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英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!
中国語を学び始めたきっかけ
昔の話になりますが、♪This is a pen. This is an apple. Uhm, This is apple-pen…の歌で有名なピコ太郎がYouTube動画で全世界を席巻しましたよね。テンポがいいし、おもしろい。
それから数年経ったある日、私の心の中で重大事が起りました。当時の私は英語、独語、仏語、伊語、西語とヨーロッパの言語ばかり学習していました。それで手一杯ということもあり、それ以外の言語は見向きもしていなかったのですが、たまたま出くわした「熊猫」という中国語単語に感電したかのような衝撃を受けたのです。猫好きである私が「熊猫」という文字を見て興味がそそられないわけはなく、その意味を調べてみるとそれが「パンダ」という意味だと分かったからです。
(「熊のような猫」で「パンダ」か、なるほど、中国人の世界観が透けて見えるな、これは面白い!)
瞬時に次のような映像が頭の中を駆け巡りました。
この映像が浮かんだとき、「♪This is 熊(シュン). This is 猫(マオ). Uhm, This is 熊猫(シュンマオ)」とピコ太郎の真似をして歌い始めたのは言うまでもありません。
このたった1語の衝撃によって私は中国語学習を開始する決意をしたのでした。当時の私はすでに53歳、中国語学習をしたことがないばかりか、中国に留学したこともなければ、中国語で会話する知り合いがいたわけでもありません。逆に言えば、「熊猫」という中国語単語のおもしろさはそれほど衝撃的だったというわけです。
日本人にとって意味が類推しやすい言語
早速、「熊猫」と同様、漢字と漢字を組み合わせて日本にはない単語になっている中国語単語を探し始めました。するともう、あるわあるわ…。
「サッカー」は中国語では「足球」。なるほどこれはよくできている。球を足で蹴りますからね。「野球」は「棒球」。これもよくできている。棒で球を打ちますからね。このようにどんどん挙げていくとバレーボールは「排球」、バドミントンは「羽毛球」、バスケットボールは「篮球」、テニスは「网球」、卓球は「乒乓球」…と出るわ、出るわ。
面白いだけでなく、意味がすぐに理解できるので覚えるのが簡単! これなら1日100単語暗記も無理がなさそう。そう思った瞬間、中国語学習を続けることを決意したのでした。まあ、すべての中国語単語がそうとは言いませんが、漢字を知っている日本人にとっては中国人の世界観が透けてみえるというのが興味深いですし、覚えやすいのは間違いないでしょう。
この点に関し、鈴木孝夫氏は著書の中で「意味論的透明性」と「意味論的不透明性」について触れています。英語は高級な語彙のほとんどすべてが古典語であるラテン語あるいはギリシャ語に由来する造語要素から成り立っているため、意味を推測することができないのですが、これは「意味論的不透明性」が高いということになるでしょう。
例えば次のような単語、意味を推測できるでしょうか。
cephalothorax, graminivorous, pithecanthrope, gingival, limnology
これらの高級語彙はラテン語やギリシャ語の素養のない人にとっては類推するのは極めて困難でしょう。それだけ「不透明」だからです。
ところが上の単語の訳を漢字で書くとすれば次のようになります。
頭胸部、草食性、猿人、歯茎音、湖沼学
こちらのほうは漢字を眺めていれば、もうそれだけで意味を類推できそうですね。
これらの単語は日本語の例ですが、中国語はすべて漢字で成り立っていることや、漢字1文字1文字に意味があることを考え合わせれば、中国語が日本人にとって非常に学びやすいことがお分かりでしょう。もちろん日本語で使う漢字と中国語で使う漢字は異なりますが、なんとなく推測はできるのです。そこが日本人の強みなのです。
中国語を学んだことがないというあなた、53歳からゼロからスタートした私でも数年後にはHSK5級の合格レベルを突破し、6級(最上級)に挑戦するまでになったのですから、始めてみませんか?
著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html