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2023.06.08 UP

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(字幕翻訳:伊原奈津子さん)

『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(字幕翻訳:伊原奈津子さん)

話題の新作映画を、字幕または吹替翻訳を手がけた映像翻訳者の方が紹介します!


『ウーマン・トーキング 私たちの選択』
公式Webサイト
監督・脚本:サラ・ポーリー
出演:ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー ほか
米国/2022/105分
配給:パルコ ユニバーサル映画
©2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.
*6月2日(金) TOHOシネマズ シャンテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

ボリビアの、メノナイトが暮らす共同体で実際に起きた事件から着想を得て書かれた小説をもとに製作され、第95回アカデミー賞脚色賞をはじめ、数々の賞を受賞した本作は、ある架空の村に住む1人の少女 オーチャが、性的暴行を受け妊娠した隣人オーナのおなかの中にいる赤ん坊に語りかけるところから始まります。

オーチャ自身も、母親が暴力によって妊娠した子供で、父親に対する愛着は まったくと言っていいほどありません。この村は長年にわたり、家父長制度と愛情と信仰がいびつに交錯し、女を労働力と性のはけ口としてしか扱えない男たちと、それを甘んじて受け入れる女たちによって形作られてきました。

しかし、そんな村にある変化が訪れます。暴行犯が逮捕され、町の留置場に引っ張られていくのです。オーチャの父親を含む男たちは、その暴行犯の保釈を求めて町に赴き、村は2日の間、女だけになります。そして、この2日間に、女たちは改めて自分たちの身の振り方を考えるのです。

“今まで通り男たちを赦して村に留まるか” “村に残って闘うか” “村を出ていくか”。読み書きもできない、“民主的”という言葉すら知らない女たちが、実に民主的な方法で、自分たちの将来を選択していきます。怒ったり、泣いたり、笑ったり、祈ったりしながら、意見の違いを乗り越え、ある結論を導き出すのです。

“民主的”な話し合いとはどういうものか。彼女たちはどんな選択をしたのか。そして物語の最後に、オーチャは胎児に何を語りかけるのか。劇場で彼女たちの生き様を目の当たりにした皆さんが、私同様、そのたくましさ、しなやかさ、そして行く手にさす明るい光を感じて、劇場を後にしてくださることを願っています。

※ 通訳翻訳ジャーナル2023年夏号より転載

伊原奈津子
伊原奈津子Natsuko Ihara

映画翻訳者。アメリカで大学を卒業後帰国。ワーナー映画を経て1993年に独立。字幕・吹き替え両方をこなし『X-ファイル』シリーズを始めとする多くのドラマと劇場作品を手がける。代表作に『きみに読む物語』『エミリー・ローズ』『ザ・メニュー』『デスパレート・ラン』(5月12日公開)など。7月14日には『ヴァチカンのエクソシスト』が公開予定。