話題の新作映画を、字幕または吹替翻訳を手がけた映像翻訳者の方が紹介します!
『マリア 怒りの娘』 2024年2月24日(土)公開
『マリア 怒りの娘』
公式Webサイト
監督・脚本:ローラ・バウマイスター
出演:アラ・アレハンドラ・メダル、バージニア・セビリア、カルロス・グティエレス、ノエ・エルナンデス、ダイアナ・セダノ
ニカラグア、メキシコ、オランダ、ドイツ、フランス、ノルウェー、スペイン/2022年/91分/スペイン語/
配給:ストロール
© Felipa S.A. – Mart Films S.A. de C.V. – Halal Scripted B.V. –
Heimatfilm GmbH + CO KG – Promenades Films SARL – Dag Hoel Filmprooduksjon
as – Cardon Pictures LLC – Nephilim Producciones S.L. – 2022
*2月24日(土) ユーロスペースほか全国順次公開
中米の小国ニカラグアの女性監督、ローラ・バウマイスターによる長編デビュー作です。
ニカラグアの首都マナグア。湖が見渡せる巨大なゴミ集積場の近くで、11歳の少女マリアは母と暮らしています。ファーストシーンは死体すら転がるゴミの山を映しているのですが、なぜか悲惨さを感じさせず、むしろ静謐な映像美に圧倒されます。
マリアはやがて母と離れ、生きていくため労働を強いられることになります。その現実は私たちから見れば苦しくなるほどに悲惨ですが、それでもマリアは強く生きることに前向きです。その生き方こそ、母リリベスが命をかけて娘に渡したメッセージ。貧しいが故に、余分なものがそぎ落とされて芯に残った母の愛が胸に迫ります。悲しいまでの母の深い愛情が、あなたの心に刺さり涙を誘うことでしょう。
最近の字幕翻訳は意訳よりも極力原文に忠実な翻訳が好まれてはいるようですが、本作では原語がスペイン語であり、さらにニカラグアの方言が強いこと、またニカラグアという国が距離的にも文化的にも日本と隔たりがあることから、作品の背景を分かりやすく伝えようとあえて意訳した字幕もあります。
本編に登場する「猫は7回生まれ変わる(回数は諸説あります)」という言い伝えは、ニカラグアだけではなく中南米ではよく知られているものですが、それがストーリーにも関わってくるので、どのような表現が分かりやすいか悩みながら字幕にしました。
児童労働、環境汚染などさまざまな社会問題が描かれていますが、重たさや押しつけがましさはないので、ぜひ劇場で観ていただき、地球の反対側の社会に思いを馳せるきっかけになればと願います。
政治や経済状況は違っても、現在の日本にも閉塞感が漂い、生きづらさを抱える人も少なくありません。生きる意味や、自分が幸せかどうか分からなくなった人に、この映画はシンプルかつ鮮烈なメッセージを与えてくれるでしょう。
「頭を上げて。前を向いて」
※ 通訳翻訳ジャーナル2024年SPRINGより転載
映像翻訳者。主に英語、スペイン語の劇場公開作、配信、CS、DVD作品等広く字幕翻訳を手がける。担当作は『世界にひとつのロマンティック』、 『別れる前にしておくべき10のこと』、 『レイン・イン・ブラッド』、『クロスマネー』 、『スパイ・ウルトラ』ほか多数。