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映像翻訳者が、海外映画やドラマなどの字幕&吹替翻訳で「すごい!」と感心したフレーズや、印象に残ったフレーズを紹介! 月1回のリレーコラム形式でお届けします。
今回の執筆者は、英日字幕翻訳者の上田香子さんです。
協力:映像翻訳者の会Wakka
大ヒット中のミュージカル映画の字幕を紹介!
こんにちは、英日字幕翻訳者の上田香子です(吹替は修行中)。
これまでに鑑賞した作品の中から、特に印象に残っている字幕を紹介します。
1. 映画『ウィキッド ふたりの魔女』より(字幕)
【英語原文】
Just say you’re sorry.
【日本語字幕】
陛下にごめんなさいして
(『ウィキッド ふたりの魔女』Wicked: Part I/2024年/配給:東宝東和/字幕翻訳:石田泰子氏)
ブロードウェーの大人気ミュージカルを映画化した本作。日本では現在、絶賛公開中です。
終盤でオズの陛下とマダム・モリブルからの誘いを突っぱねたエルファバを説得しようとグリンダがかけた言葉がこちら。
直訳すると「とにかく謝って」なのですが、それが「ごめんなさいして」とグリンダらしいキュートな言い回しで訳出されています。グリンダとエルファバの仲のよさも伝わってくる、ぴったりな字幕だと思いました。
ちなみに、私は原作もミュージカルも全く知らない状態で本作を見たのですが、劇中歌の「Popular」はどこかで聴いたことがあるような……。そう、2012年にMIKAがアリアナ・グランデとコラボして出した「Popular Song」です。この原曲が「Popular」だったことを今回、初めて知りました。
この2曲を聴き比べるとアリアナ・グランデの歌い方が全く違うのですが、彼女は今回の映画のためにオペラの歌い方を猛特訓したとか。パート2の公開が今から待ちきれません!
2. 映画『イエスタデイ』より(字幕)
【英語原文】
Jack! Oh, my God! Your Teeth.
【日本語字幕】
ジャック
きゃ~ 歯がない!
(『イエスタデイ』Yesterday/2019年/配給:東宝東和/字幕翻訳:牧野琴子氏)
本作は、ビートルズが存在しなくなった世界で、ただ1人ビートルズを知るシンガーソングライターがビートルズの曲で売れていく様を描いたコメディ映画です。(説明がややこしい……)
ある晩、世界的な大停電が起き、交通事故で前歯を折るなど重傷を負い、入院していた主人公ジャック。退院後に会った友人女性が彼を見て、開口一番にテンション高く放つセリフがこちら。
“Oh, my God!”は映像翻訳をやっていると頻繁に出くわす感嘆表現で、文脈に応じて適切な日本語をあてる必要があります。つい「ウソ」や「やだ」などといった無難な表現で流してしまいがちですが、「きゃ~」という字幕をつけるセンス! 劇場で見たときは思わずヒザを打ちました。
確かに友達同士で集まったときなど、テンションが上がると「きゃ~!」と口走ることってありますよね。(ありますよね?)こういう生きた字幕を書けるよう、常日頃から様々なシーンで使われる表現にアンテナを張らねばと思いました。
3. 映画『インフェルノ』より(字幕)
【英語原文】
How Unprofessional.
【日本語字幕】
素人が入ると これだ
(『インフェルノ』Inferno/2016年/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/字幕翻訳:戸田奈津子氏)
『ダ・ヴィンチ・コード』、『天使と悪魔』に続くラングドン教授シリーズ三部作の最終作である本作。
とある組織がトム・ハンクス演じるラングドン教授に追っ手を差し向けますが、取り逃がしてしまいます。部下から任務失敗の報告を受けた組織のボス、シムズが静かに放つひとことがこちら。
“How unprofessional”は2ワードの短いセリフですが、かなりゆっくりしゃべっているため、尺は2秒近くあるでしょうか。直訳に近い形で「プロ失格だな」などとするのもアリですが、「素人が入ると~」という嫌みな表現が、シムズのあきれた表情や、さげすむような口調にぴったり合っています。それにセリフとしてもカッコいい。
映像翻訳では原文の意味を正確に訳すだけでなく、話者の表情や口調も考慮してセリフを書くのが大切だということがよく分かる字幕です。
4. ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(シーズン5)より(字幕)
【英語原文】
I am Sansa Stark of Winterfell.
This is my home. And you can’t frighten me.
【日本語字幕】
私はサンサ・スタークよ
ここは私の家/脅しなんて効かないわ
(『ゲーム・オブ・スローンズ』(シーズン5)Game of Thrones/2015年/配給:ワーナー・ブラザース・テレビジョン/字幕翻訳:川又勝利氏、亀谷奈美氏)
2010年代に全世界で大ヒットした『ゲーム・オブ・スローンズ』。私が字幕翻訳の仕事を始めた2010年代後半、担当した作品で立て続けに本作の引用が出てきたため見始めたところ、見事にハマリました。
今回取り上げるのはシーズン5の第6話より。家族の敵であるボルトン家に嫁ぐことになったサンサが、ラムジーの残虐性をほのめかしてビビらせようとしてくるミランダを黙らせるセリフです。ご注目いただきたいのは最後の字幕。直訳すると「あなたは私を怖がらせることはできない」ですが、「脅しなんて利かない」という形ですっきりまとめられています。
本ドラマシリーズは2019年にシーズン8で完結しており、今回取り上げた箇所以外にも「これは!」というセリフや字幕がたくさん出てきますので、未見の方はぜひ! 原作小説も読むとさらに理解が深まります。
映像翻訳者の会Wakka
2023年4月に発足した、映像翻訳者による集まり。フリーランスが多い業界において、映像翻訳者ならではの悩みの相談や、同業者間での情報共有、助け合いができる場づくりを行う。また映像翻訳者の地位向上、映像翻訳者が働きやすい環境作りへの貢献をめざす。
Webサイト:https://wakkaeizouhonyaku.wixsite.com/wakkaweb
*本コラムはWakka会員の翻訳者の方によるリレー連載です*
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映像翻訳者。主な字幕翻訳作品に映画『イカロス』、『クルードさんちのあたらしい冒険』、ドラマ『ギルモア・ガールズ:イヤー・イン・ライフ』、『マーベラス・ミセス・メイゼル』、『ハドソン&レックス~セントジョンズ警察シェパード犬刑事』などがある。吹替は修行中。
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