通訳力向上に必要なのは、繰り返しの練習
練習問題2 英→日 通訳してみよう!
1.
Have you heard about ABC Company’s latest strategy?
2.
They are planning to open six factories throughout Asia.
3.
I’m not sure about the viability of that project, though.
ライバル会社について社内で話し合っている様子と推測できます。先方はどのような戦略を抱いているのでしょうか? それに対して、話し手はどう思っていますか?
ぜひこの3文も声に出してみてください。英語学習では「あらゆるチャンスをとらえてたくさん英語を話す」ことも上達への秘訣です。英語の音読の後に日本語訳も続けて言ってみましょう。
訳例2-1△
1.あなたはABC カンパニーの最新の戦略について聞いてますか?
2.彼らは計画しているんですよ、6 つの工場をアジア中にオープンすることを。
3.私がよくわからないのは、そのプロジェクトの実行可能性についてです。
解説
1.頭から順番に訳しているのがわかります。英文解釈問題としては合格点ですが、通訳となるともう少し洗練された訳が求められます。なお、企業名は事前に必ず正式名称を確認しておきましょう。「ABCカンパニー」「ABC株式会社」「株式会社ABC」など色々な名称が考えられます。「聞いてますか?」も間違いではありませんが、訳出する相手が誰なのか、年上なのか肩書が上なのかも把握する必要があります。
2.これもかなりの直訳調です。逐次通訳でメモ取りをすると、メモの冒頭から訳したくなるため、このような順番で訳出することがあります。ただ、あくまでも聞き手にとって自然かどうかは通訳者の力量にかかっています。「彼らは」といった代名詞も、日本語では入れずに済みますよね。聞き手が主語を解釈時に補ってくれるので、あえて入れなくても良いところは省いて構いません。
3.こちらもやはり頭から訳しています。間違いではありませんが、「私」「その」という言葉が逐一入っていますね。that project を「そのプロジェクト」としていますが、これも今までの文脈から考えれば、「6つの工場をオープンする」ということは自明の理です。通訳の際にはついつい千本ノックのごとくすべてを盛り込みたくなりますが、どこを落とすかも考えるべき課題です。
訳例2-2◎
1.ABC 株式会社の最新戦略をお聞きになりましたか?
2.アジアに工場を6つ、オープンするそうです。
3.実現性についてはよくわかりませんね。
1.「聞いていらっしゃいますか」を「お聞きになりましたか」としています。「お」は相手に敬意を表す便利な語です。「お」の後には「なる」「なさる」などが続きます。こうした言い回しがすぐに出てくるよう、日常会話の中でも意識的に使ってみてください。
2.逐次通訳の場合、時間切れでメモが最後まで取れないというケースがあります。たとえばこの文章では、「6」「工場」などのキーワードを書いた途端、通訳の番が回ってきています。その際には最後の単語を書かずに Asia を頭の中に記憶させ、まずは「アジア」から訳し始めるのです。メモ取りに焦るのではなく、最後から訳し戻っていくというのも一つの方法です。
3.viability は「実行可能性」という意味ですが、ここでは「実現性」と意訳しています。通訳をしているとどこまで意訳してよいのか迷うところですが、とにかく大事なのは「聞き手が理解すること」です。「そのプロジェクト」も、わざわざ言わなくても聞き手はわかっています。省けるところは省く勇気を持ってください。
* * *
今回は「実行できる」という表現をメインに通訳練習をしました。和訳では主語を省くこと、また、落としても良い個所はあえて落とし、聞き手にゆだねることなど、私たち通訳者が工夫できる点は色々とあります。また、英訳では繰り返しを避ける、すっきりした文章を作ることも大切です。通訳力向上に必要なのは、何と言っても繰り返しの練習です。焦らずたゆまず、コツコツと訓練を続けていってください。
★前回のコラム
同時通訳者。獨協大学およびISSインスティテュート講師。上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールドを経て現在はCNNをメインに放送通訳業にも携わる。近年では近年では米大統領選、ノーベル賞、エリザベス女王国葬、テニスATPカップ、G7広島サミット記者会見、ノーベル平和賞受賞ユヌス博士、国会議員連盟の通訳などに従事。通訳や英語関連のコラムも執筆中。