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2023.05.26 UP

第12回 外国語会話を習うことにどんなメリットがあるか

第12回 外国語会話を習うことにどんなメリットがあるか

英語のみならず、独語、仏語、西語、伊語、中国語を独学で身につけ、多言語での読書を楽しんでいるという作家・翻訳家の宮崎伸治さんに、多言語学習の魅力を余すところなく語っていただきます!

私が外国語会話を勧める理由

会話を習う意外なメリットとは

朝7時半、喫茶店に入り、ホットコーヒーで頭をスッキリさせる。朝9時前に外国語学校に到着し、9時15分にマンツーマンレッスン開始。40分のレッスン後、5分休憩。それからレッスン再開しさらに40分のレッスン。正味80分のレッスンだが、レッスンが終わる頃には疲労でヘトヘトになる。これは年齢のせいなのか、それとも頭を駆使して喋り慣れない外国語を喋ったからか。真相は不明だが、そのまま家に帰って昼食を済ませると一気に疲れが出てきて熟睡してしまう。やっと目が覚めるのが午後2時とか3時。それでもかすかに疲労が溜まっている。こんなに疲れるなんて…。

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じつは1年近く前からフランス語会話、中国語会話、ドイツ語会話のマンツーマンレッスンに通っているのですが、これが外国語学校に通った日の様子です。もう本当にグッタリ疲れるのです。

これまでのコラムで「仕事で使わない外国語はリーディングとリスニングで十分!」という「受信能力強化論」を提唱してきた私がいったいなぜ会話を習っているのかといえば、それだけのお金と時間と労力をかけてでも習うだけのメリットを感じているからなのです。

では、会話を習うことにどんなメリットがあるのか。

外国語が読めるようになれば、いくらでも読む本を見つけられますし、外国語が聴けるようになれば、いくらでも視聴できる動画を見つけられます。まさにネット時代、ネットを利用すれば外国の書籍も簡単に購入できますし、外国の動画も見放題です。人生の楽しみが何十倍、何百倍、何千倍…と広がるのですから、これを利用しない手はありません。これこそ私が「受信能力強化論」を提唱する最大の理由です。

「そうそう、だからリーディングとリスニングで十分じゃないか」という方もおられるでしょう。そう、それでも十分です。しかし余裕のある人には会話も習ってみることをお勧めしたいのです。

その第一の理由は、外国語会話を習えば、単に外国語会話能力が身につくだけではなく、それ以外のさまざまな力がつくと思うからです。具体的には、記憶力が良くなる、集中力がつく、推論能力が磨かれる、日本語の言葉の使い方もうまくなる…といったことですが、今回は実際の研究結果が分かる形で「頭トレになる」という利点についてお話ししたいと思います。

外国語を聴くときの脳の負担

一般の人は母国語を話すとき、脳にそれほど負担がかかりません。その証拠に小さな子供から高齢の老人まで(ごく一部の例外的な人を除けば)誰でも難なく母国語をしゃべることができます。しかし逆にいえば、母国語を話しても脳に負担がかからないため、脳トレにはならないのです。それが如実に表れている実験結果がありますのでご紹介しましょう。

ご紹介するのは、母国語を聴いているときの脳血流量と外国語を聴いているときの脳血流量を測定した実験です。被験者は日本人と米国人ですが、日本人も米国人も似たような実験結果がでています。すなわち外国語を聴いているときは母国語を聴いているときより何倍も脳血流量が増えているのです。

外国語を聴くには、それだけ脳に負荷がかかるため、脳血流量が増加するわけですが、その差が驚くほど大きいのです。サンプル数は少ないものの、この歴然とした差を見れば、外国語を聴くことがいかに脳に負担がかかるかが推測できるように思います。

第一言語処理と第二言語処理における脳活性状態の違い-日本語と英語のリスニングにおいて-
「第一言語処理と第二言語処理における脳活性状態の違い-日本語と英語のリスニングにおいて-」(大石晴美、木下徹)のデータを参考に作成。(https://hugepdf.com/download/5add77bc8b0fc_pdf

この実験はリスニング時のデータなので、「だからリーディングとリスニングで十分じゃないか」という方もいると思います。しかし外国語会話のレッスンを受ければ、リスニング力が要求されるだけでなく(しかも実際に外国人を目の前にして自分に直接話しかけられるわけですから音声教材など以上に神経を集中して聞くことになります)、話すことも要求されます。そして外国語を話そうと思えば言葉の意味、語順、発音などにも注意を払わなければならないので、リスニングだけのときよりも脳血流量が増加するのは間違いないように思います。というわけで、私が喋り慣れていない外国語を80分も喋り続けたら“ハンパない疲労感”に襲われるのも当然なのです。

私がこの“ハンパない疲労感”を気に入っているのは、それだけ脳トレになっていると思うからです。実際私は外国語学校に通い始めて記憶力も日本語会話力も集中力もあがったように感じています。「ではそのエビデンスを見せろ」と言われても、各種検定のスコアくらいしかお見せすることはできませんが、それはともかく、やっぱり何がいいかといえば、今まで喋れなかった言語で外国人とペラペラ会話できるようになるという一種“魔法”のようなことができることですね。この魅力にはまったら人生楽しくてたまらなくなること請け合いです。というのもそこに“ハンパない疲労感”を超える喜びを感じることができるからです。というわけで、余裕がある人には外国語会話をお勧めしたいのです。

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作家・翻訳家 宮崎伸治
作家・翻訳家 宮崎伸治Shinji Miyazaki

著書に『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)などがある。ひろゆき氏など多くのコメンテーターに対して翻訳業界の現状を語る番組に出演した際の動画が無料で視聴できる。https://abema.tv/video/episode/89-66_s99_p3575(ABEMA TV)。また「大竹まことのゴールデンラジオ」に出演したときのようすが、次のリンク先のページの「再生」ボタンを押すことで無料で聴くことができる。http://www.joqr.co.jp/blog/main/2021/03/110.html