Contents
季刊誌『通訳翻訳ジャーナル』の連載、翻訳出版社最前線をWebでも公開しています!
翻訳書を刊行している出版社で、翻訳書を担当する編集者にインタビュー!
訳書の主なジャンルや選定方法、リーディングや翻訳の依頼などについてお話をうかがいました。
<翻訳出版社最前線> 集英社クリエイティブ
📚株式会社集英社クリエイティブ📚
~Company Data~
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-23-1 アセンド神保町ビル 4~6F
●ホームページ:http://www.shueisha-cr.co.jp
●翻訳書刊行点数:約6~10点/年
●翻訳書の主なジャンル:エンターテインメント(文庫)、文芸(新書、単行本)
●出版実績のある言語:英語、フランス語を中心に多岐にわたる
●原書の発掘方法:情報サイト、業界誌、訳者やエージェントの紹介
●新人翻訳者の抜擢:あまりない。持ち込みの場合はレジュメと各章のサンプル訳をつけること
●リーディング:あり。リーダーに翻訳を頼むこともある
編集部
日本の読者が楽しんで読めるかを大切に
株式会社集英社クリエイティブは雑誌や書籍、コミックスなどを発行しながら、集英社のグループ会社として集英社の出版物の編集・制作業務も行っている。現在、集英社文庫の翻訳書はすべて集英社クリエイティブの翻訳書編集部が手がけており、他にも単行本や新書の翻訳作品も多数担当している。集英社文庫はエンターテインメント系作品、新書や単行本は文芸のジャンルが多く、原書の言語は英語、フランス語を中心に多岐に渡る。
編集部の内田彩香さんによると、翻訳出版する原書の選定は、Webサイトや業界誌の情報から探したり、賞の候補に上がっている本をチェックしたり、あるいは訳者から推薦された作品を検討するケースもあるという。
「ほかに、お付き合いのあるエージェントに紹介された作品から選ぶこともあります。海外で文学賞を受賞した本についてもいち早く出版の道筋を作るなど、作品選びには力を入れています」
現地での評価ももちろん大事だが、作品選びのうえで、日本という土壌でどんな読者層に読んでもらえるか、だれが手に取るかの視点を大事にしているという。昨年刊行された『恐るべき太陽』(ミシェル・ビュッシ 著/平岡敦 訳/23年刊)では、そうした狙いが実を結び、24年本格ミステリ第1位、ミステリが読みたい! 第5位を受賞した。
原作の選定はもちろん内容ありきだが、そこには編集者のこだわりや嗜好も関わる。内田さんいわく、「基本的には編集者の熱意。ある程度惚れ込まないと出版はできない」とのこと。また、「原作が生まれた場所とは風土が違うので、日本の読者が楽しんで読めるかどうか」という視点を大切にしている。
「日本の作家さんには絶対書けない、という本も、翻訳出版する意味があるものだと思っています。その土地に暮らしていたからこそ書ける生活感や、ディテールの描写がうまく表現されている作品は気になりますね」
日本語の豊かさを表現できる訳者に
翻訳者とリーディングをするリーダーについては、これまでに付き合いのある人や、過去に著者の本を訳している人に頼むほか、「翻訳者の会」などで知り合ったのを機に仕事に発展するケースも多い。リーダーの場合は、新規なら少しずつ付き合いを深め、その人の訳し方がわかってきたところで、本の翻訳をお願いする場合もある。
「最近はSNSで情報を発信している方や仕事用のホームページを持っている方も多いですが、ご自身が読んだ本のレジュメを載せていると目に留まります」
もちろんリーダーも訳者も、そのクオリティの見極めは厳しい。特に文学性の高い作品の場合、ただ「要点を掴み、文章が上手」なだけでなく、その分野で専門的な勉強や研鑽を積み、日本語の豊かさを訳文に表現できる人が望ましい。また、作品に合った言葉選びを追求するうえで、お互いに活発にコミュニケーションができることも大事だ。
「訳文に、作品の持っている雰囲気がよく出ており、語彙が豊富で、『この場面でこの言葉を選ぶのがうまい』という訳者さんにお願いしたくなります。特に話し言葉には、訳者の方の力量が表れやすいと思います」
多言語の橋渡しとなる翻訳書は時代の必然
同社編集部の最近の傾向として、ミステリー作品に力を入れている。2023年には『ポピーのためにできること』(ジャニス・ハレット 著/山田蘭 訳/22年刊)が「翻訳ミステリー大賞」の候補作になるなど話題を集めた。今後もそうしたジャンルに目配せをしながら、さらに翻訳書の可能性に挑戦したいという。一つの目標として、年末のミステリーの賞レースに食い込める作品を、毎年1冊でも出したいと考えている。
「本がそのタイミングで出版されるのには何かしら意味があると思っているので、今だからこそ出す、という本をこれからも出し続けていきたいです。また、個人的にはファンタジーやホラーが好きなので、そうした分野にも力を入れて自分のカラーを出していきたいですね」
現在は、英語とフランス語圏の作品を出版することが多いが、他の言語の作品にも挑戦したい。
「韓国ブームで韓国語の学習者が増え、それによってこの数年で韓国作品の翻訳書がぐんと増えたように、さまざまな言語の日本語訳書が増えて、遠い国の本を読むことを通して共感し合える世界になっていくことを期待しています。特にフィクションにおいては、生成AIで血の通った翻訳はできません。むしろ人の手を介すことで、その時に必然的な本が生まれます。さまざまな言語との間で文化の橋渡しをするのが翻訳市場だと思うので、これからも翻訳書の果たす役割は大きいし、ずっと残していきたいと思っています」
新刊&売れ筋📕
必読!集英社クリエイティブのベストセラー📘
※『通訳翻訳ジャーナル』SPRING 2024より転載 取材/町田 薫