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2023.05.31 UP

ゲーム翻訳の現場に迫る!
SIEローカライズチームにインタビュー(後編)

ゲーム翻訳の現場に迫る!<br>SIEローカライズチームにインタビュー(後編)
※通訳翻訳ジャーナル2021年夏号巻頭記事より転載

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、世界中でゲームの開発を行い、人気作を生み出しているゲーム会社。同社の海外スタジオで制作されたゲームの日本でのヒットを支えているのが、社内の専門チームによって行われる高品質な日本語ローカライズだ。2020 年に発売された2つのゲームのローカライズ作業について、SIE ローカライズチームの方々に話を聞いた。
→【前編はこちら】

【お話】(後編)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント

谷口新菜さん
谷口新菜さんNiina Taniguchi

『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』
シニアローカライズスペシャリスト

大島 陸さん
大島 陸さんRiku Oshima

『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』
ローカライズスペシャリスト

スラングや若者言葉も駆使
すべての台詞を生き生きと訳す

Marvel’s Spider-Man
Ⓒ2021 MARVEL
Ⓒ2020 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Insomniac Games, Inc.

『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales』
ジャンル:アクションアドベンチャー
対応機種:PlayStationⓇ4、PlayStationⓇ4 Pro、PlayStationⓇ5
発売日:2020年11月12日
公式Webサイト

人気キャラクターが活躍する
大ヒットゲームの続編

2018年にSIEが発売したPlayStation 4用ゲーム『Marvel’s Spider-Man』は、まるでスパイダーマンになったように高層ビル街をスイングできるアクションや、細部まで作り込まれたマーベル世界のニューヨークの街並みを探索できる楽しさが人気を呼び、世界累計実売本数が2019年7月28日時点で1320万本を突破する大ヒット作となった。

その続編として2020年に発売されたのが、『Marvel’s Spider-Man: Miles Morales(スパイダーマン: マイルズ・モラレス)』だ。開発を手がけたのはSIE傘下のアメリカの開発会社、インソムニアックゲームズ。スパイダーマンが主人公のゲームではあるが、映画やアニメなどとは一部設定やストーリーが異なるため、独立した作品として楽しめるようになっている。

Marvel’s Spider-Man: Miles Morales プレイ画像
ゲーム内のリアルなニューヨークの街並み。通行人(NPC)にも多くのボイスが与えられており、それらもすべて日本語化された。
Ⓒ2021 MARVEL
Ⓒ2020 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Insomniac Games, Inc.

大部分の翻訳を2名で行う
コロナ禍の影響も

本作の日本語ローカライズは、シニアローカライズスペシャリストの谷口新菜さん、ローカライズスペシャリストの大島陸さんの2名で行われた。シナリオやNPC(※Non player character:街中にいる人々など、プレイヤーが操作できないキャラクター)の会話など、ゲーム内の台詞はほぼすべて2人で訳し、ゲーム内テキストも一部は他のローカライズ会社に依頼したが、大部分は社内で翻訳した。

谷口さん「前作の『Marvel’s Spider-Man』もこの2名でローカライズを担当していて、世界観が把握できていたので、事前準備は少なくてすみ、新しく登場する用語やキャラクター名を確認するくらいでした。ですが、このゲームはアクションシーンでもほとんどの場面で誰かが喋っているので、とにかく台詞が多いんです。プレイ時間は『Ghost of Tsushima』よりも短いのですが、台詞の総量はほぼ同じくらい。限られた期間の中で、それらをすべて訳す、というのが非常に大変でした」

シナリオの翻訳には約4カ月をかけ、吹替の収録期間は全部で2カ月半ほど。その他のゲーム内テキストやNPCの会話はトータル1カ月ほどで仕上げた。これは他の大作ゲームの場合もそうだが、開発と並行してローカライズを行うため、シナリオは1度に送られてくるのではなく、開発が終わった箇所ごとに分割されて届く。順番もストーリー通りとは限らず、ゲーム終盤のシーンを最初に訳さなくてはならない、というようなことも頻繁にある。

大島さん「後から送られてきたシナリオを見たら、すでに吹替を収録した台詞とかみ合わなくて、後日録り直しをする、ということもよくあります。開発側が台詞の尺などを変更することもあるので、その都度対応が必要。開発の進行に左右されるのは、大作ゲームのローカライズでよくある苦労かなと思います」

また、2020年11月発売の同作はコロナ禍下でのローカライズ作業となったため、谷口さんと大島さんも互いに連絡を取りつつ、作業はすべてリモートで行った。通常であればスタジオに大人数を集めて吹替の収録をする場面でも、数名ずつに分けるなど、普段よりも手間がかかることも多かったというが、最終的にはスケジュール通りにローカライズを完了することができた。

Marvel’s Spider-Man: Miles Morales アクションシーン
アクションシーンでも、主人公が電話などでいつも誰かしらと喋っている。プレイヤーを飽きさせないための工夫だ。
Ⓒ2021 MARVEL
Ⓒ2020 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Insomniac Games, Inc.

※ 通訳翻訳ジャーナル2021年夏号巻頭記事より転載

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