どうすれば、プロとしてデビューすることができるのか?
実際に、映像翻訳者としてデビューをした若手翻訳者にお話を聞いた。
仏留学後、映像翻訳者を志してスクールへ
配信ドラマなどの字幕翻訳で活躍中
1984年生まれ。2006年にフランスへ留学し服飾専門学校を卒業後、現地でのインターンや就労を経て2012年に帰国。2014年より東京のスクールで映像翻訳を学ぶ。2017年にワイズ・インフィニティ大阪校の通学英日字幕翻訳実践コースに編入。2018年にワイズ・インフィニティのトライアルに合格し、フリーランス翻訳者に。主な作品にNetflixの『エルヴィラの嘘』『キポとワンダービーストの冒険』(英日字幕)など。
英語力のブラッシュアップからスタート
もともと映画や海外ドラマが好きだったという田添明子さん。服飾の勉強のために留学したフランスで映画館に通いつめたことで、映画好きに拍車がかかった。
「映画が好きなことに加え、言葉を使う仕事がしたかったこと、在宅でできる仕事がしたかったことも翻訳者を志した動機です。フランスから帰国後に、東京のスクールで映像翻訳の講座を見学したとき『私のやりたい仕事はこれだ』と思いました」
字幕翻訳をめざすにあたっては、まず英語力のブラッシュアップから始め、その後、映像翻訳の勉強をスタート。
「目標を設定したほうがやる気が出るので、まずはTOEICで900点以上を取ることを目標に勉強することにしました。朝日新聞出版の『TOEIC特急シリーズ』を繰り返し読んで勉強したほか、リスニング力をつけるために英語のニュースなどをポッドキャストやラジオで聞いていました。NPR(National Public Radio)は今もよく聞いています」
田添さんは、最初から字幕翻訳者としてのキャリアをスムーズに築けたわけではない。通学制の英日字幕翻訳実践コースを卒業してからもトライアルになかなか受からず、悩んだ時期もあるという。その間は別の通信講座で勉強を続けたり、映画祭で上映される作品の字幕翻訳をボランティアで請け負ったりしていた。そうした努力が実り、2018年に株式会社ワイズ・インフィニティのトライアルに合格。
「トライアル合格後に初めて字幕を担当したのは、大阪アジアン映画祭で上映された『牌九(バイゴウ)』というインドネシア映画でした。映画館のスクリーンに映し出される自分の字幕を見た時の感動を、今でも覚えています」
Netflixのドラマシリーズを1人で全話翻訳
現在はフリーランスとしてドキュメンタリーや映画、ドラマ、アニメ、カンファレンス映像、インタビュー映像、特典映像などさまざまな映像の字幕翻訳を担当している。シリーズの中の1話のみ担当したものを含めると、既に100本以上を翻訳してきた。
「印象に残っているのはNetflixの『エルヴィラの嘘』という作品です。ドラマシリーズは複数の翻訳者で担当することが多いのですが、このドラマでは初めて私1人でシーズン全話の字幕を担当しました。またフランスのドラマだったので、フランス語を生かせたこともうれしかったです。フランスへの留学経験はありますが、普段は英日翻訳がほとんどですから」
字幕翻訳を請け負うときに注意しているのは、スケジュール設定の際、推敲の時間を長めにとること。
「全体を訳了した後に少し時間をおくと、自分の訳出を客観的に見直すことができます。流れの悪い部分や誤訳に改めて気づくことも多いですね。気になった字幕や言葉、間違えやすい表記はノートにメモして時々見返すようにしています。また最後にSSTの見直し用リストを必ず確認しています」
作品の内容にもよるが、1日あたりに翻訳するのは台詞で200〜300枚、映像だと10〜15分ほど。余裕があるときには予定以上に仕事を進めたり、調べ物に時間をかけたいときはノルマを少なめに設定するなど、臨機応変に対応している。調べ物には、ATOKの辞書やWebを使っている。
「スマホにも複数の辞書アプリを入れていますが、よく使うのは『ランダムハウス英和大辞典』。スラングは『Urban Dictionary』を参照することが多いです。また、字幕翻訳で英語以上に大切なのが日本語です。『朝日新聞の用語の手引』『外国人名よみ方字典』『てにをは辞典』は頻繁に使っています」
限られた字数に合わせて要点を絞らなければならないことが、「字幕翻訳の最も難しいところでもあり、やりがいを感じるところでもある」と田添さん。「悩んだ末にしっくりくる表現を思いついた時は本当にうれしい」と話す。
※『通訳者・翻訳者になる本2022』より転載 構成/京極祥江
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