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2024.03.22 UP

第10回 関根恵美さん:映画『アクアマン/失われた王国』ほか の吹替・字幕を語る!

第10回 関根恵美さん:映画『アクアマン/失われた王国』ほか の吹替・字幕を語る!

映像翻訳者が、海外映画やドラマなどの字幕&吹替翻訳で「すごい!」と感心したフレーズや、印象に残ったフレーズを紹介! 月1回のリレーコラム形式でお届けします。
今回の筆者は、アメコミ作品が大好きという英日映像翻訳者、関根恵美さんです。
協力:映像翻訳者の会Wakka

大好きなアメコミ作品&胸を打つドキュメンタリーの台詞を紹介!

こんにちは、DC・Marvel大好き! 英日映像翻訳者の関根恵美です。
今は主に吹替翻訳のお仕事をしています。

今回はアメコミ映画と、ドキュメンタリーから「グッときた字幕・吹替」をご紹介します。

1. 映画『アクアマン/失われた王国』より(吹替)

【原文】
Fine. Flex your muscles.

【日本語吹替】
仕方ない ムキムキの出番だ

(『アクアマン/失われた王国』Aquaman and The Lost Kingdom/Aquaman2 /2023年/配給:ワーナー・ブラザース映画/吹替翻訳:アンゼたかし氏)

アメコミ好きの私としては、この作品から! DC作品『アクアマン/失われた王国』の吹替のご紹介です。

アクアマンであるアーサーと、仲の悪い弟オーム。シリーズ2作目である今作は、この2人の会話が見どころのひとつ。吹替ならではの間や絶妙な演技で、コミカルなシーンが満載です。

「仕方ない ムキムキの出番だ」は、弟のオームがアーサーに言うセリフ。
“Flex your muscles” は力を見せつける、威嚇するという意味です。
この「ムキムキ」はまさにアーサーそのもの。ただ「暴れてこい」などと言うよりも、彼の盛り上がる筋肉と圧倒的な破壊力を感じさせます。

実はこの“Flex your muscles” ですが、この少し前のオームのセリフの中にも入っていて、そこでは「ムキムキは引っ込めておけ」と制止しています。前振りですね。
そして、ひと暴れしないと解決しないと思ったオームが「仕方ない ムキムキの出番だ」と言う、スムーズな流れになるわけです。

2. ドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』より(字幕)

【原文】
It just gets loud, sometimes.

【日本語字幕】
のみ込まれそうだわ

(『ミス・アメリカーナ』Taylor Swift:Miss Americana/2020年/Netflix/字幕翻訳: 梅澤乃奈氏)

次はNetflix制作のドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』から。10代から快進撃を続けるアーティスト、テイラー・スイフトに密着した作品です。
有名になるにつれて様々な “reputation”(評判)に悩まされる彼女ですが、それを力強く乗り越えていく姿にファン(私)は勇気をもらっています。

取り上げた字幕は、テイラーが世間の痛烈な批判にさらされていた頃の言葉。
映像で彼女は「批判は無視できる日もあるけど」と話していますが、つらそうです。
そして “It just gets loud, sometimes” と絞り出すように訴えます。
激しくなる批判に耐えられなくなる時もある。「のみ込まれそうだわ」という字幕は、そのときのテイラーの表情にも合っていて、素晴らしい翻訳だと思いました。
こちらの胸が痛くなるほど、彼女の気持ちが伝わります。

後にテイラーは 『reputation』というタイトルのアルバムを出して、思いのたけを色々とぶちまけています。
さすがはテイラー・スイフト。

3. 映画『ブラックアダム』より(字幕)

【原文】
Come on, man, you see me every day.

【日本語字幕】
顔パスでいいだろ

(『ブラックアダム』Black Adam/2022年/配給:ワーナー・ブラザース映画/字幕翻訳:アンゼたかし氏)

最後もDC作品です。アンチヒーロー『ブラックアダム』

物語の舞台であるギャングが支配する街。そこでは身分証を見せるための検問所が出てきます。取り上げた字幕は主要な登場人物の1人、少年アモンのセリフ。
彼が検問所をスケボーで突破しようとして男に止められ、ぶっ飛ばされた時の言葉です。

“Come on, man, you see me every day.” の原意は「なんだよ、毎日僕の顔を見てるだろ」。これを字幕は「顔パスでいいだろ」としています。
意味がパッと頭に入るので、目が映像に戻る余裕が出ます。言葉選びで観客の負担が減り、物語への没入度合いも変わると思った作品です。

さらに「ブッ」と吹きだすような、コミカルな字幕も随所に出てきます。『ブラックアダム』、未見の方はぜひ!

映像翻訳者の会Wakka
2023年4月に発足した、映像翻訳者による集まり。フリーランスが多い業界において、映像翻訳者ならではの悩みの相談や、同業者間での情報共有、助け合いができる場づくりを行う。また映像翻訳者の地位向上、映像翻訳者が働きやすい環境作りへの貢献をめざす。
Webサイト:https://wakkaeizouhonyaku.wixsite.com/wakkaweb
*本コラムはWakka会員の翻訳者の方によるリレー連載です*

                                       

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関根恵美
関根恵美Emi Sekine

証券、銀行勤務を経て英語学校で講師業に就いたあと、2021年から英日映像翻訳者に。主な字幕翻訳作品 期間限定配信 アメコミ映画情報(共訳)他、海外ドラマ吹替翻訳。