翻訳者だが仕事の「核」はレビュアー
中井さんがフリーの翻訳者として重視しているのが、品質にこだわることと専門性。
「訳文が正確であること、表記の統一ができていることは大前提なのですが、原文に忠実な訳が求められているのか、もしくは日本語として読みやすい、嚙み砕いた文章が求められているのかはクライアントによって違います。翻訳の依頼を受けた時は、必ずその辺りのさじ加減をコーディネーターに聞くようにしています。また、フィードバックがあったら必ず読んで、次回の依頼の際に反映しています」
実務翻訳では、機械翻訳が台頭してきている。ポストエディットの案件も増えつつあるが、中井さんは極力避けるようにしている。ポストエディットは翻訳力の上につながらないと感じたこと、単価が安いことがその理由だ。
「実は私の仕事の『核』はレビュアーなんです。ワールドワイドに拠点を持ち多言語翻訳を手がけているMLV(Multiple Language Vendor)からの依頼で、翻訳会社が納品した訳文をチェックするレビュアーの仕事を請けています」
専門知識が必要なレビュアーの仕事をしているからこそ、気の進まない案件を断ったり、報酬の交渉をしたりできる。フリーランスの翻訳者として独立してから10年、安定した収入を得ており、結婚し子どもができたのを機にマイホームも購入した。「翻訳はきちんと稼げる仕事」だと語る。
「翻訳は最初の単価から上がらないとよく聞きますが、そんなことはありません。専門性を持ち、品質の高い訳文を納品し続けていれば単価の交渉は可能ですし、私の仕事の単価もフリーになった当初と比べて上がっています」
翻訳者は一生をかける価値のある職業
好きな場所に住みながら、語学力を生かして仕事ができる翻訳者という職業に心から満足している。翻訳者をめざしている人の一助になればと、未経験から実務翻訳家デビューするにはどうすればよいかをテーマにしたオンライン講座も開講した。
「コロナ禍では在宅でできる仕事に関心が集まり、翻訳に目を向けられる方も多いようです。ところが翻訳を学習する講座はたくさんあっても、どうすればそれを職業にできるのかを取り扱う講座を見たことがありませんでした。私の経験が、何か世の中の役に立てばと思い『【元トライアル審査担当者が教える】未経験からの実務翻訳家デビュー』という講座を作りました」
翻訳者は一生をかける価値のある職業であり、少しでも興味があれば迷わず第一歩を踏み出してほしいというのが、中井さんが心から感じていることである。
産業翻訳者をめざす人へ ADVICE
翻訳の品質が高まり人脈作りもできるスクール通学
スクールで友人ができたことは、翻訳者として大きなメリットでした。フリーの翻訳者は孤独な仕事ですが、スクールで横のつながりができましたし、その後翻訳会社に就職した友人や、翻訳者になった友人から、仕事を紹介してもらったこともあります。翻訳の質を向上するという意味でも、人脈作りという意味でも、スクール通学をおすすめします。