英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!
男性が話すか、女性が話すかで英語の聞き取りやすさが違う?
イギリス留学での挫折体験
高校まで英語の成績は良かったものの、私が学生だった頃は、いまと違って授業でリスニングもスピーキングも一切やりませんでした。海外旅行経験もゼロ、外国人の知人友人もゼロでしたから、高校卒業時点ではリスニングもスピーキングもまったくお粗末なものでした。
大学入学以降は、大学の授業や英会話学校などでリスニングとスピーキングの練習に励み、国外に一歩も出ることなくTOEICのリスニング部門で満点を取得しました。それをきっかけに、「リスニングは毎日やっていればTOEICのリスニングで満点取れますよ」などと知人に豪語し始めるなど、いま思えば、天狗になっていました。
そんな私の天狗の鼻がへし折られたのは、30歳手前でイギリスに留学したときのことでした。私はホームステイしたのですが、ホームステイ先のおやじさんの話す英語がまったく分らなかったのです。彼が私に話しかけてくると「※×□☆○」にしか聞こえませんでした。それだけヨークシャーなまりがきつい英語だったのです(ということにしておきましょう)。
しかも言葉が聞き取れても、その言葉の意味が理解できないことも多々ありました。例えば、ある日おやじさんが私にteaを入れてくれたのですが、私がそれを部屋に持ち込んで飲んでいると、10分後には“Tea is ready for you.”と私に声をかけてくるのです。「お茶はいま飲んでいるのに??」と意味がわかりません。
後からわかったことですが、tea は dinner の意味でも使われることもあるのです。他にも聞き取れない方言はたくさんありましたし、仮に聞き取れても意味が分らないし…で、「TOEICリスニング満点」が現地の人と会話する上であまり役に立たないことを痛感したものです。
女性の話す英語の特徴とは
ただし、イギリスでも女性が話す英語は比較的聞き取りやすい感じがしていました。そんな折、Women, Men and Language (by Jennifer Coates, Longman,1986)という本を読んでいると、男性と女性の話す英語の違いが説明してあり、納得しました。ここで、男性が話す英語と女性が話す英語の大きな違いを、同書からピックアップしてご紹介しましょう。
(1)女性は、男性よりも標準語に敏感であり、標準に近い発音で話す傾向がある。
(2)女性は、男性よりも卑猥語(絶叫、禁句等)を使うことが少なく、より洗練された表現や婉曲な表現を好む。
(3)男性は、女性よりも非標準語に高い価値をおく傾向があり、お互いがそれを使うことによって結束力を示す。
Women, Men and Language(by Jennifer Coates, Longman,1986)より、筆者訳。
さらに、男の英語と女の英語の具体的な違いを見ていきましょう。
(1)女性は、男性よりも曖昧な表現をよく使う。
例:It’s sort of hot in here…
It seems like…
(2)女性は、男性よりも付加疑問文をよく使う。
例:John is here, isn’t he?
(3)女性は、男性よりも下記の形容詞を頻繁に使う。
例:divine, charming, cute, sweet, adorable, lovelyなど
(4)女性は、男性よりも平叙文を疑問文のように最後を上げるイントネーションで話すことが多い。
例:What time will dinner be ready? に対して、About six o’clock? とまるで疑問文のように最後を上げて話す。
(5)女性は、男性よりも“丁寧すぎる表現”をよく使う。
例:I’d really appreciate it if…
Would you please open the door, if you don’t mind?
(6)女性は、男性よりもum, er, you knowなどのfillers(つなぎ語)をよく使う。
(7)自分の意見に自信がない場合、女性は、男性よりもqualifiersまたはdisclaimersをよく使う。
qualifiersの例:I know you might think it strange, but…
disclaimersの例:I don’t wish to annoy you, but…
Women, Men and Language(by Jennifer Coates, Longman,1986)より、筆者訳。
イギリスの春は「2日連続で雨が降らなかったら奇跡だ」と冗談が出るほど雨が多いのですが、晴れた日にイギリス人女性と出会ったりすれば、必ずといっていいほど“It’s lovely weather, isn’t it?” と声をかけられたものです。ところが男性からは一度としてこのフレーズで声をかけられたことはありません。lovelyという女性が好む形容詞を使っている点といい、付加疑問文を使っている点といい、いかにも女性らしい英語ですから、当然かもしれませんね。
★宮崎伸治さんの連載一覧はこちら
著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html