
第7回 外国人が好きな日本食は「焼き」!
日本の焼肉はここがすごい!
夏のあいだは目の前でじゅうじゅう焼かれたりする料理は敬遠したいところですが、秋になったとたんに恋しくなるものです。外国人観光客の皆さんに「日本に来て絶対食べたいものはなんですか?」と聞くと、これまでは寿司に天ぷら、しゃぶしゃぶにすき焼きと紋切アンサーでしたが、近頃は事前調査が行き届いているようで、「テッパンヤーキー!」(ただし、とても値が張ることまでは調べていない)とか「オコノミヤーキー!」(ただし、もんじゃ焼きという似て非なる恐怖の液体フードがあることまでは知らない)とのお答えも多くなってきました。そう、時代は「焼き」です。
築地が有名になったせいか、「日本に来たら魚じゃないの?」ってことで、上陸初日からお寿司の刺身に焼き魚と魚料理全制覇が目標なのか?とばかりに連日食べた結果、ついにギブアップして焼肉に走ったグループがいました。
そこで彼らが驚いていたのは焼肉自体ではなく、焼くための道具すなわちテーブルに埋め込まれたロースターでした。自分たちの国でバーベキューをするときは当然野外で、キャンプファイヤーレベルの煙をモクモク上げて豪快に焼くようなので、日本では当たり前の無煙ロースターに感心することしきり。霜降り肉からこれでもかと油が出ているのに、ちいとも煙が出ないのはこれ如何に、なようです(余談ですが、このときうっかりアブラギッシュといういい加減なスラングを教えてしまったので、その後行く先々のお店でリッチな味のものを食べる度に「オー、エイブラギッシュ!」などと口走るので面倒なことになってしまいました。反省)。
魔法のように煙がロースターの内壁に吸い込まれていくシステムが不思議なようで、焼き終わってまだ熱い網に顔を横にして近づけながら覗き込んだ危険な人もいます。顔に網焼き模様がつきますよ……。でも流石に無煙ロースターを買っていった人は、今のところまだいません。
飛騨高山ツアーで出会った「焼き」
同じく焼き道具で、とてもウケたものがもうひとつあります。飛騨高山ツアーで夜は飛騨牛という、通訳ガイド的にも役得感満載な日がありました。飛騨といえば朴葉焼き。朴葉の上には景気の良い厚みの飛騨牛と味噌。時間が経つにつれ、味噌が滴り落ちてジュー……、至福です。
しかし、外国人観光客にとって重要なのは、牛肉じゃなくて、朴葉の乗っている一人前用の卓上七輪です。あれが欲しいんだそうです。ま、確かに家にもあったら、晩酌も一段と美味しくなるでしょうし、何より風情がありますよね。

写真提供:高山市役所 観光課
その飛騨牛ナイトの際、絶対買って帰るとの要望が出たので、どこで買えるのかひとしきり七輪談義をしてると、「ところでさ、七輪の外側に書いてあるメッセージは何だ?」と聞かれ、では何だと思うと問うたところ、彼らは日中に写経を体験したので、「ブッダからのメッセージじゃないのか」との返答。そこで「いや、焼かれた牛からの呪いの言葉に決まってるでしょ」と当意“珍妙”な回答をしておきました(正解は「菊慈童」という中国の謡曲の歌詞で、さらに、正確には七輪ではなく「飛騨コンロ」といいます)。
その後、「牛肉の他に何を焼いたらいいか?」という話をしていると、タイムリーに松茸様が登場しました。私はさも普段から食べているような大胆な手つきでぎこちなく松茸を割き、七輪に載せると、とたんに周囲に漂ういい香り。日本の秋だわあ…と、うっとりしていたのはなんと私だけでした。誰が言い出したのか「おがくずのにおいがするー」とか、「ガンジス川の儀式みたいだ」とか、これまた意表をつくご意見の数々。静かに立ち上る煙と前述の七輪の外壁の文字とが相まって宗教的にも見えるそうな。ふーむ、この視点の違い、なかなか衝撃です。
あれこれ言ってるうちにこんがりと松茸も焼け、おがくず味でないことを確認してもらうと、やはり彼らは「卓上七輪を買いたい!」と再び意気込み出したので、「じゃ、持って帰ってうちで何を焼くの?」と聞いてみると、答えは「パン」。パンってあのパンですか、それはトーストってことですかねぇ。彼らいわく、薄く切った黒パンをこれで温めたらいい香りがしそうだろ、と。備長炭焼きトースト。何となく美味しそうな気もしますが、七輪に書かれた呪いの言葉(ではない)との絵面を考えるとちょっとシュールだな。なんて言っているのは、私もヤキがまわってきた証拠でしょうか。
後日、予定通りひとり1台の卓上七輪を合羽橋で購入した一団は、えらく重いお土産に苦しまされるのでした。それに加えて、全員が七輪を持っているグループって見た目にもちょっと怪しい。帰りのフライトのセキュリティーチェックは大丈夫だったのだろうか、といまだに心配な私です。