季刊誌『通訳翻訳ジャーナル』の連載、翻訳出版社最前線をWebでも公開しています!
翻訳書を刊行している出版社で、翻訳書を担当する編集者にインタビュー!
訳書の主なジャンルや選定方法、リーディングや翻訳の依頼などについてお話をうかがいました。
<翻訳出版社最前線> 中央公論新社
📚中央公論新社📚
~Company Data~
〒100-8152 東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞ビル19F
●ホームページ:https://www.chuko.co.jp
●翻訳書刊行点数:約20点/年
●翻訳書の主なジャンル:文芸書、哲学書、ノンフィクションなど
●出版実績のある言語:英語、フランス語、アジア言語など
●原書の発掘方法:エージェント、翻訳者からの紹介など
●新人翻訳者の抜擢:基本的にはなし
●リーディング:しないことが多い
書籍編集局 ノンフィクション編集部 / 書籍編集局 文芸編集部 編集委員
各編集部から幅広い分野の訳書を刊行
明治時代創刊の『中央公論』、大正時代創刊の『婦人公論』で知られる中央公論新社。創業は1886年で、1999年からは読売グループの一員となって広範な出版活動を展開している。小説家であり翻訳家でもある村上春樹氏の初の訳書『マイ・ロスト・シティー』(スコット・フィッツジェラルド/1981年刊)は同社から刊行され、新書版のシリーズ「村上春樹翻訳ライブラリー」には27冊の背が並ぶ。現在の翻訳書の刊行点数は、年間20点ほどで、文芸書や哲学書、ノンフィクション分野のものが多い。
「翻訳書専門の部署はなく、文芸編集部やノンフィクション編集部、文庫編集部など、それぞれの部署の編集者が、良いと思った本があれば企画を出しますので、訳書の分野は幅広いです。村上春樹さんの訳書は文芸編集部が担当しており、かつて刊行されていた文芸雑誌『海』に村上さんが翻訳をしたフィッツジェラルドの作品が掲載されたことがきっかけではじまっています。他の編集部からは、歴史物や戦記物がコンスタントに出版されています」(横田さん)
翻訳者や言語との縁が大切
英語やフランス語が原書の訳書が多いが、最近ではアジア言語の作品の取り扱いも増えているという。2024年7月に授賞式が行われた第十回日本翻訳大賞※では、原書が繁体字の作品である『台湾漫遊鉄道のふたり』(楊双子 著/三浦裕子 訳)が大賞に輝いた。編集を担当したのは、自身も中国語を学び、台湾に滞在したこともある石川由美子さんだ。石川さんはこれまでにも台湾にルーツをもつ作家の出版に携わっており、「台湾好きの編集者がいるなら会いたい」と台湾と香港の出版物を専門に扱うエージェント、太台本屋(tai-tai books)から声がかかった。
※ 日本翻訳大賞は、過去1 年(前々年12月1日~翌年12月末までの13ヵ月間)に発表された翻訳作品のうち、「最も賞讃したいものに贈られる」というもの。
「フェミニズムをテーマとした書籍を担当することも多いため、太台本屋さんにその分野の台湾作品があればぜひ教えてほしい、とお願いしてご紹介いただいたのがこの本でした。編集者が原書の言語を少しでも理解できたり親しみがあったりするに越したことはないので、当社では編集者それぞれがなじみのある言語の翻訳書を担当することが多いです」(石川さん)
このように縁や付き合いがあって訳書の刊行が決まることが多いため、リーディングに出すことはあまりない。翻訳も、ゆかりのある翻訳者に依頼することがほとんどだが、過去にはこんな例もあった。
「当社で出版したサイエンス系ノンフィクション作品の訳書を読み、『中央公論新社でこういうジャンルの本を出しているのなら、ぜひ翻訳したい作品がある』といくつか企画や資料を持ち込んでくれた読者の方がいて、それが出版にいたったことがあります。自社の出版物に対して反応があるのはうれしいですし、当社で出す意味がある作品を提案していただければ、そこからつながりが生まれることもあります」(横田さん)
持ち込んだ企画がマッチすれば訳書が出版できる可能性もあるが、その際にやはり重要なのは翻訳者としての力量だ。
「本の分野に関する知識と外国語能力はもちろん、最終的に求められるのは、日本語の文章力です。文芸であれば台詞回しの自然さや小説全体の雰囲気、ノンフィクションであれば一般読者が無理なく読めるような工夫があると良いと感じます。読み手の頭にすっと入ってくるような訳文を書くことのできる日本語センスは、やはり重要だと思います」(横田さん)
海外作品に共感し、学びを得る
翻訳書のおもしろさは、違う国の人が書いた作品に共感できる点だと横田さんは語る。
「なじみのない国や文化の作品を読むと、違いや他者性を感じると思います。一方で、自分との共通点や通じ合う部分が見つかる喜びは母語の作品以上に大きかったりします。そこが不思議で魅力的だと思います」
また、翻訳出版には社会的な意味もある。普段触れることのない海外の情報や考え方を輸入することができるからだ。
「翻訳書は、異なる背景を抱えた他者の社会的、歴史的問題を理解することで、お互いをエンパワーメントする可能性を秘めているように思います。英語の作品からはもちろんですが、地理的に近いアジア作品やマイナー言語作品から学ぶことは多く、出版することに大きなやりがいを感じます」(石川さん)
新刊&売れ筋📕
必読!中央公論新社のベストセラー📘
※『通訳翻訳ジャーナル』AUTUMN 2024より転載