![書肆侃侃房 / 翻訳書も多数出版 <br>独自路線で注目を集める福岡の出版社](https://tsuhon.jp/wp-content/uploads/2024/12/f6c0b213758f70544ddfc7233209d369.jpg)
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季刊誌『通訳翻訳ジャーナル』の連載、翻訳出版社最前線をWebでも公開しています!
翻訳書を刊行している出版社で、翻訳書を担当する編集者にインタビュー!
訳書の主なジャンルや選定方法、リーディングや翻訳の依頼などについてお話をうかがいました。
<翻訳出版社最前線> 書肆侃侃房
📚書肆侃侃房📚
~Company Data~
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-8-18 天神パークビル501
●ホームページ:http://www.kankanbou.com
●翻訳書刊行点数:約10点/年
●翻訳書の主なジャンル:海外文学
●出版実績のある言語:韓国語、英語、中国語、ポルトガル語、ドイツ語、スペイン語、チベット語など
●原書の発掘方法:翻訳者からの紹介など
●新人翻訳者の抜擢:あり
●リーディング:基本的にはしていない
地理と助成金を生かし、韓国文学の翻訳をスタート
2002年に設立された福岡の出版社、書肆侃侃房。社員が8名、そのうち編集部は3名と小さな出版社だが、16年にvol.1が発売された、小説・翻訳・短歌を中心にした文学ムック『たべるのがおそい』(19年終刊)や、笹井宏之による歌集『ひとさらい』『てんとろり』(11年刊)、8人のアメリカ文学者のWeb連載を書籍化した『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』(青木耕平ほか 著/20年刊)など、注目を集める本を多数出版している。
2000年代から翻訳書の出版をしており、現在の翻訳書の刊行点数は、1年で10点ほど。英文学の訳書より先に増えたのが、韓国文学の訳書だ。
「福岡と韓国は行き来しやすいですし、弊社の会長はもともと韓国の詩人たちと交流がありました。また、韓国文学翻訳院が、自国の文学を海外に届けるため、韓国文学作品を翻訳出版する出版社に対して費用の支援をしています。この助成金も活用し、16年に『韓国女性文学シリーズ』の刊行がはじまりました」
藤枝大さんが入社した17年ごろからは、英語や中国語、韓国語以外の言語の翻訳書の出版も増えた。現在は編集部3名のうち、2名が韓国、中国、台湾などの作品、藤枝さんがそれ以外の言語の作品を主に担当しているという。
「英語以外のさまざまな言語の文学作品に、読者として以前から親しんでいたということもあり、翻訳業界では『マイナー言語』として扱われたりする言葉で書かれた小説も紹介したいという思いが強くなりました。第9回日本翻訳大賞の最終選考対象作品に残った『路上の陽光』(ラシャムジャ 著/星泉 訳/22年刊)はチベット語の文学作品です」
読書会をきっかけに翻訳者との輪を広げる
藤枝さんにはさまざまな言語の翻訳者の知り合いがいる。知り合ったきっかけは自主的に開催している読書会だ。
「2015年頃から、ジョージア語、バスク語、チベット語、カタルーニャ語などさまざまな言語の翻訳者の方もときにお招きして読書会を開いてきました。その中でたくさんの翻訳者の方たちと出会い、そのご縁が今も生きています」
翻訳書を出版する際は、多くの場合、原書が決まるより先に、どの翻訳者と訳書を出すのかということを重視する。翻訳者からの持ち込みは歓迎しているが、リーディングの依頼をすることは基本的にないという。
「知り合った翻訳者の方と連絡を取り合って、その言語の文学作品の情報交換をしていく中で、翻訳する意義のあるものが出てくれば、ご一緒させていただいています。いわゆるその他の外国文学の翻訳をされている方は、扱っている言語に対する思い入れの強い方が多いです。仕事というよりは、翻訳者の方と人生をかけて歩んでいくというようなイメージが近いかもしれません」
テーマへの思いが重要 出版社の連携がカギ
新人の翻訳者がいきなり抜擢されることはあまりないが、一度交流ができれば、関係性が途切れることなく、付き合いが続いていく。翻訳文が読みやすいことは大前提で、「こういうテーマのものを訳したい」という明確な思いを持つ翻訳者を求めているという。
「テーマに対する思いを持った翻訳者の方と話していると、熱量が伝わってきて『この人となら清水の舞台から飛び降りてもいいかもしれない』と思えます(笑)。縁を大事にしながら、こだわりを持ち、なおかつ売れる本を作りたいと思っています」
同社では、ジェンダーに関するテーマの本の刊行も増えており、今後も続けていく予定だ。ジェンダーの問題について書かれた人文書は多いが、そういったテーマを扱う小説の邦訳も増やしていきたいという。
「これからも日本で紹介されるべき本を発掘し、世に送り出したいと思っています。ジェンダーに関する本も、人文書だと敷居が高くて読みにくいけれど、小説だったら読んでみようと思う人がいるかもしれません。若い世代や自分のジェンダーについて悩みを抱える人たちにも、小説だからこそ伝わることが届けばいいなと思います」
また、出版社同士で協力するイベントの開催などを増やしたいと考えている。
「韓国文学を出版している出版社と合同フェアを開催したことがあって、翻訳者の方たちからもとても好評でした。韓国語を含め、英語圏以外の作品に興味を持つ出版社が増えてきているので、いわゆるマイナー言語でもイベントをもっと開催していけたらと考えています。出版社の枠を超えて、連帯できるときは連帯し、書店や読者へアプローチできる方法を試していきたいです。韓国文学がこれだけ盛り上がりを見せているように、他のさまざまな言語の作品にもファンを増やしていけたらと思います」
新刊&売れ筋📕
![精神の生活](https://tsuhon.jp/wp-content/uploads/2025/01/kankanbou1.jpg)
クリスティン・スモールウッド 著
佐藤直子 訳
2,310円(税込)
(2023年8月刊行)
不安定な地位にある非常勤講師のドロシーは、トイレで出血を確認する。流産したことを親友にも母親にも打ち明けることはできない。大学で講義し、セラピーに通い、産婦人科を訪れるが、どこにいても何をしていても世界から認めてもらえない気がしてしまう。予測不能なキャリアのなかで、自分の身体に起きた「流産」という不可解な出来事と知性によってなんとか折り合いをつけていく小説。
![私の彼女と女友達](https://tsuhon.jp/wp-content/uploads/2025/01/kankanbou2.png)
チョ・ウリ 著
カン・バンファ 訳
1,980円(税込)
(2023年4月刊行)
〈どこにいても、必ず自分を守って。それが私たちを守ることになるから〉
クィア・労働・女性問題など、今を生きる女性たちをときにリアルに、ときにさわやかな余韻で描き出すチョ・ウリ初の短編集。表題作「私の彼女と女友達」など八編を収録。
必読!書肆侃侃房のベストセラー📘
![象の旅](https://tsuhon.jp/wp-content/uploads/2025/01/kankanbou3.jpg)
ジョゼ・サラマーゴ 著
木下眞穂 訳
2,200円(税込)
(2021年10月刊行)
〈象は、大勢に拍手され、見物され、あっという間に忘れられるんです。それが人生というものです〉
1551年、ポルトガル国王はオーストリア大公の婚儀への祝いとして象を贈ることを決める。象遣いのスブッロは、重大な任務を受け象のソロモンの肩に乗ってリスボンを出発する。嵐の地中海を渡り、冬のアルプスを越え、彼らはウィーンまでひたすら歩く。ノーベル賞作家サラマーゴが最晩年に遺した史実に基づく傑作。
※『通訳翻訳ジャーナル』WINTER 2024より転載