英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!
多言語学習で目指したいレベルとは
めざすレベルの目安
前々回、前回と外国語を学ぶメリットについて述べてみました。すなわち、外国語を学べば、第一に原書が読めるようになる、第二に海外の洋画・動画が視聴できるようになる、第三に言葉に敏感になるといったメリットがあると説明しました。
実は外国語を学ぶメリットは他にもいろいろ言われています。例えば、集中力が高まる、よくある脳の病気が予防できる、数学のスキルが向上する、あらゆる学習が早くなる、創造性が増す…などです。それらのメリットの詳細ついてはまたの機会に譲るとして、今回は、何をどこまでやればいいのかを考えてみたいと思います。
何をどこまでやればいいかについては唯一絶対の正解があるわけではありません。考え方は人それぞれでしょう。やるからには頂点を極めなければならない人もいれば、カタコトでもいいから話せるようになれればいいという人もいるでしょう。しかし、6言語を10年以上にわたり毎日学習してきた私としては私なりの考えがありますので、今回はそれについてお話ししたいと思います。
まず、何をどこまでやればいいのかを考える場合、「仕事で使う外国語」と「仕事で使わない外国語」と分けて考えるべきだと思います。「仕事で使う外国語」に関しては、「このレベルまでやっておけばいい」と制限を設けず、頂点をめざすべきだと思います。それがプロというものだと思うからです。
では「仕事で使わない外国語」に関してはどうでしょうか。仕事に使わないのに頂点をめざさなければならないとなると、たいていの人は逃げ出したくなることでしょう(もちろん私も例外ではありません)。特に日本で生活するのであれば、外国語はできなくても十分楽しく生きていけるわけですから、わざわざそんな大変なことを自分に課しては息が詰まります。
しかし、せっかく時間と労力をかけてまで学ぶのであれば、リーディングとリスニングだけは最低限CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)のB1レベルまで学習するのが理想的だと考えます。
楽しみが増えるB1レベル
さて、「最低限B1レベル」と言いました。CEFRに馴染みがない人のために、CEFRの表を転載しておきます。おおまかな目安としてB1レベルに相当する検定試験をご紹介しておくと、英検2級、仏検2級、独検2級、HSK3級が挙げられています。CEFRと検定試験のレベルはぴったり合致しているわけではありませんが、一つの目安として考えてください。
もちろんB2レベル以上まで登り詰めることができるのであればそれに超したことはありませんが、私の経験からいっても、ゼロからはじめる場合、B2レベルまで登り詰めるのでもそれなりに大変です。仕事で使うのであればまだしも、仕事で使わないのに最初からあまり高い目標を設定しすぎると、逆にモチベーションダウンにつながりかねません。そこで妥協案としてB1レベルまでやりましょう、というのが私の意見なのです。
では、A2レベルまでではいけないのでしょうか。いえ、もちろん、それで満足できる人であれば、それでいいのです。しかしA2レベルまでで学習をストップさせてしまうと、そのレベルで楽しめる本・動画があまりにも少ないので、もったいなさすぎるというのが私の実感です。せっかくA2レベルまでいったのなら、もう少しがんばってB1レベルにまで実力を伸ばせば、楽しめる本や動画の種類がグンと増えるからです。
次に、リーディングとリスニングだけでいいのか、という点について考えてみましょう。私の答えはイエスです。といっても誤解しないでください。「リーディングとリスニングだけでいい」というのは「ライティングやスピーキングをやったらいけない」という意味ではありません。やりたい人はいくらでもライティングやスピーキングを伸ばしていいのです。
私が「リーディングとリスニングだけでいい」と言っている意味は、日本に住み、仕事でも外国語を使わない人にとっては、話したり、書いたりする機会は自ら作らないかぎり、なかなか自然と発生しないから、スピーキングやライティングを伸ばそうと思うとそれなりに負荷がかかるからなのです。
一方、リーディングやリスニングに関しては、いくらでも楽しめるものが入手できます。今やネット社会、海外の動画も視聴できますし、原書をネット経由で入手することも容易です。つまりリーディングやリスニングがB1レベルに達すると楽しみが爆発的に増えるのです。せっかくこのような楽しみが享受できる時代になったのですから、享受しないほうがもったいないと思えるくらいです。
ということで、仕事で使わない外国語に関しては「リーディングとリスニングだけは最低限B1レベルまでやりましょう」というのが私の辿り着いた結論なのです。
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著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html