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2023.05.26 UP

第15回 楽しみながら言語を学習する方法

第15回 楽しみながら言語を学習する方法

英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!

外国語を楽しむための帰納的学習法

燃え尽きたり自己嫌悪に陥らない学習法とは

仏検合格に向け延々と仏検対策の問題集に取り組む女性。3年も4年も5年も仏検対策の学習を続けるも合格に至らず、ついには仏検と決別宣言。また別の女性は独検合格に向け、過去何年間分もの過去問を何周もやって独検に挑戦するも合格に至らず、「駄目だった」とブログで告白。それ以外にも検定試験の合否発表の直後から急にブログの更新が止まる学習者など枚挙にいとまがない。だからといって他人の学習法を否定するつもりはないが、彼らのブログを読むたびに、(検定対策の学習より遙かに楽しく、推論能力も伸びる学習法もあるのになぁ、楽しく学習していれば燃え尽きたり自己嫌悪に陥ったりせずにすむのになぁ…)と思わずにはいられないのである。

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多言語を学習し始めてかれこれ10年が経ちますが、これが多くの外国語学習者のブログを読んだ私の率直な感想です。いかに多くの学習者が「合格」とか「スコアアップ」とか「コンテスト優勝」などの“外的報酬”を得るために頑張っているか、そしてその結果、燃え尽きたり自己嫌悪に陥ったりしているかに驚かされています。

“外的報酬”を得るために頑張ることがいけないと言うつもりはありません。ただ、あまりにも多くの人が“外的報酬”を得るためだけに学習しているように思えてしまうのです。例えば、過去問をやったり、出題傾向に合わせた学習をしたり…。

そんな彼らには、もっと楽しく、推論能力も伸びる学習法を提唱したくなります。なぜならそのような楽しい学習法なら燃え尽きたり自己嫌悪に陥ったりしないと思うからです。

では、その方法とはどのようなものでしょうか。

言語を楽しみながら、帰納的に学習する

ところで英語学者の渡部昇一氏は第二外国語を完璧にマスターしようとするのは多大なる時間の空費であると警鐘を鳴らし、原典を訳書と照らして読むことで満足すべきだという主張をしています。これは私も同感で、仕事で使うことのない言語の場合、完璧にマスターしてやろうという気持ちは捨てたほうが本人のためでもあるように思えます。私自身、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、中国語の学習はずっと続けていますが、それはあくまで自分の人生を豊かにすることが最大の目的であり、完璧にマスターしてやろうという気などありません。

そういうわけで私は検定試験こそは受けてはいるものの、最初から結果は度外視して受けています。検定試験対策は一切せずに原書を訳書と照らし合わせて読んだり、外国語学習者用に易しくリライトした本を楽しんだり、洋画を楽しんだり…と100%楽しみのためだけに外国語学習を続け、検定試験はあくまで実力を判定するために受けているのです。


↑このような学習スタイルだと、検定試験の結果は最初からどうでもよくなります。合格すれば合格したで嬉しいのは違いありませんが、不合格になったところで自己嫌悪に陥ることはありません。なぜなら、もともと外国語を楽しむために学習し、実際すでに楽しんでいるからなのです。

楽しむ方法としてはいくつか方法が考えられますが、原書がスラスラ読める上級者以外は「伴走者」(原書が訳されていればその訳本、映画化されていればその映画、テレビドラマ化されていればそのドラマ、漫画化されていればその漫画、音源があればその音源)を原書の理解を深めるために使うのがいいでしょう。私も「伴走者」の力を借りて原書を読み進めています。

文法も正確にはわからない、語彙だってすべてわかるわけではない…でも、ひたすら楽しむために「伴走者」といっしょに読み進める。それで、どうなるでしょうか。不慣れな文法も語彙も何度も遭遇しているうちに推測が働くようになり、だんだんと理解が深まること、それが帰納法でしたね。そう、それこそが帰納法的学習法なのであり、知らず知らずのうちに知らない文法や語彙に出くわしてもそのたびに推論が働くようになるので、それで推論能力が高まりうるのです。まさに一石二鳥といえるでしょう。

仕事で使わない外国語に関しては、私はこのような帰納的学習法でいいと思うのです。楽しみながら外国語に接していれば、けっして燃え尽きたり自己嫌悪に陥ったりしないでしょうから…。いやそれだけではありません。推論能力も高まるのです。ならば最初から完璧にマスターしてやろうとガチガチに勉強するより、「伴走者」の力を借りて外国語を楽しんだほうが何倍も楽しくないでしょうか。

私が燃え尽きたり自己嫌悪に陥ったりせずに10年も外国語学習を続けられているのは、完璧にマスターしてやろうという気持ちを最初から捨て、ただひたすら楽しむために学習を続けているからではないかと自認しています。

★前回のコラム

作家・翻訳家 宮崎伸治
作家・翻訳家 宮崎伸治Shinji Miyazaki

著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html