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2023.05.19 UP

第1回 赤裸々な自己紹介「出版翻訳家になったけれど…」

第1回 赤裸々な自己紹介「出版翻訳家になったけれど…」

英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!

英語翻訳家から多言語学習に挑戦するまで

出版翻訳家になったけれど…

今回から「翻訳家が語る! 多言語学習の魅力」というタイトルでコラムを連載させていただくことになり、大喜びしております作家・翻訳家の宮崎伸治と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

なぜ私が大喜びしているかといいますと、じつは私、ここのところ何年にもわたって多言語学習の魅力にどっぷりとはまっているからなのです。

と、こんなことを申しますと、「この人は何カ国語もしゃべれる語学の天才なのか、英語以外の言語も翻訳できるのか、外国語でぼろ儲けしているのか…」などと誤解される方もいるかと思いますので、そうした誤解を避けるため、あらかじめ私の語学レベルを赤裸々に暴露しておこうと思います。

なにを隠そう、私は英語以外の言語はあまりしゃべれない純日本人なのです。しかも髪の毛も薄くなり始めている年齢です。英語はしゃべれますが、それは若かりし頃イギリスに留学していましたから当然といえば当然ですし、学生時代は英語が好きで勉強していたというよりも偏差値の高い学校に進学したいがために、好きかどうかもよく分からないまま英語学習に励んでいたところもあります。

そんな私も21歳のころ、翻訳家になるという夢が湧いてきまして、翻訳の通信教育を3年受講し、27歳で産業翻訳家になり、30歳でイギリスに留学し、34歳で出版翻訳家デビューとなりました。ただ、今から思い返してみれば、そのころでさえ私は本当に英語(語学)が好きだったのかといえば、かなり怪しいもので、お金儲けに役立つからという俗っぽい理由で勉強していたところもありました。

かくて出版翻訳家になった私ですが、その後もずっと英語力不足に悩まされ続けていましたので、他の言語に手を出そうなどとは思ってもおらず、ひたすら英語一本の道を歩んでおりました。英語でさえまだまだなのに他の言語などもってのほか、手を出している暇などない、という心境でした。

しかし人生、いつ何がどうなるかは分からないもので、出版翻訳家として働いているうち私は様々なトラブルに遭い、何度か裁判沙汰になり、最後には本人訴訟(弁護士を付けずに1人で訴訟)をし、メンタル的にズタズタになり、とうとう出版業界から逃げ出しました。

ただ、中年ニートになりたくなかった私は“秘策”として通信教育課程という廉価な教育制度を利用して様々な大学に籍を置いて学問に励むことにしたのです。ご存じのとおり、ニートとは「学業も仕事もしない人」のことを指しますが、大学で学んでさえいれば、仕事をしていなくてもニートにはならないからです。

49歳から5つの言語の独学に挑戦!

そんなある日のこと、私の人生を変える出来事が起きました。図書館に籠もって英語の本にのめり込んでいると感電するかのような衝撃を受けたのです。

(外国語の本が読めるって凄いことだ。19世紀に地球の裏側に住んでいた人が書いた本でもダイレクトに理解することができる。つまり時空を超えることができる。でも、外国語の本が難なく読めるようになるのは語彙力が必要だ。しかし逆に言えば、語彙力さえつければ外国語の本が読めるようになるのではないか。そうだ、やってみよう。語彙力を徹底的に磨けば、いずれドイツ語もフランス語も読めるようになるはずだ)

当時すでに49歳になっていましたが、その日以来、3000日以上にわたって1日たりとて外国語学習を止めたことがありません。その間に作成した単語カードは約850束。ドイツ語は大学の第二外国語で履修してはいましたが、フランス語もイタリア語もスペイン語も中国語もまったくのゼロからスタート。それが今やいずれも中級か中級に近いレベルに到達しています。

多言語学習に使った単語カード約850束の山(!)

客観的な指標としては、フランス語は仏検準2級、TCFB1レベル、ドイツ語は独検2級、オーストリア政府公認ドイツ語検定B1レベル、イタリア語は伊検3級、スペイン語は西検4級、中国語はHSK5級、中検3級です(ちなみに「B1」はCEFRの「中級レベル」に相当します)。

各言語のプロから見れば、たいしたことない語学レベルだとは自認しておりますが、それでも自信をもって言えることは、中級レベルまで到達すれば、少なくとも「読む愉しみ」も「聴く愉しみ」も味わえるようになること、そして驚くほど素晴らしい世界が開けてくることです。しゃべれなければ意味がないという人もいるでしょうが、普通の人にとっては仮にしゃべれるようになったとしても、日本に住んでいる以上、その言語でしゃべらなくてはならない状況というものはそうあるものではありません。一方、読めたり聴けたりできるようになれば、いくらでも読んだり聴いたりする機会は簡単に作れるのです。そう、世界がガラリと変わるのです。

次回から、さっそくその魅力たっぷりな多言語学習について語ろうと思います。こうご期待!

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作家・翻訳家 宮崎伸治
作家・翻訳家 宮崎伸治Shinji Miyazaki

著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html