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2023.08.01 UP

第3回 「実行できる」の英語表現 viable

第3回 「実行できる」の英語表現 viable

季刊『通訳・翻訳ジャーナル』本誌で連載し、ご好評をいただいていた「通訳者のためのビジネス英語ドリル」がWeb版になって登場!
放送通訳者の柴原早苗さんがビジネス通訳の場面で役立つ表現を取り上げ、訳出のコツや関連フレーズなどを紹介します。

通訳者なら身に付けたい「実行できる」の英語表現

通訳練習で大切なのは、「大きな声で」「口に出して練習すること」、そして「何度も繰り返すこと」です。焦らず、けれども気を抜かず、コツコツと学んでいきましょう。
大事なのはとにかく「実行すること」です。

というわけで、今回のキーワードは「実行」です。「実行できる」という英語表現にはいくつかありますので、ご紹介しましょう。

練習問題1 日→英 通訳してみよう!

1.では、アメリカにおける今後の展開についてお話します。
2.我々は来年度、3 つの拠点をオープンしたいと考えています。
3.採算面でも実行可能だと思っております。

国内に拠点を置く企業が、アメリカで活動をさらに広げていく様子が描かれています。このような通訳業務を請け負う場合、事前に入手できる資料はぜひ依頼して目を通しておきましょう。
たとえば、今回の米国進出は初めてなのか、それともすでにいくつか事業を行っているのか、あるいは一度展開して撤退した経緯があるなど、あらかじめ背景を知っておくと便利です。アメリカだけでなく、他国での進出状況や事業規模、現地での従業員数や売上など、数字面でも押さえておくと、いざそうした話題が出てきた時もスムーズに通訳できます。

1~3までの英訳をまずは口に出してみましょう。しっくりくる文章ができあがったら、声を出しながら書き出してみてください。音読しながら書くことを「音読筆写」と言います。目・耳・手・口など五感をフルに使った作業です。

訳例1-1△
1.Now, I will speak about the future development in America.
2.Next year, we think that we want to open three bases.
3.We think that it is possible to do that financially.

解説
1.かなりの直訳調ですが、何とかメッセージを伝えようとしているのはわかります。「話す」は speaktalk がありますが、speak は相手がいてもいなくても構わないのに対し、talk はその相手を必要とします。the future development とありますが、「わが社の」と言うのであれば、the よりも our が好ましいでしょう。「アメリカ」はつい America としてしまいますが、それでは南米も含まれてしまいます。the US または the United States が正解です。

2.聞き落としがちなのが「来年」と「来年度」の違いです。日本語文は「来年度」となっていますので、next year は誤訳であり、正解は next fiscal year です。「~したいと考える」もあえて直訳調ではなく、スムーズな意訳を考えるのも通訳者の腕の見せ所です。「拠点」は辞書では base とありますが、以下で類似表現を学んでいきましょう。

3.センテンス2で we think that と述べており、すぐにこの文でも繰り返してしまうと稚拙な印象になります。「考える」「思う」といった英訳もいくつかストックしておくことで、言い換え表現ができるようになります。英語では同じ言葉を多用しないという約束事がありますので、日ごろからたくさんの表現を身に付けるようにしましょう。

訳例1-2◎
1. 
Let me explain about our future development in the States.

2. 
We would like to open three new stores in the next fiscal year.

3. 
In terms of profit, we think it is a viable plan.

解説
1.大胆に Let me … と始めています。「お話します」も「説明する(explain)」と意訳していますね。英訳するときは、あくまでも話し手が何を言いたいのか、瞬時に把握する必要があります。一字一句同じ語をあてはめるのではなく、「イイタイコトをとらえる」を意識して訳していきましょう。

2.事前のブリーフィングで「オープンするのは店舗である」という情報を入手したら、ぜひここは「店舗」と意訳してわかりやすくしましょう。字面通り訳せば良いわけではありません。話者の意図を汲み取り、聞き手が一番わかりやすい訳語を選んでメッセージを伝えるのも、通訳者の仕事です。

3.センテンス2と3では主語を we にしています。自分一人が何かを進めたり考えたりしているのでなく、「部署として」「会社として」という前提ならば、we をうまく活用してみましょう。in terms of … は「~の観点から、~に関して」という意味で、便利な表現です。なお、「実行可能な」はビジネスの場面で viable という言葉がよく使われます。見慣れない単語もどんどん使っていくことでなじんでいきます。
ぜひ以下のキーワードを参考に viable を身に付けてください。

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放送通訳者 柴原早苗
放送通訳者 柴原早苗Sanae Shibahara

同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNをメインに放送通訳業にも携わる。近年では近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。通訳や英語関連のコラムも執筆中。