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2023.07.21 UP

4.インボイス登録事業者になるメリットとデメリット

4.インボイス登録事業者になるメリットとデメリット

フリーランスにまつわるお金の話、知っておきたい基本知識をプロが解説します。

インボイス登録をするメリットとデメリット

インボイス制度がスタートしました。
極端な言い方をすれば、インボイス登録事業者になって消費税10%を支払うのか、はたまた免税事業者に留まって、もしかすると収入の減少の可能性や取引が減るかもしれないリスクを負うかの選択を迫られている、とも言えます。
フリーランスの視点で今、どうするべきか、再度考えてみたいと思います。

果たして登録事業者になるのがベストなのか?

インボイス登録事業者への登録をしないで免税事業者に留まると受注減の可能性がある、あるいは最悪のケースでは取引を止められるかもしれない、とするとフリーランスにとってはとても怖い話です。もちろん、取引停止などの対応を企業側はしてはいけないとはされています(「下請法」などによる)。
とはいえ、企業側には免税事業者とばかり取引していると負担増のリスクがあるので、インボイス登録事業者に優先的に仕事を依頼することも考えられます。

そうなると「インボイス登録事業者になるしか方法がないではないか」と考えられるフリーランスの方もいるでしょう。しかし、はたしてそれが最善の方法なのかといえば、必ずしもそうとは言えないのが悩ましい点です。
登録事業者になることで、受注が減るようなリスクは避けられ、もしかして仕事が増える可能性もあるといった、不確実は予測はいろいろできます。ただ、一つはっきりしているのは、消費税の申告納税額が増えるのです。これまでいわば「懐に入れていた」状況が、税金を支払う状況になることに加えて、申告書の作成に関わる手間も発生します。
こうした事務負担は、一人ですべてを切り盛りしなければならないフリーランスにとっては頭の痛いところですし、専門家に任せるとなると、費用が発生します。

受注が減る可能性

そもそも免税業者に留まることが、本当に受注減につながるのかという疑問もあります。これに対しては、そうとも限らないという見方が少なからずあるようなのです。
なぜなら、インボイス制度の複雑さゆえに登録事業者になるべきか免税事業者に留まるべきかの決断ができずにいる「現免税事業者」が多く、登録事業者への転換のスピードは遅々とした状態のようです。新聞の記事によると、消費税の申告を行っていない免税事業者のうち、インボイス発行事業者の登録を行ったのは1割にとどまっているとのことです(日経新聞2023年6月27日)。

こうした状況は、委託元(例えば通訳者・翻訳者の場合なら通訳会社や翻訳会社)にとっては、仕事を免税事業者の翻訳者にお願いせざるを得ない状況が当面続くことを意味するともいえます。
仮に登録事業者のみに依頼したいと思っても、十分な数の登録事業者がいない、あるいは登録事業者の得意とする分野、能力水準、時間的制約なども生じるでしょうから、免税事業者(インボイス登録事業者になっていない)だからといって委託が一挙に減るとは考えにくいと言えると思います。

そうなると、逆に、いち早くインボイス登録事業者になった人は、受注がそれほど増えないにも関わらず、消費税支払い増と手間の増加は確実に降りかかってくるのです。今すぐに登録すべきか、せざるべきか、迷いが生じるのは自然でしょう。

下請法や独占禁止法の存在

さらに、状況を流動的にしている要因の一つが下請法や独占禁止法などの法律の存在です。これらは、ビジネスにおいて力関係の弱い中小企業者、フリーランスなどを守るための法律ですが、これらの趣旨からすれば、免税事業者であることを理由に取引を解除する、あるいは強制的に値引きに応じさせるといった行為は法律違反となる可能性があるのです。
これら法律を執行する立場にある公正取引委員会も、インボイスに関する相談を受け付けています。

2023年10月にインボイス制度がスタートされ、「何とかしなくては」と焦る気持ちの方々も多いと思われます。

しかし、ここの紹介したような様々な動きを見ると、「本当にすぐに動かなければだめなんだろうか」という気持ちになります。とはいえ、自分の状況(例えば、抱えている取引先各社の方針など)によってはすぐに動いたほうが良い場合、あるいは逆にすぐには動かないほうが良い場合もあるようにも思えます。
フリーランスとして働く私としては、少し様子を見ることにするという判断もありつつという考えのもと、近いうちに顧問税理士に相談してみるつもりです。

★前回の記事

戸田博之
戸田博之Hiroyuki Toda

オフィスエイ・エイチ代表。ファイナンシャルプランナー、DCプランナー。1980年東北大学卒業後住友銀行(現三井住友銀行)入行。国内では商品開発業務、欧米2拠点に7年間勤務後ニューヨークで独立。2001年に帰国後外資運用会社、外資保険会社で金融トレーニングのプロとして活躍。2011年に独立。58歳で大学院に入り言語学を専攻、東京大学博士(学術)を取得。2018年以降は、国際金融業界と言語学の知識を活かし早稲田、明治、法政など大学での英語講師活動を本格的に行う一方、金融関係では確定拠出年金説明会や企業従業員向けライフプランニングセミナーなどを日英両語でつとめるかたわら、金融専門誌への執筆を続ける。