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2023.08.17 UP

『ファルコン・レイク』(字幕翻訳:横井和子さん)

『ファルコン・レイク』(字幕翻訳:横井和子さん)

話題の新作映画を、字幕または吹替翻訳を手がけた映像翻訳者の方が紹介します!


『ファルコン・レイク』
公式Webサイト
監督・脚本:シャルロット・ル・ボン
出演:ジョゼフ・アンジェル、サラ・モンプチ、モニア・ショクリ
原作:バスティアン・ヴィヴェス『年上のひと』(原 正人 訳、リイド社刊)
カナダ、フランス/2022/100分
提供:SUNDAE 配給:パルコ 宣伝:SUNDAE
©2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI
*8月25日(金) 渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー

『ファルコン・レイク』は、(もうすぐ)14歳の少年と16歳の少女の、ある夏の… ある特別な夏の物語です。フランスの人気バンド・デシネ(漫画)が原作。原作者(バスティアン・ヴィヴェス)が「映像では表現できない」と考えていた世界を、シャルロット・ル・ボン(監督・脚本)が「自分の物語」として映画化しました。

バスティアン少年と弟は夏休みを過ごすため、両親と共にカナダのファルコン・レイク湖畔にやってきます。母親の友人と、その娘、2年ぶりに会う16 歳のクロエも一緒です。大人になりきれない、揺れる年頃のクロエは少しエキセントリックで不安定。巻き込まれるように過ごすうち、バスティアンは戸惑いつつも惹かれていきます。

2人で行く夜のパーティー、夜の道、たわいもない会話と打ち明け話。2人だけの秘密。でも単純な「ティーン・ミーツ・ティーン」の映画ではありません。2 人が夏を過ごすファルコン・レイク湖畔には死の気配が漂っています。死と“ 湖の幽霊”の気配。バスティアンはクロエのためにシーツをかぶって幽霊になってみたりもします。

原作では南仏のビーチだった舞台を、シャルロット・ル・ボン監督はカナダ、ケベック州の湖畔に移しました。地中海のまぶしい太陽から、深い森と湖へ。クロエはカナダ人ですがバスティアンはフランス人であり、カナダの避暑地ではほんの少し異質な存在でもあります。まるで人々の間に交ざった幽霊のように。その違和感は、思春期が共通して持つものでもあるかもしれません。

シャルロット・ル・ボン監督が描く、切なく衝撃的な(もうすぐ)14歳と16歳の夏の終わりを見届けていただければと思います。

※ 通訳翻訳ジャーナル2023年秋号より転載

横井和子
横井和子Kazuko Yokoi

字幕翻訳者。ワイン専門商社に勤務後、制作会社アルバイトを経て現在フリーランス。フランス映画、フランス語圏の映画作品を多く手がける。代表作:「最高の花婿」シリーズ、「ボブという名の猫」シリーズ、『燃ゆる女の肖像』、『わたしはロランス』、『ベネデッタ』、『CLOSE/クロース』、『ジェーンとシャルロット』(8月4日公開)など。10月13日に『アアルト』が公開予定。