最終回・第10回 敗北宣言

リソースの問題

その質疑応答で、彼はうまく言語化して説明できない歯がゆさを感じることがある。翻訳学校でも教えているが、自分の至らなさを痛感することがある。
長考・熟考しても、なぜそういう意味になるのか、なぜそう訳すべきなのか、思うように言葉にできない。これは翻訳者として、まだまだ改善の余地があるということだ。自由時間を楽しむことでますます限られる能力開発のためのリソースを、通訳訓練ばかりに割いている場合ではないと、彼は考えるに至ったわけだ。

それでも挑戦は続く

そんな訳で、このコラムの挑戦は失敗に終わった。翻訳、通訳ガイド、通訳という三大語学専門職を制覇するなどと大言壮語していた彼は、笑われても仕方ないと思う。
ただし、通訳の訓練をやめるわけではないようだ。彼が繰り返していたように、その効果が翻訳にも及ぶのは間違いない。たとえば、辞書に頼りすぎず、日英の語彙力を高めることが原著者のイメージの正確な再現と描写には欠かせないことに、彼は気づいた。瞬発力やアウトプットの訓練の重要性にも気づいた。通訳ガイド業にも役立つわけだし、そうした鍛錬は今後も続けられることだろう。
そして、彼はあまり潔くない、往生際の悪い男だ。「数年以内に」通訳業を始めることはあきらめても、進出自体をあきらめてはいないようだ。それを実現させた上で、今度は翻訳者が通訳者になるための具体的ノウハウについてのコラムを書こうと、考えているに違いない。いつかその日が来ることを願いつつ、筆を置く。

2度目の代筆を担当した11歳のベック

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