
季刊誌『通訳翻訳ジャーナル』の連載、翻訳出版社最前線をWebでも公開しています!
翻訳書を刊行している出版社で、翻訳書を担当する編集者にインタビュー!
訳書の主なジャンルや選定方法、リーディングや翻訳の依頼などについてお話をうかがいました。
<翻訳出版社最前線> 作品社
📚作品社📚
~Company Data~
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-7-4
●ホームページ:https://sakuhinsha.com
●翻訳書刊行点数:約20~25点/年
●翻訳書の主なジャンル:文学、政治経済、哲学、ポピュラーサイエンスなど
●出版実績のある言語:英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、オランダ語、ロシア語、ルーマニア語、ラトヴィア語、アラビア語、中国語、韓国語など
●原書の発掘方法:エージェント、翻訳者からの紹介など
●新人翻訳者の抜擢:基本的にはなし
●リーディング:付き合いのある翻訳者や、大学教員、研究者への依頼が多い

編集部
ポピュラーサイエンスの本が増加中
作品社は1979年創立の出版社で、社名は戦前に刊行されていた文芸雑誌「作品」に由来している。人文書、日本文学、海外文学、芸術書、随筆など幅広い分野の出版物を刊行しており、年間の刊行点数は50点ほど。その内の約半数、20~25冊がさまざまな言語からの翻訳書だ。
作品社で翻訳書の出版が本格的にはじまったのは1990年代。そこから2000年代にかけて徐々に冊数を伸ばした。翻訳書で多いジャンルは、文学、政治経済、哲学などだが、ここ最近は『私たちの生活をガラッと変えた物理学の10の日』(ブライアン・クレッグ 著/東郷えりか 訳)、『動物のペニスから学ぶ人生の教訓』(エミリー・ウィリンガム 著/的場知之 訳)など、難解な専門用語をできるだけ使わず科学を解説するポピュラーサイエンス作品の出版が増加傾向にあるという。
「ポピュラーサイエンスの本の刊行が増えています。世間的に、科学的な知識に対する関心が高いように感じています。なので、読者の反応がよく、売上も比較的安定している印象です」
原書の発掘方法は、著作権エージェント経由の情報から探す、ネットや雑誌・本の情報から編集者が自分で探す、翻訳者からの紹介、の大きく分けて3通りだ。
「翻訳者の中でも、専門的な分野を扱っている方だと、その分野の新しい書籍をキャッチアップされていらっしゃいます。そういった翻訳者の方に紹介された本が企画を通り、そのままその方に翻訳をお願いするケースもあります。また、企画書を作る段階でリーディングを頼むことも多いのですが、基本的には実際に翻訳をしていただきたい方にお願いするようにしています」
作品社では、担当編集者と付き合いのある翻訳者、または出版予定の本と類似するジャンルを過去に翻訳した実績のある翻訳者に翻訳を依頼することが多い。リーディングをするリーダーも同様だ。
「科学の本など、専門的な分野の書籍を訳す際には特殊なスキルが必要です。他社の本でも、類似するジャンルの訳書を出したことがある方だと安心してお願いできます」
ロシア語の訳書が
日本翻訳大賞に輝く
作品社の翻訳書の特徴として、英語以外の言語からの翻訳が多いことも挙げられる。
「ラトヴィア語、ルーマニア語、アラビア語など、マイナー言語の翻訳実績も多いです。分野にもよりますが、マイナー言語の翻訳については、知り合いの大学の教員や、研究者の方に依頼することが多くなります。また、当社では文学作品だけでなく、政治・経済の本などで英語以外の言語の翻訳書を出版しており、これはあまり他社にはない取り組みなので、当社の特色としていければと考えています」
2023年4月に受賞作が発表された第9回日本翻訳大賞(※)では、ロシア語の作品『チェヴェングール』(紹介欄参照)が大賞に輝いた。
「共訳の作品で、訳者の2人はロシア語の翻訳実績がほとんどなく、特殊な例になりますが、そのうちの1人は大学でロシア語を専攻していた私の友人です。この友人から、アンドレイ・プラトーノフというロシアの幻の作家がおり、彼の代表作にして20世紀小説の最高峰のひとつが、まだ日本語訳されていないという話を聞いていました。それが『チェヴェングール』で、出版に至りました」
※ 日本翻訳大賞は、過去1年(前々年12月1日~翌年12月末までの13ヵ月間)に日本で発表された翻訳作品のうち、「最も賞讃したいものに贈られる」というもの。
英語以外の言語の本も注目され、翻訳されていければ
どの言語を翻訳する場合でも、素直かつ謙虚にテキストに向き合う姿勢がとても重要だという。
「どれだけすばらしい翻訳者でも間違えることはあるので、テクストや言語外の事実に常に誠実であることや、作品に対して先入観を持たないことは大事だと思います。思い込みが、誤読や本全体の印象を変えてしまうことにつながり、読者を限定してしまうこともあります。また、作品の翻訳に対して自分の軸を持ち、ぶれずに翻訳してくれる方の訳は読みやすく、すばらしいと感じています」
今後も、現在伸びつつあるポピュラーサイエンスや、マイナー言語の訳書に引き続き注力しつつ、さまざまな本を手がけていきたいという。
「アジアでも、注目されている本や言語がたくさんありますし、そういったものも出版したいと考えています。また、現在あまり注目されていない言語の本も翻訳されていけばいいなと思います。これからも翻訳者の方と一緒に、1冊1冊の本に愛着を持って、本を出版していきたいと思います」
売れ筋📕

ティム・オブライエン 著
上岡伸雄・野村幸輝 訳
2,640円(税込)
(2023年4月刊行)
戦争の真実を伝え続けて著名なベトナム帰還兵の作家による、五十歳を過ぎて生まれた二人の息子と、いつか去り行くこの世界への、慈愛に満ちたメッセージ。

ジム・アル゠カリーリ 著
桐谷知未 訳
1,980円(税込)
(2023年4月刊行)
英国王立協会のマイケル・ファラデー賞を受賞した注目の理論物理学者による、今よりもちょっとだけ科学的に考えて生きるための8つのレッスン。
必読!作品社のベストセラー📘

アンドレイ・プラトーノフ 著
工藤順・石井優貴 訳
4,950円(税込)
(2022年6月刊行)
翻訳不可能と言われてきたロシア文学の幻の傑作にして、第9回日本翻訳大賞受賞作。1917年のロシア革命を挟んで激変する社会の中で、革命の意味やより良い生を求めて試行錯誤する人びとが描かれている。付録や解説も充実。
※『通訳翻訳ジャーナル』AUTUMN 2023より転載