英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!
世界にはいくつの言語が存在するのか
前回、恥ずかしげもなく赤裸々に自分の語学レベルを暴露しました作家・翻訳家の宮崎伸治です。
多言語学習の魅力を探る前に、まず、世界中に何言語あるのかというところから見ていきましょう。そこでみなさんに1つ質問を出します。じっくり考えてみてください。
質問:世界にはいくつの言語があるでしょうか。
1. 150言語
2. 500言語
3. 1500言語
4. 8000言語
さあ、どうでしょうか。
~~~~~~~
答えは、「何言語あるかは正確にはわからない」でした。
(な~んだ、それならなぜ4つの選択肢を出したのだ、まぎらわしいことをするな!)
とお怒りの方もいらっしゃると思いますが、よく私の質問をお読みください。私は「世界中に何言語あるでしょうか」と質問しただけであり、「次の4つの中から選んでください」とも「次の4つの中に正解があります」とも言っていませんでしたね。
とまあ、意地悪な質問をしたわけですが、これには理由があります。それは、日本語だけで生活していれば「こういう場合はこういうことを意味する」とか「こういう場合はこう解釈すべきだ」と当然のごとく思われることであっても、外国語を学べば学ぶほど、「え? そういう意味ではなかったの?」と驚くことが多々あり、それをみなさんに体験してもらいたかったのです(といっても四択問題の出し方が日本と外国では異なるということではないのですが)。
実際、私は多言語学習を始めてからというのも、「え? それってそういう意味ではなかったの?」と驚愕することが何度もあり、そのおかげか言葉の使い方に非常に敏感になりました。その結果、どんな文章でも一読して「ここはこういう意味だろう」と自分勝手な解釈を入れず、できるだけ様々な角度から考えるようになったのです。
そういうわけで、もし今の私が上記のような質問をされた場合、質問者に対して「この4つの中から1つ選べという意味ですか?」とか、「この4つの中に正解があるのですか?」と問いかけていたことでしょう(といっても、そういったことがざっくばらんに問いかけられる間柄の人だったらの話ですが…)。
千数百から8千語?
広大な言語の世界
さて、では、なぜ世界に何言語あるかが正確に分からないのかという説明に入りましょう。その理由は2つあります。
1つの理由は、似通った言語が複数あった場合、それを1つとしてカウントするのか、2つとしてカウントするのか、はたまた3つ、4つ…としてカウントするのかといったことに関して言語学者によって見解が異なるからです。ある言語学者が「AはBと同じ1つの言語の方言だ」と考えても、別の言語学者は「AとBは外国語同士だ」と考えるかも知れません。実際、日本語と琉球語を別々の言語として考える言語学者もいれば、琉球語を日本語の方言の1つとして考える言語学者もいます。そういうわけで正確に「何言語ある」とは言いがたいのです。
もう1つの理由は、「言語」といっても書き言葉を持たず、話し言葉しかないものも多数あり、しかもその言語を話すネイティブスピーカーが1000人以下の場合もたくさんあるからです。
例えば、300人しかネイティブスピーカーがいない言語があったとしましょう。世界に何言語あるかを調べるために、世界中を探索して回って300人しか話さない言語を漏れなく調べ上げることがいかに困難かは誰でも容易に想像できることでしょう。そういうわけで「世界中に何言語ある」と正確にカウントするのは事実上、不可能なことなのです。
ただ、だからといって、おおよその数も分からないというわけではありません。概算で千数百から数千の言語があると言われています。8000言語という説もあります。いずれにしても、日本語1言語だけで(あるいは英語も含めて2言語だけで)生活してきた人にとっては、途方もないくらいたくさんあることになります。なにしろ桁が3つも違うわけですから。
「食わず嫌い」という言葉がありますが、食べたことがない食べ物を何かのきっかけで食べてものすごくおいしかったとき、(こんなおいしいものを今まで知らなかったなんて、なんだか損した気分、もっと早く知っていればなんて良かったことだろう!)と感じたことはないでしょうか。
「日本語だけで(あるいは日本語と英語の2言語だけで)十分」と思っている人も多いと思いますが、それは単なる(外国語学習における)「食わず嫌い」なのかも知れません。そこで私が提案したいのが、英語以外の外国語も試してみませんかということです。
もしかするとものすごく楽しい体験ができるかもしれません。なにしろ世界には千以上の言語があるのです。試さないことのほうがもったいなさそうです。
では、世界にはどんな言語があるのでしょうか。次回から深掘りしていきましょう。
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著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html