんじではなかったわ。全然違う。天にも昇るようだったわ。幸せが体からあふれていたのよ。アシスタントのロッティーも言っていたとおり、幸せのオーラを放っていたのよ。

<コメント> 流れ出てしまうとなくなってしまうんじゃないかな。「じわじわ」はそんなに響きが悪いという感じがしないと思います。まだ自分のイメージと訳文の間にギャップがあるかな。
<余談> すごいと思ったのは佐藤春夫、読みやすいという意味では加藤秀俊、感銘を受けたのは数多くありますね。

43.
体中の細胞という細胞から、幸福感がにじみ出ているようだった。待って、違うわ。「にじみ出る」なんて、何だか聞こえの悪い言葉。今の私の気分には似合わないわね、ちっとも。終始ポワンとしていて、愛の歓びにあふれている。助手のロッテも指摘したように、私はある種の艶っぽさを放っていた。

<コメント>工夫は分かるし前半の流れもなかなかのものなんですが、最後がちょっと雰囲気が違っていると思うんですよね。色気ではないと思います。ただ全体の流れは悪くないです。

44.
足の指先から頭のてっぺんまでのすべての細胞から幸せが滲み出てるみたいだった。いいえ、ちょっとちがうわね。身体から滲み出たって言うと汚いように聞こえるけれど、その感覚は決して嫌なものじゃないわ。絶対ね。私は幸せの絶頂の中にいたの。無上の喜びを撒き散らしていたわ。アシスタントのロッティーが指摘したとき、私はある種の満足感を得たほどだった。

<コメント> 「喜びをまき散らす」というのは何か汚く聞こえません? 最後は満足感を得たとはちょっと違う気がします。女性の独白を少し意識しすぎているのかな。もうちょっと。

45.
わたしの体の細胞という細胞から、幸せがにじみ出した。ううん、待って。“にじみ出した”って、有害なものみたい。でも、この感じは断じて悪いものじゃない。全然ちがう。ラリっている感じ。全身が喜びにあふれている。助手のロッティが指摘したように、わたしはまぎれもない幸福感に包まれていた。

<コメント> 「幸せがにじみ出る」自体が日本語でありの表現なので、もう一工夫。有害と「感じ」が「悪いもの」がうまく対比になっていないという印象。ラリっちゃうのはまずいと思う。最後の方はいいんですけれども。

46.
私の体内のあらゆる細胞から幸せがにじみ出ている。ううん、少し違うわ。「にじみ出る」と言えば不快な感じがするけれど、私は全く不快には感じていないの。これっぽっちも。夢見心地な私から無上の幸せがあふれ出しているのよ。助手のロッティーの言う通り、私は自分のことで大きな喜びに酔いしれているの。

<コメント>「幸せがにじみ出る」は日本語ではネガティブな意味はないんですね。そこをうまく工夫しないといけない。「自分のことで大きな喜びに酔いしれている」という文章はすーっとはいってきにくいのではないかなあ。

47.
喜びが私の体の細胞一つ一つからにじみ出ていた。いいえ、にじみ出る、では響きが悪いし、その時の感覚は決して不快なものではなかった。そんなわけがない。私は恍惚としていた。無上の幸せを発散していた。助手のロッティーが言うように、私はある種の幸福感に浸っていたのだ。

<コメント>細かいところでは突っ込みどころもあるし「恍惚」とかはあまり使いたくないんですが、文章全体の流れはとてもよいですね。勢いは感じられます。

48.
私の体のあらゆる細胞から、うれしさがしみ出ていた。待って、違う。”しみ出る”なんて、響きがよくない。それに、私が感じていたのは、そんな言葉とは正反対のものだ。全然違う。私は、幸せすぎて、ぼーっとしていたし、うれしさ丸出しだった。アシスタントのロッティーが言うには、私はその幸福感にひたり きっている、ということだった。

<コメント>「うれしさ丸出し」だけ少し浮いているかなあ。「その幸福感」の「その」は何を指すんだろう。悪くはないんですけど、少し勢いに欠けるかな。

<全体講評>

これはある意味そのまま訳そうとすると訳せないものだったんですね(意地悪な出題者だ)。なので、それをどのように工夫するのかが1点。それから幸せな女性の心理というか、感情というか、そのあたりをあまりくどくなくさらっと訳すこともポイントでした。全体の傾向として一文一文をばらばらに訳してしまっているために、どうしても勢いがなくなっているのかな、という印象があります。ですから、細かな訳の良し悪しも見ましたが、それ以上に文章として勢い(色気)があるかどうかで今回は評価しています。

今月の敢闘賞は17さん、21さん、22さん、26さん、43さん、47さん、MVPは39.花宮和子さんです。それほど全体に差はなかったと考えてください。言い換えると、全員もっと工夫の余地があったということでもあります。来月に期待します。

<試訳>

2つ考えてみました。

私の身体のすみずみから、幸せがにじみでていた。いや、待って。にじみ出るじゃ弱いかな。いまの感じはそんなものじゃない。もう最高。やったねという気分。全身が幸せで輝いてる。アシスタントのロッティーに言わせれば、喜びのオーラに包まれてる。

幸せが、身体の細胞の一つ一つから染み出ていた。いや、ちょっと待って。染み出るというのは響きが悪いし、私の感じていたものは絶対に悪くなんかなかった。全然そんなことはない。気分は最高だった。幸せを振りまいていた。アシスタントのロッティがいうように、回りにオーラがあった。

<次回の課題文>

「The Postmortal」から。赤字の部分を。

“Immortality Will Kill Us All”
There are wild postings with that statement all along First Avenue. If you’ve been in Midtown recently, you’ve seen them. They’re simple black-and-white posters. Just type. No fancy fonts or designs in the background. No web address. That one sentence is all they say, over and over again, down and across the hoardings.
When I walked by them, they were clean, as if they had been posted the night before. But I noticed, as I got toward the end of the block, that one of them had already been defaced, not on the lowest rung but the second from the bottom. Someone had used a cheap, blue ballpoint pen to write something underneath the slogan. It was small, but it was unmistakable: EXCEPT FOR ME.

常体(だである調)で。ではまた来月。

★★訳文の応募は締め切りました★★

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