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季刊誌『通訳翻訳ジャーナル』の連載、翻訳出版社最前線をWebでも公開しています!
翻訳書を刊行している出版社で、翻訳書を担当する編集者にインタビュー!
訳書の主なジャンルや選定方法、リーディングや翻訳の依頼などについてお話をうかがいました。
<翻訳出版社最前線> アストラハウス
📚株式会社アストラハウス📚
~Company Data~
〒107-0061 東京都港区北青山3-6-7 青山パラシオタワー11F
●ホームページ:https://astrahouse.co.jp
●翻訳書刊行点数:約3〜4点/年
●翻訳書の主なジャンル:外国文芸
●出版実績のある言語:中国語、韓国語、英語、イタリア語、フランス語
●原書の発掘方法:エージェントからの紹介が基本
●新人翻訳者の抜擢:基本的にはなし
●リーディング:中国語と韓国語は林さんが担当、ほかの言語は翻訳者に依頼することもある

代表取締役
中国の作品をメインに優れた文学を日本に紹介
2014年に創業し、20年から外国文芸を中心に翻訳出版を行う株式会社アストラハウス。代表取締役の林雪梅さんは中国出身で、1997年に来日してから約20年間、出版社で版権業務に携わっていた。そうした経験を生かし、同社では翻訳出版に加え、日本の書籍を中国へ紹介する版権紹介事業も行っている。
「中国の出版社から『この本を出版したい』という希望があれば、日本の版元に連絡を取り、交渉を進めています」
同社は、中国の優れた文学を日本に紹介することを目標にスタートした。そのため、中国文学の翻訳書が最も多いが、韓国語や英語、イタリア語、フランス語といった多言語の翻訳出版も手がけている。
「韓国語や欧米言語の書籍は、基本的にエージェントに紹介された作品の中から選んでいます。中国語の書籍については、取引のある中国の出版社から推薦された作品の中から選定しています。中国語と韓国語の書籍は、私自身が一度原書を読んだ上で、内容を踏まえて編集者と相談しています」
刊行する本の決定の際は編集者の意見を重視
中国語の書籍の場合、原著者によって訳者がある程度決まっていることも多いという。
「たとえば『長恨歌』の訳者の飯塚先生は、中国近現代文学や演劇を専門に研究されている大学教授で、中国を代表する現代小説家、余華のほとんどの作品を翻訳しています。中国語の書籍の翻訳は、以前からお付き合いのある大学の教授や講師にお願いすることが多いため、すでに作家と訳者との信頼関係が築かれています」
一方、韓国語や欧米言語の書籍に関しては、同社の編集者が作品ごとに翻訳者を選定している。
「編集者が、作品の文体や内容に合う翻訳者を探します。すでに書籍の翻訳経験がある方にお願いすることが多いです」
同社のスタッフは林さんに加え、編集者と編集補佐の計3名。小規模な出版社だからこそ「いい本に巡り合えば、熱意を込めてじっくり出す」ことを大切にしている。また、刊行する書籍を選ぶ際は、編集者の意見を尊重している。
「私が『この本を出したい』と言っても、編集者がピンとこなければ意味がありません。編集者と相談した結果、契約を見送ったこともあります。編集者が本当に出したいと思った作品だけを手がけているので、どの本にも強い想いが込められています」
また、書籍の装丁デザインに力を入れているのも、同社の特長だ。どのような装丁に仕上げるのかは、編集者の腕の見せ所でもある。例えば『長恨歌』の表紙はイラストではなく、実物の美術作品を主人公のイメージでオーダーし、撮影した写真を用いているという。
「表紙のデザインに惹かれて弊社の本を購入してくれる方も多いようです。『表紙のイラストの原画が欲しい』と原著者に依頼されたこともあります」
中国の伝統や暮らしを 文学から読み取ってほしい
今後の目標の一つが、1冊でも多くの翻訳書を読者に届けるため、中国文学を盛り上げることだ。
「当社は小さな出版社なので、他の出版社と協力し合うことも必要だと思っています。韓国の本を盛り上げるためのイベント『K-BOOKフェスティバル』が毎年行われていますが、中国の本を刊行する出版社でもこういったイベントを開催できればと考えています」
今後も「よい本を真剣に、丁寧に選んで出していく」という姿勢は変わらない。また、中国文学を通じて、文学でしか表現することのできない中国の伝統や人々の生活を伝えていきたいという。
「第11回日本翻訳大賞(*)を受賞した『ハリネズミ・モンテカルロ食人記・森の中の林』には、三つの物語が収録されており、100年前から現代までそれぞれの時代の中国が描かれています。『長恨歌』は、1940年前後の上海の世相を書いた作品です。どちらの作品にも中国のその時代のリアルな空気が反映されています。こうした文学でしか描けない魅力的な世界を日本の読者にもぜひ知ってほしいです」
(*)日本翻訳大賞とは、過去1年(前々年12月1日〜翌年12月末までの13ヵ月間)に日本で発表された翻訳作品のうち、最も賞讃したいものに贈られる賞。
新刊&売れ筋📕

イ・ソス 著
古川綾子 訳
2,200円(税込)
(2024年11月刊行)
スギョンは失業中の30代。同居の家族は「個人投資家」の夫と、スギョンの両親、さらに高校生と小学生の甥っ子が2人。6人家族で、お金を稼いでくる大人が1人もいない。ソウルにある古くて狭い2DKのマンションに住む6人家族のリアルな暮らしぶりを、ユーモアたっぷりに描き出す。韓国で「ハイパーリアリズム小説の傑作!」と賞賛された話題作。

王安憶(おうあんおく) 著
飯塚 容(いいづか ゆとり) 訳
3,520円(税込)
(2023年8月刊行)
「ミス上海の死」を描いた、中国文学の記念碑的作品、待望の邦訳! 上海の街を舞台に、美しき主人公、王ワン琦チー瑶ヤオの青春から死に至る40年を描く長編小説。1940年代の虚栄の繁華、50~60年代の困窮と苦難、そして80 年代のロマン的悲劇まで、恋多き主人公の人生を通して、上海という街の繁栄と虚栄が描かれた傑作。
必読! アストラハウスのベストセラー📘

鄭執(ていしつ) 著
関根 謙 訳
2,420円(税込)
(2024年10月刊行)
作家、脚本家、映像作家として活躍する中国の若きクリエイター、鄭執による注目作。中国東北部の中核都市、瀋陽の街で繰り広げられる個性的な3つの物語を収録している。内向的な青年と変わり者の伯父との交流を描いた「ハリネズミ」をはじめ、作中には中国東北部の歴史や文化が反映されている。2024年には「ハリネズミ」が著者自身の脚本で映画化された。
※『通訳翻訳ジャーナル』AUTUMN 2025より転載 取材/上原 純