
話題の新作映画を、字幕または吹替翻訳を手がけた映像翻訳者の方が紹介します!
『バティモン5 望まれざる者』 2024年5月24日(金)公開

『バティモン5 望まれざる者』
公式Webサイト
監督・脚本:ラジ・リ(『レ・ミゼラブル』)
出演:アンタ・ディアウ、アレクシス・マネンティ、アリストート・ルインドゥラ、スティーヴ・ティアンチュー、オレリア・プティ、ジャンヌ・バリバール
2023年/フランス・ベルギー/シネマスコープ/105分/カラー/仏語・英語・亜語/5.1ch
原題:BÂTIMENT 5/字幕翻訳:宮坂愛/映倫区分G
配給:STAR CHANNEL MOVIES/後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
© SRAB FILMS – LYLY FILMS – FRANCE 2 CINÉMA – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINÉMATOGRAPHIQUE – 2023
*5/24(金) 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
【訳者が語る】
ラジ・リ監督の前作『レ・ミゼラブル』(2019 年)に引き続き、字幕翻訳を担当させていただきました。パリ郊外のgentrification(ジェントリフィケーション)を描いた作品です。この言葉はいつも訳し方に悩むのですが、端的に言うと「スラムのイメージアップ」でしょうか。移民が多く住む団地の取り壊しが物語の軸となっています。
本作の舞台は架空の町ですが、モデルとなったのは監督の出身地で前作の舞台でもあるモンフェルメイユです。実際のモンフェルメイユでは、老朽化した団地の取り壊しが90 年代から始まり、2020 年に最後に取り壊されたのが、タイトルにもなっている「bâtiment 5 」(5号棟)です。
取り壊し後に新しいアパートを建てるといっても、gentrificationの煽りを受け、元の住人は排除されてしまいます。ただ、住人である移民にも世代間で考え方の違いがあり、さらに「どこからの移民か」によっても行政の待遇が異なります。そのため、住人側も一枚岩ではありません。
本作では、移民の住宅支援を行う若いアフリカ系の女性が、行政の横暴な施策に対して立ち上がるのですが、そこに前作『レ・ミゼラブル』へのアンチテーゼのようなものを感じました。前作ではある登場人物が「怒りの他に主張する方法がない」と訴えます。そして怒りが暴力の連鎖を生んでいきます。一方、本作では先述の女性が「いつも怒りだけなんてダメだよ」と言い、怒りに任せた暴力ではなく、別の方法で反旗を翻そうとします。ただ、その結果どうなったか。前作のイッサ少年の怒りと悲しみを湛えた目が今も頭に焼き付いているのですが、今回もある人物の絶望感が痛いほど伝わってきました。ぜひ本作をご覧になって体感していただければと思います。
※ 通訳翻訳ジャーナル2024 SUMMERより転載

映画翻訳者。英語・フランス語作品の字幕・吹替を手がける。主な担当作品は『12日の殺人』(字幕)、『ノートルダム 炎の大聖堂』(字幕)、『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』(字幕)、『レ・ミゼラブル』(字幕)、『Climax』(字幕)、『リトル・バットマン クリスマスの大冒険』(吹替)など。
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