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2024.05.27 UP

第12回  須田友喜さん:映画『ハロー!?ゴースト』ほか の字幕を語る!

第12回  須田友喜さん:映画『ハロー!?ゴースト』ほか の字幕を語る!

映像翻訳者が、海外映画やドラマなどの字幕&吹替翻訳で「すごい!」と感心したフレーズや、印象に残ったフレーズを紹介! 月1回のリレーコラム形式でお届けします。
今回は、中日翻訳者の須田友喜さんに、中国語の映画・ドラマの字幕を紹介していただきます!
協力:映像翻訳者の会Wakka

中国&台湾の映画・ドラマのすごい翻訳字幕を紹介!

こんにちは。中日翻訳者の須田友喜です。書籍の「積読」とともに映像作品の「いつか見たいリスト」もたまるばかりで日々うれしい悲鳴を上げています。

それでは私が感銘を受けた字幕をご紹介しましょう。中華作品になじみのない方もいらっしゃると思いますので、解説は長めです。どうぞお付き合いください。

1. 映画『ハロー!?ゴースト』より(字幕)

【中国語原文】
為甚麼拿我的電子雞去談戀愛啦?

【日本語字幕】
僕の戦利品で女にこびるなよ

【英語字幕】
Why use my virtual pet to get girls?

(『ハロー!?ゴースト』原題:我的麻吉4個鬼/2023年 台湾/日本語字幕版配信:Netflix/字幕翻訳:杉浦佳代子氏)

近年は「台湾ホラー」が一つのジャンルとして確立しており、ハードなものからソフトなものまで多くの良作が配信を中心に公開されています。

本作は2010年公開の同名韓国映画のリメイクで、台湾版の原題は《我的麻吉4個鬼》、直訳すれば「俺の親友4人の鬼」です。
中国語では幽霊のことを「鬼」と言います。自殺願望のある青年が臨死体験をして以来4人の鬼にとりつかれ、彼らを成仏させるために奮闘する笑えて泣けるストーリーです。

取り上げたのは少年「鬼」のセリフで、少年がクレーンゲームで取ったゲーム機「電子鷄」(たまごっち)を、主人公の青年が独断で女性にあげようとした時に放ったひとことです。
原文の「談恋愛」は文脈によって「付き合う」「恋愛する」など訳語が変わる厄介な慣用句です。こういう場合は「ナンパ」「口説く」などと訳したくなるのですが、訳としては踏み込みすぎている印象です。そこでこの「女にこびる」はまさしく文脈にぴったり。しかも少年の不満も表現された名訳だと思いました。

2. ドラマ『成化十四年~都に咲く秘密』より(字幕)

【中国語原文】
唐泛:三个时辰。
东姑:卯时三刻腌上的,不多不少正好三个时辰。

【日本語字幕】
唐泛とうはん :3とき
(同時に右縦位置に説明字幕:3とき ・・・6時間)
とう の3こく から漬けて、ちょうど食べ頃よ

【英語字幕】
TangFan : Six hours?
Dong : It was marinated at 6:30 this morning. Exactly six hours ago.

(『成化十四年~都に咲く秘密』原題:成化十四年/2020年 中国/日本版販売元:ポニーキャニオン/字幕翻訳:白井みどり氏)

この作品は好きな中華ドラマを問うアンケートでは必ず上位にくる人気作ながら、ずっと「ウォッチリスト」に入れたままでしたが、最近あるきっかけで見始めたところ、いきなり「この字幕すごい!」に遭遇してしまいました。

タイトルの成化せいか は明代の元号で、一四年は西暦1478年のこと。その成化帝のおひざもとを舞台にしたバディもののミステリーです。
取り上げた台詞は第1話の冒頭、主人公の唐泛とうはん がなじみの食堂で「梅花肉」を食べるにあたり、女将のとう に自分が指示したとおりに肉を漬け込んだのかと聞くシーンに出てきます。

注目すべきは女将の台詞の意訳です。直訳すると「卯の3こく に漬け込んだわ。長くもなく短くもなくきっかり3とき 漬けた」となり、「3こく 「3とき 、時間表現が2つも出てきます。しかも同じ「3」で単位が違うだけ。このまま出せば視聴者は混乱し、完全に置き去りになってしまうでしょう。
そこで2つめの「3とき 」のほうを「ちょうど食べ頃よ」と意訳しているのです。また直前の「3とき ・・・6時間」という説明字幕のおかげで「卯の3こく から漬けて」まで読めば、6時間漬けたのだなと理解できるため、もはや再び「3とき 」を出す必要はなく、意訳が活きてきます。何より、唐泛と女将の軽妙な掛け合いが歯切れのよい字幕で表現されていてワクワクしました。

3. 映画『鏢門ひょうもん Great Protector』より(字幕)

【中国語字幕】
合吾

【日本語字幕】
友よ 参る

(『鏢門ひょうもん Great Protector』原題:镖门/2014年 中国/配給:クロックワークス/字幕翻訳:木村佳名子氏)

このコラムの執筆を打診された時、真っ先に思いついた台詞です。10年前に共訳で参加した作品ですが、この字幕を見てすごく感動したことを今でもよく覚えています。

物語の舞台は清朝末期の鏢局ひょうきょく 。鏢局というのは、人や金を安全に目的地に運ぶ運送業と用心棒を兼ね備えた組織で、辛亥革命を経て時代とともに消えていきました。

取り上げた字幕は、鏢局の隊列が山賊の縄張りを通る時に使う合言葉で、作中にたびたび登場する重要なワードでもあります。
直訳は「吾(われ)に合う」ですが「平和に共存しよう」というメッセージが込められているとのこと(当時の申し送りより)。そこでこの「友よ 参る」がよく出てきたものだと感銘を受けました。
また台詞の中国語読みの「合吾=ホーウー」の音節に「友よ」と「参る」がはまり、合言葉としてリズムも完璧なのです。荒涼とした山西省の道を進む鏢局の隊列。その映像に重なる「友よ 参る」の説得力に圧倒されました。

映像翻訳者の会Wakka
2023年4月に発足した、映像翻訳者による集まり。フリーランスが多い業界において、映像翻訳者ならではの悩みの相談や、同業者間での情報共有、助け合いができる場づくりを行う。また映像翻訳者の地位向上、映像翻訳者が働きやすい環境作りへの貢献をめざす。
Webサイト:https://wakkaeizouhonyaku.wixsite.com/wakkaweb
*本コラムはWakka会員の翻訳者の方によるリレー連載です*

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須田友喜
須田友喜Yuki Suda

映像翻訳者(字幕・吹替)。主な翻訳作品に映画『クラウディ・マウンテン(峰爆)』、『罪の後(罪後真相)』、ドラマ『鏢門』(共訳)、映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(字吹)、『オペレーション:レッドシー』(字吹)、『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』他シリーズ(吹替)、『呪詛』(吹替)など。アニメ『残次品 放逐星空』(字幕)が現在WOWOWで放映中。