
訳者・金井真弓さん『セルリアンブルー 海が見える家』
『セルリアンブルー 海が見える家』(上・下)
T.J.クルーン 著
金井真弓 訳 オークラ出版
出版社HP Amazon
ライナスは魔法青少年担当省でケースワーカーとして働く、まじめで勤勉ですが、孤独で冴えない中年の独身男。身寄りのない魔法生物の子どもが収容されている児童保護施設を調査して上層部に報告することが仕事です。
代り映えのしない日々を送っていたライナスでしたが、ある日突然、大抜擢されて最重要機密の任務に就くことになります。街から遠く離れたマーシャス島にある児童保護施設に1カ月滞在し、そこが存続に値する施設かどうかを調べなければなりません。島には謎めいた施設長と、魔法生物の中でも特に問題視される6人の子どもたちがいました。子どもの1人はなんと魔王の息子! 命の危険さえ感じたライナスですが、規則を忠実に守って客観的な調査をしようとしているうちに――――。
ファンタジーの要素もあり、YA小説でもあり、男性同士のロマンスでもある、不思議な魅力を持った作品です。家族も友達もなく、趣味はオールディーズを聴くことというライナスが次第に成長していく物語でもあります。
偏見や差別との闘い、児童虐待といった重い問題を取り上げつつも、小さな声をあげることから変化が起きると訴える、希望の持てる話になっています。自らを肯定し、他者を認め、自分と異なる存在との共存・共生を目指して支え合うことの大切さを語りかける、心温まる小説です。殺伐とした世の中のニュースを聞いて暗い気持ちになったとき、セルリアンブルーの海を想像しながら読んでいただけたらと思います。
☆通訳・翻訳ジャーナル2023年冬号より転載☆