英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!
漢字がわかるからこそ、間違えやすい中国語単語も
前回、漢字から意味が透けて見えて「あ~、なるほどね」って思える中国語をいくつか紹介しました。しかし逆に、意味が透けて見えるからこそ勘違いしやすい単語もあるのです。そういう単語に関しては“日本人だからこそ”誤解しやすいので気をつけなければなりません。
今回はそんな気を付けるべき単語をご紹介しましょう。といっても、じつはそのような単語は山のようにあって、とてもすべては紹介できないので、今回ご紹介するのはごく一部であることをご理解ください。要は、日本語と中国語とでは意味が異なる漢字もあるので、日本語として使われている漢字の意味から類推して早合点しないほうがよいということです。
同じ漢字でも、こんなに意味が違う!
◆老婆
きっと多くの日本人は「『老婆』は『老婆』だろう、わかりきったことだ」って思うでしょうが、じつはそうではなく、中国語の「老婆」は「妻」という意味なのです。したがって、中国では若い妻でも「老婆」というのです。
ちなみに中国語の「老」という字には「年とった」という意味もあります。そこで中国人の先生に、なぜ「若い妻」のことを言うときも、わざわざ「老」を付けて「老婆」というのか訊いてみたら、「分りません。それを言うなら『虎』も中国語では『老虎』といいますよ」という答えが返ってきました。
でも、ここで話を終わらせないのが私。では日本語でいうところの「老婆」は何て言うのか調べてみました。すると出てきたのは「老太婆」でした。
面白いのが、「老婆」の前に「小」を付けて「小老婆」といえば「妾」の意味になります。「妻」が「老婆」なのに対し、「妾」は「小老婆」。妻の前で小さくなってなければならないからですかね?
◆先生
これも多くの日本人は「『先生』は『先生』だろう、わかりきったことだ」って思うでしょうが、じつはそうではなく、中国語の「先生」は「~さん」という意味です。ですから中国語で「宮崎先生」といえば「宮崎先生」という意味ではなく「宮崎さん」の意味になります。
中国語を習い始めの頃、これを知った私は、中国人の女友達に手紙を書くときに「林さん」というつもりで「林先生」と書いたことがあります。その後、彼女から返事のメールが来たのですが、「林先生」と書いたことに関して何も言及していなかったので、あれはあれで良かったのだと思い込んでいました。
しかし、その後何年も経ってから中国人の先生に教えてもらったのですが、女性につける「~さん」の場合は「先生」ではなくて「女士」とのこと。えええ、そうだったの? あ~、やらかした~。
◆愛人
中国語で「愛人」といえば「奥さん」という意味。しかも驚くことに辞書には「夫」も指す場合があるとも書かれてあります。では日本語でいう「愛人」は何というかといえば「情人」。
でもって、もっとややこしいのは「愛人」が配偶者だけでなく、恋愛中の相手も指すことがあるとのこと。もうややっこしいのなんの! 中国語をまったく知らないガールフレンドを中国人に紹介するとき、「彼女は私の『アイレン(愛人)』です」なんて口走ったら、彼女、「あれ、もしかして今、私のことを『アイジン(愛人)』って言っていたの?」とカッカと怒り出すかもしれませんね。
◆酒店
「酒店」は「酒屋」か「居酒屋」と思うでしょうが、中国語では「酒屋」という意味以外に「ホテル」という意味でも使われます。では日本語でいう「居酒屋」は中国語ではなんというかといえば「小酒館」と言います。大きな居酒屋でも「小酒館」なのでしょかね?
◆手紙
中国語で「手紙」といえば「トイレットペーパー」のことです。日本語の「手紙」は中国語では「信」といいます。
◆床
中国語で「床」は「ベッド」のことです。日本語の「床」は中国語では「地板」といいます。
◆人間
中国語で「人間」といえば「この世」のことです。日本語の「人間」は「人」といいます。
このように、なまじっか漢字を知っているからこそ、誤解しやすい中国語単語もあります。でも、日本語と中国語の差違を知ることもまた中国語学習の魅力の一つなのですよね。
★宮崎伸治さんの連載一覧はこちら
著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html