JAT新人翻訳者コンテスト<br>受賞者インタビュー
※『通訳翻訳ジャーナル』2025 WINTERより転載。

通訳・翻訳の初仕事を得る方法はさまざまあるが、未経験者でもデビューの可能性が開けるのが「コンテスト」だ。特に、志望者が多く狭き門である出版翻訳においては、コンテストやオーディションからデビューを叶えた人も多い。コンテストがきっかけでデビューしたり、仕事が増えたりといった経験をした通訳者・翻訳者のリアルな声を紹介する。

翻訳者
翻訳者北本聖月さん

きたもと・みづき/アメリカの州立大学で美術を専攻。卒業後は英会話スクールに勤務。2020年からフリーランスとして英語の個人指導をはじめ、翌年からは翻訳も開始。現在は翻訳に絞り、英日・日英翻訳を手がける。美術検定1級(アートナビゲーター)。訳書に『美術のシンボル事典 世界の名画を読み解くための48の手がかり』(マシュー・ウィルソン著/翔泳社)。

●受賞したコンテストと結果
JAT新人翻訳者コンテスト
第18回 日英部門 ファイナリストに選出
第19回 英日部門 第1位
●主な翻訳の分野
実務翻訳(アート、歴史、マーケティング、ITなど)
●翻訳者歴
約3年半(インタビュー時)

課題の内容に興味を持って、何度も推敲を重ねる

アメリカの大学を卒業後、帰国してからは英語講師として働いていた北本聖月さん。英語学習の一環として短期の翻訳通信講座(翻訳入門)を受講したのが、翻訳者を志すきっかけになった。

「英語スクールで講師をしていたのですが、2020年からはフリーランスとして英語指導をすることにしました。フリーランスに転向してからは、アメリアの『定例トライアル』の課題に毎月取り組んだり、翻訳実務検定『TQE』の過去問を購入し訳例と自分の訳文を見比べたり、添削付きの短期通信講座を受講したりして、本格的に翻訳の勉強をはじめました。『越前敏弥の日本人なら必ず誤訳する英文 決定版』を読んだことをきっかけに、英文解釈力の強化にも取り組みました」 

翻訳は勉強が中心で仕事はほとんど受けていなかった時期に、JAT(日本翻訳者協会)が新人向けの翻訳者コンテストを開催していることを知り、応募することに。コンテストの存在を知った時には締切まで数日しかなかったが、数日の間、集中して取り組み、課題を提出した。結果はなんと、日英部門でファイナリストに選出。

「(第18回JAT新人翻訳者コンテストで)ファイナリストに選ばれてからは、JATのプロフィール経由で海外の会社から数件問い合わせがあり、ある程度定期的に仕事をするようになりました」

翌年の22年、第19回JAT新人翻訳者コンテストにも応募し、今度は英日部門で1位を受賞した。応募の際に心がけたのは、課題の内容に興味を持って取り組むことと、自分の好みや癖に頼らないで言葉を選ぶことだ。

「課題が、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に関連する内容だったので、背景知識としてロシアとウクライナの歴史について調べてから取り組みました。私の場合は、歴史のインターネットラジオ『コテンラジオ』が好きでよく聞いていたので、その関連する回を聞いたり、さまざまな記事を読んだりしました。自分の癖に頼らないというのは、するっと出てきた訳案こそ思い込みや勘違いがあるのではと疑い、原文に戻って何度も推敲した、ということです」

受賞をきっかけに仕事をもらうことも

コンテスト受賞の一番のメリットは、翻訳者としての自信がついたことだ。

「一人で勉強をしているとできない点ばかりが気になってしまうので、受賞できたことが自信につながりました。また、2023年には受賞者として東京で開催されたIJET*にご招待いただいたのですが、そこで会った方に受賞をきっかけに覚えていただき、お仕事につながったケースがいくつかありました。プロフィールやCVに受賞歴を書くことができるのも、お問い合わせいただくきっかけになっていると思います」

現在は、フリーランスの実務翻訳者として英日・日英翻訳に携わっている。大学時代にアートを専攻しており、現在はアートや美術館・博物館に関連する翻訳をすることが多い。この分野を専門にしていきたいと考えているため、普段から美術関連の記事、書籍、図録を読んだり、展覧会に足を運んだりしているという。

「アートなど自分が特に好きな分野のプロジェクトに関われるときにはもちろんやりがいを感じますが、どんな分野でも、関連する事柄について調べものをするのがおもしろいです。楽しいだけではなく自分の力不足を感じることも多いのですが、引き続き勉強の時間を作りながら、焦らず力をつけていきたいと思います」

※ JATが主催する、英日・日英翻訳者、通訳者が世界中から集まる国際会議。日本と海外の会場で交互に毎年開催されている。

コンテストへの応募を考えている人へ📣

まさか選ばれるとは思っていませんでしたが、受賞できたことで翻訳者として仕事をしていく自信がつきました。課題との相性などもあると思いますので、応募資格があるコンテストには、どんどん応募してみると良いと思います。ほんやく検定やTQEの過去問、アメリアの定例トライアルなど、原文と訳例・解説があるものは積極的に手に入れて、じっくりと取り組んでみると良いのではないでしょうか。

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