Vol.1 幼少期は母語を大事に、高校からNZへ留学
/会議通訳者・岩瀬かずみさん

2020年の英語教育義務化完全実施を見据え、早期英語教育が改めて加熱しています。では、英語のプロと言われる通訳者・翻訳者は、どうやって英語を身につけたのでしょう? また、子供の英語教育をどう捉え、何を期待し、何を実践し、そして何を悩んでいるのでしょうか?
この連載では、これまで実践してきた子育てや語学教育の体験談、日本の英語教育へ提言などを、毎回、異なる通訳者・翻訳者が綴っていきます。

記念すべき(?)第1回は、私、岩瀬かずみが担当させていただきます。

自ら考え表現できる人間に成長してほしい

今年18歳になる息子の幼少期は、”グローバル=英会話”と言う図式で、英会話教室が大流行していました。私は早期英語教育に反対というわけではありませんが、あまりにもスピーキング(英会話)偏重な教育熱に、疑問を感じていました。

私にとって英語とは、”国際共通語としてコミュニケーションを助けてくれるツール”であり、大切なのは自ら考え、思いを語る基盤を築くことだと考えていました。母語である日本語で考え語る基盤があって、初めてツールである英語を学び運用する能力が得られる――。そんな思いから、毎日の読み聞かせや読書、そして2人で話す(言葉にする)時間を大切にしていました。

義務教育が始まると、覚えること、聞くことが主体の学びが始まります。もちろん記憶すること、聞いて学ぶことは大切です。ただ、息子にはそのような学び方は窮屈に感じられ、徐々に学習意欲を失い始めました。そんな様子を見て、私は彼が意欲を感じられる学習環境がどこにあるのか、引き出すためには何ができるのか考え始めました。自ら考えることを重んじるActive Learning(能動的学習)を実践しているオランダのイエナプランやフィンランド式教育のセミナーに行ったり、日本の教育制度を変える活動に参加したりと、私にとってもLearning(学習)の本質を考える非常に重要な時間になりました。

そして、自ら考え表現できる人間に成長して欲しいという願いを込め、留学という道を選びました。繰り返しますが、最終目標は語学習得ではなく、本人に合った学習環境を提供したいという親の思いです。ここ、大切です!

自分の意思で現地の高校に

ニュージーランドの高校に留学中の息子。クラスメイトに日本語を教えるまでに。

ニュージーランドの高校に留学中の息子。クラスメイトに日本語を教えるまでに。

現在Year13(高校3年生)の息子は、中学3年の夏休みに1カ月のお試し留学でニュージーランドに向かい、そのまま帰ることなく現地校に入学。

当時は英語力もありません。学校からは「まず語学学校に」と言われたようですが、「僕は高校生として勉強したくて留学したんです。1年後の自分を信じて欲しい」と学校を説き伏せ、まんまと現地校生となったわけです。私も後で先生から聞いてびっくりしました!(笑)そもそもそんな強さを持った子だったからこそ、留学が成功しているのかもしれません。

留学先にニュージーランドを選んだ理由は、2016年末に家族との時間を優先するため辞任されたジョン・キー首相の来日時に通訳をさせていただき、その素晴らしい教育環境について直接お話しを聞く機会に恵まれたからです。生徒の個性や多様性を尊び、能動的学習を実践する高い学習水準、しかも国が積極的に留学生の受け入れ態勢を整えている。求める姿がそこにありました。

 

人間力の成長、マイノリティとしての視点

2年半経った今、語学力は確かにつきました。ただ、これは本人の意欲次第なので、留学しなくても日本で身につけられるものだと思います。ただ、自立心やリーダーシップといった人間力の成長は目を見張るものがあり、長期休暇で帰国するたびに彼の言動には驚かされるばかりです。

こうした彼の成長を支えてくれているのは、学校始め、彼を見守る大人たちの対応です。

息子は現地校生、他国からの留学生とのナショナリティの違いによる人間関係で、さまざまな問題に直面してきました。その都度、生徒の自己責任を重んじ、一人一人の意見を大切に聞き入れ、事実に基づいた偏見ない判断をしてくれる学校の対応がありました。単に彼が幸運だったのかもしれませんが、そんな大人たちに囲まれ、安心して自分の意見を述べ、時には先生と対等に意見を交わすことができています。

minority

また、マイノリティとしての視点を持つことができたのも大きな学びです。日本では当たり前にマジョリティである日本人ですが、海外では圧倒的マイノリティです。日本で日本人男性として生活していたら得ることがなかったかもしれないマイノリティに対する共感力は、これからの社会でリーダーシップを取っていく上で重要な資質になります。

国連の2017年版世界幸福度報告書によると、ニュージーランドは第8位。経済的な負担は確かにありますが、高校生という多感な時期を豊かな自然と寛容な国民に囲まれ過ごすことで、お金には変えられない財産を残してあげることができると信じ、今日も働く母なのであります。