季刊誌『通訳翻訳ジャーナル』の連載、翻訳出版社最前線をWebでも公開しています!
翻訳書を刊行している出版社で、翻訳書を担当する編集者にインタビュー!
訳書の主なジャンルや選定方法、リーディングや翻訳の依頼などについてお話をうかがいました。
📚小学館📚
~Company Data~
〒101-8001 東京都千代田区一ツ橋2-3-1
●ホームページ:https://www.shogakukan.co.jp
●翻訳書刊行点数:児童書の翻訳書は約20〜25点/年
●翻訳書の主なジャンル:児童書、文芸書、実用書など
●出版実績のある言語:英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語など他多数
●原書の発掘方法:ブックフェアへの参加、翻訳者からの紹介など
●新人翻訳者の抜擢:基本的にはなし
●リーディング:付き合いのある翻訳者に頼むことが多い
第二児童学習局 プロデューサー 児童創作 室長
小学生対象の学年別学習雑誌からスタートし、2022年に創立100周年を迎えた大手出版社、小学館。コミック・雑誌・書籍と多数の出版物を幅広い年代に向けて刊行する総合出版社で、翻訳出版も児童書のほか、文芸、ミステリ、ノンフィクション、実用書など、さまざまなジャンルで実績がある。
教育系の出版からはじまったという歴史から児童向けの本に強みを持つ同社の中で、児童書の翻訳書を扱っているのが児童創作部門だ。多数のヒット作を生み出しているが、中でも2001年に日本で1作目を翻訳出版したイギリスのファンタジー「ダレン・シャン」シリーズは、12巻で累計700万部を超えるロングセラーとなっている。また、2022年には子ども向けの文学全集『小学館世界J文学館』(新訳81作、本邦初訳24作/全125作)を、1冊の書籍を購入すると125冊分の電子書籍が読めるという斬新なスタイルで刊行するなど、新たな取り組みも続ける。
訳書選定のため
ブックフェアに参加
現在の翻訳書の刊行点数は、児童書に絞ると絵本も含め年間約20〜25点。翻訳出版の候補となる原書の発掘には、著作権エージェントや翻訳者からの紹介、地道な情報収集などさまざまなルートがあるが、特に重視しているのは海外のブックフェアだ。児童創作室長の喜入今日子さんは、フランクフルト・ブックフェアと児童書の見本市であるボローニャ・ブックフェアに参加している。
「海外の出版社やエージェント、本の著者と約30前後のミーティングを行い、紹介された作品の中から選書していきます。編集者としての目線で良いと思った本をいくつかリストアップした上で情報を集め、絞りこんでいきます」
最終的にリーダーに本を読んでシノプシスをまとめてもらい、さまざまな条件を鑑みた上で出版する本を決定する。翻訳してほしいと思う翻訳者に部分的に翻訳をしてもらい、その訳文をみてから決めることもある。
「刊行できる点数には限りがあります。リーディングの段階で、その本を日本の子どもたちに訳して届ける価値があるのかどうかを見極めなければなりません。海外で受賞歴のある作品でも、日本特有の環境・時代背景もありますから、日本にうまくフィットするかというのはまた別問題です。その見極め作業を一緒にしてくださる、信頼のおけるリーダーの方に本を読んでもらうことは、とても大切です」
多くはないが、過去には持ち込まれた作品が出版につながったケースもある。また、付き合いのない翻訳者でも、持ち込みや紹介などの際にその人の訳文に触れ、それがすばらしければ、リーディングや翻訳を依頼することもあるという。翻訳者には、語学力はもちろんのこと、本の感動を伝えることのできる表現力や文章力が求められる。訳文の日本語としての美しさや読みやすさに加え、児童書ならではの翻訳スキルも必要だ。
「海外と日本では生活環境がまったく異なります。海外の風物を子どもにもわかりやすいよう工夫して翻訳するなど、細やかな配慮も必要です」
訳書を読むことが
世界を広げるきっかけに
翻訳書の魅力は、国内の作品とは異なる独自の世界観を描ける作家の本を紹介できることだという。
「子どもたちにとって海外の本を読むことが、日本だけではなく世界のことを知り、世界を広げるきっかけになります。そこに翻訳書の意義がありますし、翻訳書の出版は続けていきたいです」
円安が続き版権料も上がっているため、翻訳出版業界は厳しい状況下にあり、先行きも不透明である。厳しい状況を乗り越える突破口はやはり、「良い本」を出版することに尽きる。
「良い作品を探して、その本を『良い形』で出版するのが、難しいけれど一番の解決方法なのではないかと思います。『良い形』というのには、その本にピッタリの翻訳者さんに訳してもらうこと、本の形態(装丁デザインや判型など)がその本に合っていること、出版時期が世の中の動きとマッチしていることなど、さまざまな要素があります。海外の本を良い形で読者に届けていきたいと思っています」
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※『通訳翻訳ジャーナル』SUMMER 2024より転載